遺留分|支払う側の戦略。遺産の評価に踏み込まず、亡くなる直前に入籍した配偶者からの請求を後方支援で約1か月で解決した事例

遺留分侵害額請求の解決事例:支払う側の戦略として遺産の評価に踏み込まず、約1か月で合意した事例

遺留分|支払う側の戦略。遺産の評価に踏み込まず、亡くなる直前に入籍した配偶者からの請求を後方支援で約1か月で解決した事例

公開日:2026年11月1日

※本記事は実際の事案をもとに、依頼者のプライバシー保護のため、一部内容を変更・省略しています。

本事例の結論と解決のポイント

会社の経営に携わっていた70代の女性が亡くなり、自筆証書遺言が見つかりました。遺言は、長年連れ添った内縁の夫に金2,000万円を遺し、その余の財産をすべて養子2名に2分の1ずつ遺す内容でした。女性は亡くなる直前に病院でこの男性と入籍しており、男性は法律上の配偶者として遺留分を主張しました。遺言で財産を受けた養子側のご依頼者様は、遺留分を支払う側に立つことになりました。

ご相談は、ご家族の顧問税理士からの照会で始まりました。ご家族は、弁護士が代理人として前に出ると相手方が身構え、話がこじれることを心配していました。そこで当事務所は代理人にはならず、ご家族と税理士の後ろで、法的な見通しの説明、交渉方針の助言、遺産分割協議書の作成を担う「後方支援」の形をとりました。

当事務所が支払う側として最初に立てた戦略は、遺産の評価には踏み込まず、金額を早期にとりまとめて合意書を交わすことに専念する、というものでした。遺産には非上場会社の株式や自宅不動産が含まれ、評価を争い始めれば、双方が鑑定を出し合って収拾がつかなくなるおそれがあったからです。遺産分割協議書という形式、清算条項、弁護士が表に出ない進め方は、すべてこの戦略から組み立てました。

結果、遺言の2,000万円を含む代償金総額1億円超で、遺留分を含め一切の請求をしないことを確認する清算条項付きの遺産分割協議書に、相続人全員が署名押印しました。税理士からの照会から約1か月、受任からは24日での解決です。

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解決のポイント

  • 支払う側として、遺産の評価には踏み込まず、金額のとりまとめと合意書の締結に専念する戦略を最初に設計した
  • 婚姻期間の短さや死後離婚では配偶者の遺留分(4分の1)は減らないと、早期に見極めた
  • 遺言の執行に支障があったため、遺産分割協議書で解決した
  • 遺留分を含む清算条項は、相手方が難色を示しても外さなかった
  • 弁護士は表に出ず、ご家族側の窓口役と税理士を支えた

配偶者の遺留分と、遺産の評価をめぐる争い

婚姻期間が短くても、死後離婚をしても、配偶者の遺留分は変わらない

子(養子を含む)と共に相続する配偶者の法定相続分は2分の1です(民法900条1号)。遺留分はその2分の1が保障されるため(民法1042条)、本件の配偶者の遺留分は4分の1でした。婚姻期間の長さで遺留分を調整する規定はありません。いわゆる死後離婚(姻族関係終了届、民法728条2項)も、死亡時に確定した相続権や遺留分には影響しません。

遺産の評価を争うと、遺留分の争いは収拾がつかなくなりやすい

遺留分は、相続開始時の遺産の価額をもとに計算します(民法1043条1項)。非上場株式は、相続税の評価額と時価とが一致せず、純資産、収益、配当のどれを重視するかで評価が大きく変わります。不動産も、鑑定の前提次第で金額が動きます。双方が有利な評価を出し合えば、鑑定の費用と時間がかさみ、話合いは平行線になりがちです。当事務所が扱った別の遺留分事例でも、不動産の評価をめぐって裁判所の鑑定まで進み、受任から解決まで約2年10か月かかりました。

支払う側にとっては、評価の議論を始めること自体がリスクになる

請求する側は、評価を詰めて金額を上げにいくのが基本です。これに対し支払う側にとっては、評価の議論を始めること自体が、支払額の上振れと長期化のきっかけになりかねません。事案によっては、評価の議論に入る前に金額を固めることが、支払う側の有効な戦略になります。

【事案の概要】顧問税理士から「減額できる要素はないか」という照会

 

項目 内容
被相続人 70代女性。非上場会社の経営に携わっていた
相続人 配偶者(相手方。亡くなる直前に入籍)と、被相続人の姉の子である養子2名(ご依頼者様はそのお一人)
ご依頼者様の立場 遺言で財産を受け、遺留分を請求された側(支払う側)
遺言 自筆証書遺言。配偶者(作成時は内縁)に金2,000万円、その余の財産を養子2名に各2分の1
遺産 自宅不動産、預貯金、非上場会社の株式など。総額は億単位
ご相談の経緯 ご家族の顧問税理士から当事務所への照会
当事務所の役割 後方支援(見通しの説明、交渉方針の助言、遺産分割協議書の作成)。代理人としての交渉はしない
結果 遺言の2,000万円を含む代償金総額1億円超、清算条項付きの遺産分割協議書で解決

 
相手方の提示額は、遺言どおりの2,000万円から、短期間のうちに数回引き上げられ、1億円に達していました。ご家族は、できれば減額し、早く協議書に押印してもらって終わらせたいと考えていました。

当事務所の対応と交渉の経過

1 遺産の評価には踏み込まないと、最初に決めた

照会を受けた当日、税理士宛ての回答書をお送りしました。婚姻期間の短さや死後離婚は遺留分に影響せず、ご家族自身が婚姻届の証人である以上、婚姻無効(民法742条1号)を主張する余地もありません。受取人の指定がある生命保険金は原則として遺留分の計算に含まれず(最判平成14年11月5日)、規程に基づく死亡退職金も同様です。確実な減額要素は、2,000万円の遺贈の控除(民法1046条2項1号)だけでした。

この見通しを踏まえ、当事務所は、支払う側から減額を求めて遺産の評価に踏み込むことはしない、と方針を定めました。評価の議論を始めれば収拾がつかなくなり、解決が何年も先に延びるうえ、請求額がかえって上がるおそれもあったからです。ご家族が望んでいたのは、早く確実に終わらせることでした。そこで、提示額でまとまるうちに金額をとりまとめ、二度と請求されない合意書を交わすことに専念しました。

2 遺言を執行せず、遺産分割協議書で解決すると決めた

遺言書の写しを拝見すると、そのまま執行するには支障となり得る点がありました。作成時は婚姻前で相続人ではなかった相手方に「相続させる」と書かれていたこと、本文の訂正が民法の定める方式(民法968条3項)を満たしていない疑いがあったこと、金融機関名や口座番号の表記が実際と一致しなかったことです。預金の払戻しや登記の手続が止まるおそれがありました。

そこで、相続人3名全員の遺産分割協議書で解決する方針をとりました。相続人全員が合意し、遺言執行者に指定された方の同意を得れば、遺言と異なる分割も実務上可能です。この方法なら、万一遺言が無効とされ、相手方が法定相続分2分の1を主張するリスクも同時に断てます。

3 弁護士は表に出ず、ご家族側の窓口役と税理士を支えた

ご家族と相手方は、直接話すと感情的になりやすい関係でした。そこで、親族の方が相手方との窓口を務め、税理士がこれを支え、当事務所はその後ろで方針と書面を担う役割分担にしました。

協議書は、税理士のたたき台の体裁を大きく変えずに作り直し、清算条項も「一般的に入れている条項」として示しました。相手方を身構えさせず、合意までの流れを保つためです。

4 清算条項だけは外さなかった

たたき台には、相手方の取得額が遺言どおり2,000万円とあるだけで、清算条項がありませんでした。この形で押印しても遺留分侵害額請求権は残り、後から差額を請求されれば防げません。

当事務所は、相手方の取得を代償金として定め、遺留分侵害額請求権、遺言に基づく請求権、生命保険金・死亡退職金に関する請求権など、名目を問わず一切の債権債務がないことを確認する清算条項を入れました。「やぶへび」のおそれはありましたが、条項がなければ早期に合意する意味がありません。

調印を予定していた日、相手方は押印を見送りました。最初は贈与税の心配を口にしていましたが、話すうちに、清算条項がこのままなら押印できないという趣旨に変わりました。

当事務所は、代償金は相続税の対象で贈与税の問題ではないこと、配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)によりこの水準なら相手方の税負担はほとんど生じないこと、分割がまとまらなければ相手方自身がこの軽減を受けにくくなることを整理し、税理士と共有しました。ご家族には、清算条項の修正に応じると受け取られる発言はしないよう助言しました。

その後、相手方から、金額の上乗せを求める連絡がありました。ここで金額の議論を長引かせれば、評価の争いに戻りかねません。当事務所は、清算条項を維持できるならこの金額で確定させるべきだと判断し、代償金の額だけを改めた協議書を用意しました。相手方は「金額の変更のみ、その他は変更なし」で承諾し、その4日後に相続人全員と遺言執行者の署名押印がそろいました。

解決結果

 

項目 内容
照会から調印まで 約1か月(受任から24日)
相手方の取得 代償金総額1億円超(遺言の2,000万円を含む)
ご依頼者様側の取得 自宅不動産、預貯金、株式など、その余の遺産のすべて
清算条項 遺留分侵害額請求権を含め、一切の債権債務がないことを確認
自宅の明渡し 配偶者居住権は取得しない。明渡しの時期と方法は別途協議

 

IGTからのコメント

本件の成否を分けたのは、最初の戦略設計でした。

遺留分を支払う側は、まず減額できる理由を探し、遺産の評価を争いたくなります。しかし、非上場株式や不動産を含む遺産で評価に踏み込めば、双方の鑑定が並び、収拾がつかなくなります。当事務所は照会の当日に見通しを示し、評価には踏み込まず、金額を早期にとりまとめて合意書を交わすことに専念すると決めました。遺産分割協議書という形式、清算条項、弁護士が表に出ない進め方、相手方の税の不安への説明は、すべてこの一つの目標から逆算したものです。その戦略が奏功し、照会から約1か月で相続人全員の調印に至りました。

早く終えることを優先しても、清算条項は譲りませんでした。遺留分を含めて「これで終わり」と書面に残さなければ、早期解決の意味がないからです。

弁護士が代理人として前に出ることが、いつも最善とは限りません。相手方が弁護士を立てておらず、顧問税理士が間に入っているような場面では、弁護士が後ろに控えて方針と書面を支えるほうが、早く穏やかにまとまることがあります。費用も、代理人として交渉を担う場合より抑えた定額で対応しました。

【FAQ】配偶者の遺留分・後方支援に関するよくある質問

Q1. 結婚して間もなく亡くなった場合でも、配偶者に遺留分はありますか。

あります。婚姻期間の長さで相続分や遺留分を調整する規定はなく、子と共に相続する配偶者の遺留分は4分の1です(民法900条1号・1042条)。

Q2. 遺留分を請求されました。遺産の評価を争って減額を目指すべきですか。

事案によります。評価の差が大きく、争う費用と時間に見合うなら、争う意味があります。一方、非上場株式や不動産が中心で、評価を争うと長期化し、かえって請求額が上がるおそれがある場合は、評価に踏み込まず、早期に金額をとりまとめて清算条項付きの合意書で確定させるほうが有利なこともあります。最初に見通しを立ててから方針を決めることが大切です。

Q3. 弁護士に代理人になってもらわず、裏方として支えてもらうことはできますか。

できます。本件のように、話合いはご本人やご家族、顧問税理士が行い、弁護士は見通しの説明、交渉方針の助言、遺産分割協議書や合意書の作成・確認を担う形です。相手方を刺激せずに進めたい場合に向いています。相手方に弁護士がついた場合などは、代理人として交渉する形への切替えを検討します。

Q4. 遺留分を支払って解決するとき、清算条項は必要ですか。

必要です。清算条項がなければ、合意した金額を支払っても、後から遺留分侵害額の差額を請求される余地が残ります。遺留分侵害額請求権を含め、名目を問わず一切の債権債務がないことを確認する条項を入れます。

Q5. 遺産分割協議で代償金を受け取ると、贈与税がかかりますか。

代償分割による代償金は、通常、相続によって取得した財産として相続税の対象となり、贈与税の対象にはなりません。配偶者には相続税の税額軽減があり、1億6,000万円か法定相続分相当額の多いほうまでは相続税がかかりません(相続税法19条の2)。適用には申告が必要ですので、具体的な税額は税理士にご確認ください。

(※法律上の見解は一般的な事例に基づくものであり、具体的な状況により結論は異なります。詳しくは弁護士法人IGT法律事務所の初回無料相談をご利用ください。)

参考(一次情報)

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【この記事の執筆者】

弁護士 小林洋介

執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)

弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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※ 本記事は、公開日(2026年11月1日)時点の法令、判例、実務に基づき作成しています。解決の結果は個別の事情を前提としたもので、同様の結果をお約束するものではありません。