遺留分|遺産総額約24億円の相続で、代襲相続人の孫2名が約1億9,700万円を回収した事例
公開日:2026年10月17日
※本記事は実際の事案をもとに、依頼者のプライバシー保護のため、一部内容を変更・省略しています。
本事例の結論と解決のポイント
祖母は公正証書遺言で、総額約24億円の遺産のうち、賃貸マンションなどの不動産6物件と預貯金の大半を、子である叔父2名に遺しました。父が先に亡くなっていたため相続人となったご依頼者様(孫2名)に遺されたのは、預金約3,000万円ずつでした。
当事務所は、孫にも代襲相続人として遺留分があることを前提に、叔父2名に遺留分侵害額を請求しました。争点は不動産の評価に絞られ、調停では折り合わなかったため、訴訟で全物件の鑑定を裁判所に申し出て、評価を確定させました。
結果、ご依頼者様は1名あたり、遺留分侵害額約9,304万円と遅延損害金約563万円の計約9,867万円、2名で約1億9,700万円を受け取り、訴訟上の和解で解決しました。立て替えた鑑定費用も、半額を相手方に負担させています。
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解決のポイント
- 孫(代襲相続人)の遺留分は、親の相続分を兄弟で分けた割合の2分の1。本件では各16分の1
- 調停で動かなかった不動産6物件の評価を、裁判所鑑定で一度に確定させた
- 相手方の一部弁済は、法律の定める順序どおり、まず遅延損害金に充当させた
- 鑑定費用は、原告側と被告側の折半で合意した
孫の遺留分と、不動産・遅延損害金の扱い
孫も、代襲相続人として遺留分を持つ
相続人となるはずだった子が先に亡くなっているときは、その子(被相続人の孫)が代わって相続人になります(民法887条2項)。孫の相続分は親が受けるはずだった相続分と同じで、兄弟が複数いれば等分します(民法901条)。遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人にその相続分の2分の1が保障されます(民法1042条)。本件では子4名のうち1名が先に亡くなっており、孫2名の法定相続分は各8分の1、遺留分は各16分の1でした。
遺産の評価が、そのまま請求額を決める
遺留分侵害額は、相続開始時の遺産の価額をもとに計算します(民法1043条1項)。遺産の大半が不動産であれば、その評価額が請求額をほぼ決めます。収益物件の評価は、賃貸を続ける前提か、建物を取り壊して開発する前提かで、億単位の差が出ることもあります。
受遺者が複数なら、負担の割合も計算する
遺言で財産を受けた人(受遺者)が複数いるときは、各自が受けた財産の価額のうち、その人自身の遺留分を超える部分の割合に応じて、遺留分侵害額を負担します(民法1047条1項柱書・2号)。本件でも、叔父2名それぞれに請求する金額をこの割合で計算しました。評価額が変われば、この割合も変わります。
支払が遅れれば、年3%の遅延損害金がつく
遺留分侵害額請求権を行使すると、金銭の支払を求める権利になります(民法1046条1項)。具体的な金額を請求した後は、支払済みまで法定利率年3%の遅延損害金が生じます(民法412条3項・404条)。解決まで数年かかれば、その額は無視できません。
【事案の概要】遺産総額約24億円、その大半を不動産が占める相続
| 項目 | 内容 |
| 被相続人 | 祖母 |
| 相続人 | 子3名と、先に亡くなった子の代襲相続人である孫2名(ご依頼者様) |
| 遺言 | 公正証書遺言。不動産6物件と預貯金の大半を叔父2名に、ご依頼者様には預金各約3,000万円 |
| 遺産 | 総額約24億円。内訳は不動産6物件(賃貸マンション等の収益物件4か所と、叔父らの自宅2か所)約19億円、預貯金等約5億円。ほかに不動産の借入金など負債約4億円 |
| 相手方 | 遺言で財産を取得した叔父2名(代理人弁護士あり) |
| 主な争点 | 不動産6物件の評価(当方と相手方の評価額の差は8億円以上)/一部弁済の充当/鑑定費用の負担 |
| 手続 | 内容証明郵便による請求→家庭裁判所の調停(不成立)→地方裁判所の訴訟(裁判所鑑定)→訴訟上の和解 |
| 結果 | 1名あたり約9,867万円、2名で約1億9,700万円(遅延損害金を含む) |
ご相談は、祖母が亡くなって約1か月後のことでした。相手方にはすでに代理人弁護士がついており、遺言の内容を知ったご依頼者様は、遺された財産が遺産全体のごく一部にとどまることに疑問を抱いていました。親族同士で直接話し合える状況ではなかったため、当事務所が窓口となりました。
不動産はいずれも賃貸借契約やローンが付いた収益物件が中心で、相手方が管理していたため、ご依頼者様の手元には評価の資料がほとんどありませんでした。まず登記事項証明書や固定資産税の資料、遺言執行者が作成した財産目録を集め、複数の不動産会社の査定を取って、請求額の試算から始めました。
当事務所の対応と交渉の経過
1 期限内に請求し、遅延損害金の起算点を確保した
遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈等を知った時から1年で時効により消滅します(民法1048条)。当事務所は受任後に遺産の資料を集めて試算し、内容証明郵便で請求の意思表示をしたうえで、1名あたり約1億4,100万円の具体的な金額を請求しました。この請求の翌日が、遅延損害金の起算日になります。
2 調停で動かない評価を、裁判所鑑定で確定させた
相手方は不動産鑑定士の鑑定評価書を出し、譲りませんでした。当方の査定との差は、8億円以上に上りました。当事務所も別の不動産鑑定士に意見書を依頼して問題点を指摘しましたが、評価の溝は埋まりませんでした。争いの少ない物件から先に合意する提案にも相手方は応じず、約10か月、5回の期日を重ねた調停は不成立となりました。
そこで訴訟を提起し、全6物件の鑑定を裁判所に申し出ました。当事者がそれぞれ依頼した鑑定は、一方の主張を支える資料にとどまります。裁判所が選んだ鑑定人の評価を得て、争点そのものを終わらせる狙いでした。物件ごとに鑑定人を分けると判断の物差しがそろわないため、1人の鑑定人に全物件を評価してもらうよう求めました。
3 鑑定費用の予納を拒まれても、手続を止めなかった
相手方は鑑定費用の予納を拒む一方、遅延損害金の増加を抑えるため、争いのない範囲で先に支払いたいと申し出ました。当事務所はこれを受け入れて1名あたり約6,200万円を受領し、その中から鑑定費用約460万円を立て替えて予納しました。
鑑定の結果、6物件の評価額は約19億円となり、相手方の主張に近い水準でした。違いは、収益物件を賃貸を続けたまま評価するか、取り壊して一体開発する前提で評価するかという判断に由来し、鑑定の誤りを指摘できる性質のものではありませんでした。裁判所は専門家である鑑定人の判断を尊重するのが通常で、再鑑定を求めても、費用と時間をかけたうえで結論が変わる見込みは乏しいと判断しました。ご依頼者様と協議し、鑑定結果を争わず、これを前提に遅延損害金を含めて確実に回収する方針を選びました。
4 清算の計算でも譲らなかった
清算の段階で相手方は、先の一部弁済を全額元本に充当すべきだと主張しました。しかし民法489条1項は、元本のほか遅延損害金を支払うべき場合、まず遅延損害金に、次いで元本に充当すると定めています。この場合、当事者の一方が順序を指定することはできません(民法488条1項括弧書き)。この点を指摘し、法定の順序による当方の計算どおりで合意しました。
鑑定費用についても相手方は、結果が自らの主張に近いことを理由に負担を拒みました。当事務所は、双方が同意して実施した鑑定が解決につながったことを指摘し、原告側と被告側で折半とすることで合意しました。
5 相続税の申告は、別々の税理士が連携して進めた
相続税の申告は、当事者間の対立が深かったため、ご依頼者様側と相手方側で別々の税理士に依頼することとしました。もっとも、同じ遺産について評価や申告の内容が食い違えば、後の修正申告や更正の請求でも混乱が生じます。そこで当事務所が間に入り、税理士同士で連携してもらい、資料の融通や申告方針のすり合わせなどを行ってもらうよう調整しました。和解後の相続税の精算も、この連携を前提に進めています。
解決結果
訴訟上の和解が成立し、相手方は支払期限を待たずに翌日、残額と鑑定費用の負担分を支払いました。受任から解決まで、約2年10か月でした。
| ご依頼者様1名あたり | 金額 |
| 遺留分侵害額(鑑定結果による) | 約9,304万円 |
| 遅延損害金(年3%) | 約563万円 |
| 受領総額 | 約9,867万円(2名で約1億9,700万円) |
| 鑑定費用 | 約460万円のうち、相手方が半額の約230万円を負担 |
遺留分の支払に伴う相続税は、受け取った側が修正申告を、支払った側が更正の請求をして精算することを和解条項に定め、計算の方法も事前に双方で確認しました。
IGTからのコメント
本件で目指したのは、評価の争いを長引かせずに決着させ、決着した金額を取りこぼさずに回収することでした。
不動産の評価は、双方が自分に有利な鑑定を出し合う限り平行線が続きます。裁判所鑑定は、費用をかけてでも争点を一度で終わらせる手段です。本件の結論は相手方寄りでしたが、評価が確定したことで、残る争点は計算の問題だけになりました。
その計算で差がつくのが、遅延損害金と一部弁済の扱いです。請求から解決まで2年以上かかれば、遅延損害金は数百万円になります。途中で一部の支払があったときは、それを遅延損害金と元本のどちらから充てるかによって、残る金額が変わります。
和解の形で終えたことにも意味があります。主な金額の支払がすでに済んだ段階で、残る数十万円や鑑定費用だけを理由に判決まで争えば、さらに時間がかかります。裁判所も双方の計算を突き合わせて調整を促し、最後は双方が受け入れられる条項にまとまりました。相続税の精算方法まで和解の段階で決めておいたことで、和解後に親族間で新たな争いが生じる余地も小さくなりました。
相続人が孫であっても、遺留分は請求できます。遺言の内容に疑問を持ったら、1年の期限が過ぎる前にご相談ください。
【FAQ】孫の遺留分・不動産の評価に関するよくある質問
Q1. 父が祖母より先に亡くなっています。孫の私も遺留分を請求できますか。
できます。親が先に亡くなっていれば、孫が代襲相続人として相続人になり(民法887条2項)、遺留分も持ちます。割合は、親の相続分を兄弟で等分した相続分の2分の1です(民法901条・1042条)。請求は、相続の開始と遺留分を侵害する遺言等を知った時から1年以内に行う必要があります(民法1048条)。
Q2. 相手方が出してきた不動産鑑定書に納得できません。
まず別の不動産鑑定士の意見を取り、評価の前提(賃貸を続けるか、開発を前提とするか等)のどこが違うのかを確かめます。それでも折り合わなければ、訴訟で裁判所に鑑定を申し出る方法があります。裁判所の鑑定は、明らかな誤りがない限り尊重される傾向にあるため、申出の前に見通しを検討しておくことが大切です。
Q3. 裁判所の鑑定費用は誰が負担しますか。
申し出た側がいったん予納し、最終的には、判決であれば勝敗の割合などに応じて、和解であれば話合いで負担を決めます。本件では約460万円を当方が立て替え、和解で原告側と被告側の折半としました。
Q4. 遺留分を受け取ったら、相続税はどうなりますか。
受け取った側は相続税が増えるため修正申告を、支払った側は減るため更正の請求をします。更正の請求は、支払う額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内に行います(相続税法32条1項3号)。計算の方法がずれないよう、和解の前に税理士を交えて確認しておくと安心です。
Q5. 遺留分を請求する相手が2人います。それぞれにいくら請求すればよいですか。
遺言で財産を受けた人が複数いるときは、各自が受けた財産の価額から、その人自身の遺留分を差し引いた額の割合に応じて負担します(民法1047条1項柱書・2号)。単純に人数で割るのではありません。不動産の評価が変わると負担の割合も変わるため、評価が確定した段階で計算し直す必要があります。
(※法律上の見解は一般的な事例に基づくものであり、具体的な状況により結論は異なります。詳しくは弁護士法人IGT法律事務所の初回無料相談をご利用ください。)
参考(一次情報)
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【この記事の執筆者】
執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)
弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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※ 本記事は、公開日(2026年10月17日)時点の法令、判例、実務に基づき作成しています。解決の結果は個別の事情を前提としたもので、同様の結果をお約束するものではありません。



