相手方に弁護士がついて共有物分割請求をされたら|通知・訴状が届いた側の対応マニュアル
他の共有者の代理人弁護士から内容証明郵便が届く。あるいは、裁判所から共有物分割訴訟の訴状が送られてくる。この時点で初めて、共有関係の解消が現実の問題になったと気づく方がほとんどです。慌てて反論する必要はありません。請求された側が最初の2週間で何を確認し、その後どこで争うべきかを、条文と手続の構造から整理します。
結論──「拒む」ではなく「方法と金額を設計する」
- 無視も感情的な反論も避ける。期限までに結論を出せないときは、検討中である旨だけ伝えれば足ります。放置は「協議が調わないとき」(民法258条1項)の裏づけになります。
- 拒むこと自体を目標にしない。各共有者はいつでも分割を請求でき(民法256条1項)、請求を退ける形の解決は原則ありません。争点は「どの方法で・いくらで・いつ」です。
- 入口を確認する。遺産共有なら原則として共有物分割はできません(民法258条の2第1項)。10年経過後も、裁判所の通知から2か月以内の異議で遺産分割に戻せる場合があります(同条2項ただし書・3項)。
- 評価額と精算項目を先に洗い出す。代償金は評価額でほぼ決まり、立替えた固定資産税(民法253条1項)や独占使用の対価(民法249条2項)は解決時に一括精算します。
- こちらに代理人がつけば、相手方の弁護士は正当な理由なく直接あなたと交渉できなくなり(弁護士職務基本規程52条)、以後は代理人同士のやり取りになります。
共有物分割請求をされた(訴状・通知が届いた)方へ。弁護士法人IGT法律事務所が代理人として交渉をお引き受けし、共有者と顔を合わせずに解決する道筋をご提案します。初回60分無料・オンライン相談可。共有物分割のご相談はこちら。
1.通知が届いた──最初の2週間ですること
まず、届いた文書を読み解きます。協議申入書には通常、相手方が希望する分割方法(自分が取得したい、売却したい、あなたに買い取ってほしい)、その前提となる評価額と根拠(固定資産税評価額、路線価、査定書)、回答期限の3点が書かれています。これが相手方の描く設計図です。
評価額の出方には構造があります。相手方が物件を取得したい場面では低めに、代償金を受け取りたい場面では高めに示されるのが自然です。妥当かどうかは資料を並べて初めて判断できます。
してはならないことは3つです。放置すること。感情的な反論を書面で送ること。評価額や使用状況を、確認しないまま認めてしまうことです。書面に残した認否は、後の訴訟で相手方の証拠になり得ます。期限に間に合わないときは、確認中である旨を短く伝えれば足ります。
すべきことは具体的です。登記事項証明書で共有者と持分を確定する。遺言書や不分割の合意の有無を確認する。固定資産税の納付書や修繕の領収書など、立て替えた費用の証拠を集める。相手方が買取業者であれば前提が変わりますので共有持分の業者売却を、無視した場合の展開は請求を無視されたらどうなるかをご覧ください。
2.最初に確認すべき「入口」の3点
本題に入る前に、その請求がそもそも共有物分割の手続に乗るのかを確かめます。ここを外すと争い方が変わります。
(1)遺産共有か、通常共有か
民法258条の2第1項は、共有物やその持分が相続財産に属し、共同相続人間で遺産分割をすべきときは、共有物分割(同法258条)による分割をすることができないと定めています。相続で兄弟姉妹の共有になった実家について地方裁判所に提訴された場合、この点が争点になり得ます。遺産分割は、特別受益や寄与分も含めて公平を調整する家庭裁判所の手続です。
(2)相続開始から10年と、2か月の異議
相続開始の時から10年を経過したときは、相続財産に属する共有物の持分についても共有物分割の手続で分割できます(民法258条の2第2項本文)。ただし、遺産分割の請求があった場合に相続人が異議の申出をしたときは、この限りではありません(同項ただし書)。異議は、裁判所から共有物分割の請求があった旨の通知を受けた日から2か月以内に、その裁判所へしなければなりません(同条3項)。請求された側にとって最も短い期限のひとつです。相続が重なった事案は相続人が多数いる場合の遺産分割もご参照ください。
(3)不分割特約と、遺言による分割禁止
民法256条1項ただし書は、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約(不分割特約)を認め、更新もできます(同条2項)。登記されていれば、持分を譲り受けた第三者にも対抗できると解されています。被相続人が遺言で、相続開始から5年を超えない期間を定めて分割を禁じている場合もあります(民法908条1項)。登記事項証明書と遺言書の確認が入口の最後です。
3.「拒む」戦略が機能しない理由と、代わりに立てる方針
共有物分割訴訟は、裁判所が分割の方法を定める形式的形成訴訟と解されており、当事者の申立てに裁判所は拘束されないとされています。「分割したくない」と述べても、分割請求権はいつでも行使できる以上(民法256条1項)、請求を退ける形の勝訴は原則として想定されていません。
受け身のままでいるとどうなるか。民法258条2項は、裁判所が命じ得る方法として現物分割(1号)と、共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法(2号、賠償分割)を挙げ、同条3項は、これらで分割できないときや著しく価格を減少させるおそれがあるときは競売(けいばい)=裁判所を通じた強制売却を命じ得るとします。取得の希望も資金計画も示さなければ賠償分割は相当でないと判断されやすく、形式的競売に流れます。競売価格は市場価格を下回るのが通常です。
そこで、請求された側が立てるべき方針は次の3つのいずれかです。
- 自分が取得する。代償金を支払って単独所有にする方法で、居住を続けたい方の第一候補です。
- 相手方に取得させる。持分を手放して代償金を受け取る方法で、争点は評価額に集約されます。
- 全員の合意で市場に売却し、代金を分ける。競売を避けて手取りを確保する現実的な選択肢です(解決までの流れ)。
自分が取得する方針を採る場合、最高裁は全面的価格賠償(1人が取得し、他の共有者に持分の価格を賠償する方法)の要件として、その者に取得させるのが相当と認められること、価格が適正に評価されていること、取得する者に支払能力があること、他の共有者に持分の価格を取得させても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があることを挙げています(最判平成8年10月31日)。支払能力と利用実態の裏づけは、請求された側が自ら用意します。
4.評価と精算──代償金は「いくらと見るか」で動く
方法が決まった後、結論を左右するのは評価額です。固定資産税評価額はおおむね公示価格の7割程度、相続税路線価は8割程度が目安とされ、実勢価格とは一致しません。固定資産税評価額だけを根拠とする提示は、交渉の出発点にすぎません。
反論の材料は段階的に用意します。複数の不動産会社の査定書、不動産鑑定士による私的鑑定、折り合わなければ訴訟内での裁判所選任の鑑定です。鑑定には相応の費用と期間がかかるため、争点となる金額の幅と見比べて選びます(共有物分割のよくある質問20問)。
あわせて精算項目を洗い出します。民法253条1項は、各共有者が持分に応じて管理の費用を支払い、その他の負担を負うと定めており、固定資産税や修繕費を自分だけが負担してきたのであれば求償を検討できます。逆に相手方が単独で使用してきた場合、民法249条2項は、共有物を使用する共有者は別段の合意がある場合を除き自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うと定めています。
この点は、こちらが居住している場合には逆向きに働きます。もっとも、相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物に同居してきた相続人については、特段の事情のない限り、相続開始時を始期とし遺産分割時を終期とする使用貸借契約の成立が推認されるとした判例があります(最判平成8年12月17日)。内縁の夫婦が共有不動産を共同使用してきた事案でも、一方の死亡後は他方が単独使用する旨の合意が推認されています(最判平成10年2月26日)。無償使用が当然に不当利得になるわけではありません。これらは和解で一括精算するのが通例です。
5.訴状が届いた場合の手続と期限
訴状には、第1回口頭弁論期日と答弁書の提出期限を記載した呼出状が同封されています。最も避けるべきは、答弁書を出さずに欠席することです。民事訴訟法159条1項は、相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合にはその事実を自白したものとみなすと定め、同条3項はこれを期日に出頭しない場合に準用しています。分割方法は裁判所が定めるとしても、事実面で不利な土俵が固まります。
また、共有物分割の訴えは共有者全員が当事者となる固有必要的共同訴訟と解されています。ほかにも被告となっている共有者がいる場合、同じ被告でも利害は一致しません。誰が取得を望み、誰が現金化を望むのかを早めに把握してください。
期間は鑑定の要否で変わりますが、提訴から解決まで1年から2年が目安です。地方裁判所の訴訟に弁護士強制の制度はなく、本人で対応すること自体は可能です。
6.相手方に弁護士がついたとき、こちらも相談すべき理由
第一の効果は、交渉の窓口が変わることです。弁護士職務基本規程52条は、弁護士は相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならないと定めています。こちらに代理人がつけば、相手方の弁護士から直接連絡が来る状態は原則として終わり、共有者と顔を合わせずに進められます。
第二に、争点の設計です。入口論(遺産共有か通常共有か、10年、2か月の異議)の見極め、評価資料の組み立て、全面的価格賠償の要件に沿った立証、和解案(売却方法、代償金の分割払い、引渡し時期)の設計、期限の管理。書面のやり取りが始まってからでは取り返しにくい部分です。
他方で、必ず依頼が必要だとは考えていません。評価額に争いがなく、相手方の提示が適正でそのまま合意できるなら、初回の相談で方針を確認するだけで足りる場合もあります。逆に、代償金が数百万円単位で動き得る事案では争う実益が大きくなります。費用の考え方は弁護士費用のページをご覧ください。
相手方の代理人から通知が届いた、訴状が届いた──その段階でのご相談を承っています。回答期限まで日がない場合はその旨をお知らせください。共有物分割請求をされた方のご相談はこちら。
よくあるご質問
Q1.相手の弁護士からの手紙を無視するとどうなりますか。
提訴が早まる可能性が高くなります。民法258条1項は協議が調わないときに裁判所へ分割を請求できると定めており、回答がないこと自体が協議不調の裏づけとして扱われ得るためです。
Q2.相手方の弁護士と直接話しても大丈夫ですか。
慎重にしてください。相手方の弁護士は相手方の利益のために職務を行う立場で、こちらの利益を代弁しません。電話でのやり取りは記録が残りにくく、不用意に述べた内容が後の主張の前提とされるおそれがあります。
Q3.実家に住み続けたいのですが、共有物分割を止められますか。
止めることは困難ですが、住み続ける方法はあります。分割請求権はいつでも行使できるため(民法256条1項)、請求自体は封じられません。目指すべきは、代償金を支払って取得する全面的価格賠償です(最判平成8年10月31日)。
Q4.相手が提示した評価額が安すぎると感じます。争えますか。
争えます。固定資産税評価額や相続税路線価は実勢価格と一致せず、出発点にすぎません。複数の査定書、私的鑑定、裁判所選任の鑑定という順で反証を積み上げます。評価の差はそのまま代償金の差になります。
Q5.弁護士に頼まず、自分で対応することはできますか。
可能です。地方裁判所の訴訟に弁護士強制の制度はありません。ただし、答弁書の作成、擬制自白(民事訴訟法159条)を避けるための認否、評価の反証、和解条項の設計を相手方の代理人と対等に行う負担は小さくありません。
まとめ──IGT法律事務所ができること
請求された側の利益は、分割を拒むことではなく、どの方法で・いくらで・いつ解決するかを自分の側から設計することにあります。必要なのは、入口の見極めと、評価・精算の資料と、期限の管理です。
弁護士法人IGT法律事務所は、不動産や非上場株式の評価額を正面から争う相続案件に注力してきた事務所として、共有物分割請求を受けた側の対応も手がけています。共有物分割のご相談ページまたは無料相談のご予約フォームからお問い合わせください。
参考一次情報
- 民法249条2項(共有物の使用の対価の償還)、253条(管理の費用等の負担)、256条(共有物の分割請求と不分割特約)、258条(裁判による共有物の分割)、258条の2(相続財産に属する共有物の分割の特則)、908条(遺言による分割の禁止):e-Gov法令検索「民法」。
- 民事訴訟法159条(自白の擬制):e-Gov法令検索「民事訴訟法」。
- 最高裁判所第一小法廷平成8年10月31日判決(平成3年(オ)第1380号。全面的価格賠償の方法による共有物分割の許否):裁判所ウェブサイト 裁判例検索、判決全文(PDF)。
- 最高裁判所第三小法廷平成8年12月17日判決(平成5年(オ)第1946号。遺産である建物の相続開始後の使用と使用貸借契約の成立の推認):裁判所ウェブサイト 裁判例検索。
- 最高裁判所第一小法廷平成10年2月26日判決(平成6年(オ)第1900号。内縁の夫婦による共有不動産の共同使用と、一方の死亡後に他方が単独使用する旨の合意の推認):裁判所ウェブサイト 裁判例検索。
- 日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」52条(相手方本人との直接交渉):会規第70号(PDF)、日本弁護士連合会 会規一覧。
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」(令和3年民法改正、令和5年4月1日施行):法務省ウェブサイト。
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【この記事の執筆者】
執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)
弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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