遺産分割|持戻し免除の意思表示否定、遺産総額11億円の相続で取得額1億円以上増加
公開日:2025年11月26日/最終更新日:2026年9月28日(事例の要点表とよくあるご質問を追加)
この事例の要点
| 事件の種類 | 遺産分割(審判) |
|---|---|
| ご依頼者 | 長男 |
| 相手方 | 三男(会社の後継者)ほか |
| 主な遺産 | 約11億円(非上場株式・不動産・預貯金など) |
| 主な争点 | 非上場株式を三男に相続させる公正証書遺言がある場合に、黙示の持戻し免除の意思表示が認められるか |
| 結果 | 審判で持戻し免除が否定され、取得額が相手方の当初提案より1億円以上増加 |
※個別の事情を前提とした結果です。同様の結果をお約束するものではありません。
遺産の中に「非上場株式」や「不動産」が含まれる場合、特定の相続人に財産を集中させる内容の遺言が残されていることが少なくありません。このようなケースでは、「特別受益」や「持戻し免除の意思表示」が法的な争点となり、遺産分割協議が難航する傾向にあります。
本記事では、弁護士法人IGT法律事務所(担当:弁護士 小林洋介)が実際に解決した「遺産総額11億円の相続において、黙示の持戻し免除の意思表示が否定され、依頼者の取得額が1億円以上増加した事例」をもとに、法的解釈と解決のポイントを分かりやすく解説します。
特別受益と「持戻し免除の意思表示」とは?(基礎知識)
遺産分割トラブルを理解するために、まずは重要な法律用語である「特別受益」と「持戻し免除」について解説します。
- 特別受益(民法903条)
特定の相続人が、被相続人(亡くなった方)から生前贈与や遺贈によって受けた特別な利益のことです。相続間の公平を図るため、原則としてこの利益は相続財産に「持ち戻して(足し戻して)」計算されます。
- 持戻し免除の意思表示
被相続人が「生前贈与や遺贈した分は、遺産分割の計算に含めなくてよい(持ち戻さなくてよい)」と意思表示をすることです。これが認められると、特別受益を受けた相続人は、他の遺産からも法定相続分を受け取れる可能性が高くなります。
遺言書に明記されていない場合でも、状況から「黙示の意思表示」があったと主張されることがあり、実務上極めて激しい争いになりやすいポイントです。
【事案の概要】非上場株式をめぐる遺産分割トラブル
本件は、父の死去に伴い、事業承継を目的とした「非上場株式の相続」を巡って兄弟間で発生した遺産分割の事例です。
| 項目 | 事案の詳細 |
| 被相続人 | 父親(会社経営者) |
| 当事者 |
依頼者:長男
相手方:三男(後継者)および他の兄弟 |
| 遺産総額 | 約11億円(非上場株式、不動産、預貯金など) |
| 遺言書 | 公正証書遺言あり(「会社の非上場株式を三男に相続させる」旨の記載のみで、他財産の指定はなし) |
| 主な争点 | 三男が取得した非上場株式は特別受益にあたるか。また、被相続人による「黙示の持戻し免除の意思表示」があったと認められるか。 |
依頼前の状況と相手方の主張
被相続人が残した公正証書遺言には、会社の後継者である三男に「非上場株式を相続させる」という記載がありました。しかし、その他の多額の財産(不動産や預貯金)についての分け方は記されていませんでした。
三男側は、「自分への株式承継は事業継続のためであり、父には『黙示の持戻し免除の意思表示』があったはずだ。したがって、残りの遺産についても自分は法定相続分を受け取る権利がある」と主張し、長男(当方依頼者)と対立しました。
当事務所の対応と審判結果:なぜ「持戻し免除」は否定されたのか?
弁護士法人IGT法律事務所は長男の代理人として介入し、三男の主張する「黙示の持戻し免除」は法的に認められないと強く反論しました。
裁判所が「黙示の持戻し免除」を否定した理由
審判の結果、裁判所は当方の主張を全面的に認め、三男に対する黙示の持戻し免除の意思表示を否定しました。その主な理由は以下の通りです。
- 遺産における非上場株式の評価額の占める割合が極めて高かったこと
- 持戻し免除があったことを推認するような具体的な事情がなかったこと
- 持戻し免除を認めた場合、他の法定相続人との間で著しい不公平が生じること
事業承継という目的があったとしても、他の相続人の生活基盤や法定相続分を大きく侵害するような極端な不公平は、法的に保護されないケースがあることが示されました。
解決の結果:取得額が1億円以上増加
裁判所が持戻し免除を否定し、特別受益としての持ち戻しを命じた結果、遺産は適正に再計算されました。これにより、相手方の当初の提案と比較して、当方依頼者(長男)の取得資産は1億円以上増加する形で解決に至りました。
審判の意義と実務への示唆
本事例は、一般事業会社における「事業承継と遺産分割」、そして「特別受益の持戻し免除」という観点から非常に重要な意義を持ちます。
経営者の方が事業承継を目的として公正証書遺言を作成する際は、単に「後継者に自社株を相続させる」と記載するだけでは不十分です。将来の紛争を防ぐためには、他の財産の配分や遺留分への配慮、そして「持戻し免除の意思表示」の有無を明確に記載しておくことが不可欠です。
よくある質問(FAQ)
Q. 持戻し免除が認められるのはどのようなケースですか?
A. 遺言書等で明示的に記載されている場合のほか、被相続人の生前の言動、贈与の目的(生活保障や事業承継など)、他の相続人との公平性などを総合的に考慮し、「黙示の意思表示」が推認されるケースがあります。ただし、本事例のように著しい不公平が生じる場合は否定される傾向にあります。
Q. 会社の非上場株式を相続する場合、何に注意すべきですか?
A. 事業承継を目的とした株式相続では、単に株式を移転するだけでなく、「非上場株式の適正な評価額の算定」「他の相続人との公平性(特別受益)」「遺留分侵害額請求への対策」「相続税の納税資金」など、多角的な法的・税務的配慮が必要です。
Q. 「相続させる」遺言で取得した財産も、特別受益として持ち戻すのですか?
A. 特定の財産を特定の相続人に承継させる遺言(特定財産承継遺言)による取得も、遺贈と同じように特別受益として持戻しの対象と扱われることが多く見られます。本件でも、三男が遺言で取得した非上場株式について、持戻し免除の意思表示の有無が争点になりました。
Q. 2019年の民法改正で、持戻し免除の扱いは変わりましたか?
A. 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他方に居住用の建物や敷地を遺贈・贈与した場合は、持戻し免除の意思表示があったものと推定されるようになりました(民法903条4項、2019年7月1日施行)。本件のような親から子への株式の承継には、この推定は及びません。
Q. 特別受益の主張に期限はありますか?
A. 2023年4月1日以降は、相続開始から10年を過ぎると、原則として特別受益や寄与分を主張できなくなりました(民法904条の3)。施行日より前に開始した相続については、相続開始から10年を経過する時と2028年3月31日のいずれか遅い時まで主張できます。
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※ 本ページは、最終更新日(2026年9月28日)時点の法令・判例・実務に基づいて作成しています。解決の結果は個別の事情を前提としたもので、同様の結果をお約束するものではありません。
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【この記事の執筆者】
執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)
弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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