実家を空き家のまま放置するとどうなるか──2026年9月改正の空家法ガイドラインで読む「勧告ライン」と固定資産税
令和8年9月3日、国土交通省・総務省は、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「空家法」といいます。)の「基本指針」と、「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針」(以下「ガイドライン」といいます。)を、いずれも最終改正しました。「勧告を受けると固定資産税が6倍になる」と語られる、その勧告の判断と手続を市町村向けに示しているのが、この2つの文書です。本コラムでは、今回の改正で何が変わり何が変わっていないのかを一次資料に即して整理し、遺産分割が終わっていない実家をお持ちの方が取り得る手順を解説します(執筆時点は令和8年9月)。
結論:判断基準は動いていないものの、手続は速く、所有者は特定されやすくなっています
- 改正の直接の契機は、第16次地方分権一括法(令和8年法律第27号)の施行に伴う空家法の一部改正です。法律上の変更点は、空家等管理活用支援法人の指定対象に「その他の営利を目的としない法人」が加わった点にあります。
- 管理不全空家等・特定空家等に当たるかを判断する物的な基準(ガイドライン別紙1から別紙4)自体には変更が見当たりません。「勧告のライン」が引き下げられたわけではないと考えられます。
- 他方、勧告後に新たな措置が必要になった場合には、指導からやり直さず勧告から行って差し支えない旨が明記されました。所有者を特定するための情報ルート(郵便の転送情報、水道、福祉部局の保有情報など)の記述も拡充され、手続は速くなる方向です。
- 基本指針には、相続を契機とする空き家の増加見込みと、相続登記の申請義務化に触れる記述が加わりました。遺産分割が終わっていない実家ほど、早めの手当てが必要と考えられます。
1. 令和8年9月3日改正で何が変わったのか
(1)改正の契機は地方分権一括法の施行
国土交通省の関連情報ページは、令和8年9月3日施行の「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」の施行に伴い空家法の一部が改正された旨を明記しています。空き家規制の強化を目的とした単独の改正ではなく、地方分権改革の一括法に合わせて告示を整合させたもの、と理解するのが素直です。
法律本体の変更は、支援法人の指定に関する空家法23条1項です。従前の特定非営利活動法人・一般社団法人・一般財団法人と会社に加え、「その他の営利を目的としない法人」が指定対象となり、商工会議所等も指定を受け得る形になりました。指定は95法人・64市区町村(令和7年3月31日時点)にとどまっており、裾野を広げる趣旨と考えられます。
(2)基本指針の主な変更点
統計が令和5年住宅・土地統計調査(令和6年9月25日公表)に更新され、総住宅数約6,505万戸、空き家約900万戸(13.8%)、うち使用目的のない空家約386万戸(約5.9%)とされました。実務上より重要なのは、これに続けて「今後、大量に発生することが見込まれる相続等をきっかけとして更に空家の増加が見込まれる」という一文が加えられた点です。国の基本方針に、空き家の主要な発生源として相続が明示されたことになります。
(3)ガイドラインの主な変更点
令和5年12月13日改正版と現行版を対照すると、次の加筆が確認できます。
- 財産管理制度について、市町村自身の選任請求に加え、「利害関係人において、当該制度を活用できるよう制度の周知等を実施することが適切である」とされ、近隣住民・共有者・相続人といった民間側の利用が想定されました。
- 「令和6年4月1日から不動産の相続登記の申請が義務化されたことに伴い、空家等の権利義務関係が明らかになっていくことが期待される」との記述が新設されました。
- 所有者等の特定について、固定資産課税台帳情報の内部利用等、日本郵便株式会社への郵便の転送情報の提供依頼(いずれも令和8年3月付け事務連絡)、水道事業者への情報共有、福祉部局等の保有情報の提供が、参照すべき通知として列挙されました。
- 管理不全空家等・特定空家等のいずれについても、勧告後に新たな措置を求める必要が生じた場合には「必ずしも新たに指導を行う必要はなく勧告から行うこととしても差し支えない」と明記されました。
他方、保安上危険・衛生上有害・景観悪化・生活環境への影響という4つの観点ごとに状態の例を掲げた別紙1から別紙4には、対照した限り実質的な変更が見当たらず、判断基準そのものが厳格化されたと評価するのは難しいと考えられます。
2. 「勧告ライン」はどこにあるのか
空家法は、周辺に悪影響を及ぼす空き家を特定空家等(法2条2項)と定め、助言・指導、勧告、命令、行政代執行という段階を置いています(法22条)。令和5年改正で、その手前に管理不全空家等が設けられました。「そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態」の空家等がこれに当たり、市町村長は指導を行い、なお改善されずそのおそれが大きいと認めるときは勧告ができます(法13条1項・2項)。
管理不全空家等のレベルとして別紙が挙げる例は、屋根の変形や外装材の剥落、構造部材の破損・腐朽・蟻害、雨水浸入の痕跡、擁壁のひび割れ、雨樋等の破損、立木の剪定がなされず折れや腐朽が認められる状態、排水設備の破損、常態的な水たまりや腐敗したごみ、動物の棲みつき、外装材の色褪せ・汚損、枝のはみ出しなどです。倒壊のおそれに至る前の「傷み始め」が拾われていることが分かります。
もっともガイドラインは「必ずしも定量的な基準により一律に判断することはなじまない」とし、周辺に被害が及び得る状況か、その程度が社会通念上許容される範囲を超えるか、危険の切迫性はどうかを勘案して総合的に判断するとしています。同じ傷み方でも、密集市街地にあるか周囲に家屋も公道もないかで評価は変わり得ます。
3. 固定資産税は本当に「6倍」になるのか
住宅の敷地には、固定資産税の課税標準額を200平方メートル以下の部分は6分の1、超える部分は3分の1とする特例(住宅用地特例。地方税法349条の3の2。都市計画税は同法702条の3により3分の1・3分の2)が置かれています。法13条2項又は法22条2項の勧告がされた管理不全空家等・特定空家等の敷地は、この特例の対象から除かれます。これが「勧告で税負担が上がる」と言われる根拠です。
ただし「6倍になる」という説明は正確ではありません。ガイドラインの注記は、特例が適用されない場合の税額について「課税標準額の上限を価格の7割とするなどの負担調整措置及び各市町村による条例減額制度に基づき決定される」としています。増加幅は評価額や負担水準、条例によって異なるため、課税明細書をもとに市町村の税務担当へ確認するのが確実です。
さらにガイドラインは、取壊しを予定している場合や必要な管理を怠っている場合など、今後人の居住の用に供される見込みがないと認められる家屋の敷地には、そもそも住宅用地特例は適用されないとしています。勧告を受けていなくても特例が外れる場面はあり得ます。
4. 数字で見る運用の実際
施行状況調査(令和7年3月31日時点、1,741市区町村)によれば、管理不全空家等への措置は、制度初年度の令和5年度が指導666件・勧告0件であったのに対し、令和6年度は指導2,545件・勧告378件でした。勧告の実例がなかった制度が、2年目に現実に動き始めたことが読み取れます。特定空家等については令和6年度に助言・指導4,026件、勧告600件、命令101件、代執行は行政代執行71件・略式代執行81件・緊急代執行9件です。多くは指導・勧告の段階で動いており、初期の連絡に応答するかどうかがその後を分けます。
5. 遺産分割が終わらない実家で、勧告を回避するための手順
相続した実家の空き家では、「誰も住まない」ことより「誰が決められるかが定まっていない」ことが足かせになります。話し合いが止まっている間に建物が傷み、市町村からの連絡で初めて動き出す例は少なくありません。次の順序で検討することが有用と考えられます。
- 名宛人の確認。指導・勧告の相手方は「所有者等」であり、遺産分割が未了であれば相続人全員が対象になり得ます。関与していないという説明で当然に免れられるものではありません。
- 相続登記。令和6年4月1日から申請が義務化され、正当な理由なく期間内に申請しない場合は10万円以下の過料の対象となり得ます(不動産登記法76条の2、164条1項)。分割未了の段階では相続人申告登記の活用が考えられます。
- 当面の物理的な管理。共有物の保存行為は各共有者が単独でできます(民法252条5項)。応急的な補修、立木の剪定、ごみの搬出は、他の相続人の同意がなくても着手できる場合があります。
- 遺産分割の工夫。全体の合意に時間がかかる場合でも、当該不動産だけを先に扱う一部分割や、売却して代金を分ける換価分割という方法があります。
- 財産管理制度の活用。所在不明者がいれば所有者不明建物管理制度(民法264条の8)、管理が不適切であれば管理不全建物管理制度(民法264条の14)が考えられます。今回の改正は、この民間側からの申立てを後押しする方向の変化といえます。
- 相続放棄後の管理義務。放棄した者も、放棄の時に現に占有していれば、引渡しまでの間は保存義務を負います(民法940条1項)。
- 市町村への先手の対応。勧告は指導後もなお改善されないことを前提とする措置ですから、指導の段階で改善の計画と時期、分割の進捗を具体的に伝えることには意味があります。
6. 売る・活用する・手放すという出口
管理を続けるだけでは同じ問題が繰り返されます。まず検討されるのは売却です。被相続人の居住用家屋とその敷地を一定の要件で売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります(適用期限は令和9年12月31日までの譲渡。令和6年1月1日以後の譲渡で取得した相続人が3人以上のときは2,000万円)。適用可否は税理士との連携のうえ判断することになります。
売却が難しい土地では相続土地国庫帰属制度の利用可否を検討する余地がありますが、建物が残る土地は対象外とされているため、除却との順序を含めた設計が必要です。活用の方向では、今回対象が広がった支援法人や市町村の空き家バンクが受け皿になり得ます。いずれの出口でも、共有状態の解消が前提になります。
よくあるご質問
Q1. 今回の改正で、勧告を受けやすくなったのでしょうか。
判断基準を示す別紙1から別紙4には実質的な変更が見当たらず、状態の評価が一律に厳しくなったとまでは考えにくいところです。もっとも、勧告後に新たな措置が必要になった場合に指導からやり直す必要がない旨が明記され、所有者特定の情報ルートも拡充されました。手続が進む速さという意味では、従前より早くなる可能性があります。
Q2. 勧告を受けると固定資産税は6倍になるのですか。
勧告がされると、その敷地は住宅用地特例の対象から除かれます。もっとも実際の税額は、課税標準額の上限を価格の7割とする負担調整措置や各市町村の条例減額制度を踏まえて決まるため、単純に6倍になると説明するのは正確ではありません。増加幅は市町村の税務担当にご確認ください。
Q3. 遺産分割が終わっていない実家について、相続人の1人だけで対応できることはありますか。
共有物の保存行為は各共有者が単独で行うことができるため(民法252条5項)、応急的な補修や立木の剪定といった現状維持の対応は単独で着手できる場合があります。他方、売却や取壊しは処分に当たり、原則として共有者全員の合意が必要です。
Q4. 相続放棄をすれば、空き家の管理から解放されますか。
相続の放棄をした者であっても、放棄の時にその財産を現に占有しているときは、引渡しまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存する義務を負うとされています(民法940条1項)。事案によっては相続財産清算人の選任申立てまで視野に入れる必要があります。
Q5. 市町村から指導の通知が届きました。まず何をすべきでしょうか。
指摘事項と、求められている措置の内容・期限を確認したうえで応答することが出発点です。勧告は指導後もなお改善されない場合の措置ですので、改善の計画と時期、遺産分割の進捗を具体的に示すことには意味があると考えられます。
まとめ:制度の変化より、共有状態の放置のほうがリスクです
今回の令和8年9月3日改正は、地方分権一括法の施行に伴う整備という性格が強く、判断基準そのものを引き締めるものではないと考えられます。それでも、勧告に至る手続が速くなる方向にあること、所有者の特定手段が広がっていること、基本指針に相続を契機とする空き家増加が明記されたことは、相続した実家をお持ちの方にとって無視できない変化です。
弁護士法人IGT法律事務所は、不動産や非上場株式の評価・処分が問題となる相続案件を中心に、遺産分割・遺留分・共有物分割への対応に注力しています。実家が空き家になっている、共有者と連絡が取れない、市町村から通知が届いたといったご事情がある場合には、早い段階でご相談ください。共有物分割請求の流れと3つの分割方法の解説や共有持分だけを売却する場合のメリット・デメリットもあわせてご参照ください。弁護士費用と担当弁護士のプロフィールをご確認のうえ、無料相談をご活用ください。
参考一次情報
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」(最終更新:令和8年9月3日。国土交通省)
- 国土交通省・総務省「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」(最終改正:令和8年9月3日。PDF)
- 総務省・国土交通省「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針」(平成27年総務省・国土交通省告示第1号。最終改正:令和8年9月3日。PDF)
- e-Gov法令検索「空家等対策の推進に関する特別措置法」(平成26年法律第127号。最終改正:令和8年9月3日。e-Gov)
- 内閣府「第16次地方分権一括法(令和8年法律第27号、令和8年6月3日公布)」(内閣府)
- 国土交通省・総務省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について(令和7年3月31日時点)」(PDF)
- e-Gov法令検索「地方税法」(住宅用地の課税標準の特例は349条の3の2、702条の3。e-Gov)
- e-Gov法令検索「民法」(共有物の保存行為252条5項、管理不全建物管理命令264条の14、相続の放棄をした者による管理940条1項。e-Gov)
- 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(国税庁)
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【この記事の執筆者】
執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)
弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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