解決事例|決算書の借入金を理由とした相続人からの会社への返還請求を防いだ事例

執筆者:弁護士小林洋介
弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
保有資格:弁護士、経営革新等支援機関、2級FP技能士
東京弁護士会相続遺言部所属
本記事の結論とポイント
- 結論: 法人の決算書に「借入金(被相続人名義)」の記載があるという理由だけで、直ちに相続人からの貸金返還請求(支払義務)が法的に認められるわけではありません。
- 争点: 決算書上の記載だけでなく、実際に「金銭消費貸借契約」が成立し、貸付けの実態があったかどうかが問われました。
- 結果: 当事務所が貸付けの実態がないことを丁寧に主張・立証した結果、1審では請求棄却。控訴審において、相続税申告との兼ね合いを考慮し、請求額の約16%(90万円)の支払いで和解が成立しました。
1. ご相談の背景と依頼前の状況
ご相談者様は、同族会社である株式会社Yの代表者様です。本件の登場人物と関係性は以下の通りです。
- A(被相続人): 相談者様(Z)と原告(X)の親
- Y(株式会社): ご相談者様(本件の被告)
- Z(Yの代表者): Aの子(法定相続分3分の1)
- X(原告・相続人): Aの子でZの兄弟(法定相続分3分の1)
【トラブルの概要】
株式会社Yの決算書には、長年にわたり「借入先 A / 期末現在高 1,600万円」という記載が固定されたまま残っていました。
この記載を見た相続人Xは、「AがYに対して1,600万円の貸金返還請求権を有していた」と主張。
自身が相続によって取得した持分(3分の1)にあたる533万円の支払いを求めて、会社Yに対し裁判を起こしました。
なお、Aの相続発生時、XとZは共同して「1,600万円の債権が存在する」という前提で相続税申告を行っている状況でした。
2. 当事務所の対応と主張(争点へのアプローチ)
裁判において、当事務所は株式会社Yの代理人として以下の主張を展開しました。
- 金銭消費貸借契約の不存在: 決算書に「借入金」という名目で計上されている事実があるにせよ、実際にはAからYに対して金銭が貸し付けられた事実は認められないと反論しました。
- 実態の欠如: 契約書の有無だけでなく、過去のお金の流れ等から、貸金返還請求権の発生要件となる実態がないことを法的に指摘しました。
3. 解決の結果(一審・控訴審の推移)
【一審(原審)の判断:請求棄却】
当事務所の主張が認められ、原告Xの主張が特定されていないことを理由に、一審ではXの請求が棄却されました。これに対し、Xが控訴しました。
【控訴審の判断と和解の成立】
控訴審において、裁判官からは「決算書に借入金と明記されていることの重み」や、「外部の相続人であるXの立場からは請求の根拠を特定しにくい事情」についても指摘がありました。
しかし、当事務所は以下の事実を丁寧に説明しました。
- 遡れる限りの過去の決算書において、当該借入金に関する金銭の動きが一切ないこと
- 会社Yと被相続人Aとの人的・歴史的な関係性
その結果、裁判所からも再度「金銭消費貸借契約は認められない」との心証が示されました。
もっとも、すでに「1,600万円の債権が存在する前提」で相続税申告が行われていた事実がありました。
裁判所は、その債権計上によって増加した相続税額を試算し、これを参考に「90万円を解決金として支払う」という和解案を提示しました。
徹底的に争う選択肢もありましたが、紛争の長期化による経営への影響や相続税申告との関係を踏まえ、ご相談者様(Y社)も納得のうえで和解に応じ、無事に解決に至りました。
4. 担当弁護士からのコメント(実務的なアドバイス)
法人経営者と親族が絡む相続の場面において、「法人の決算書に記載された役員借入金等の記載」を根拠に、金銭債権の存否が争われるケースは多数存在します。
しかし、決算書の記載をもって、直ちに裁判上でも「貸金返還請求権」として評価されるわけではありません。
実際の裁判においては、過去の経緯や事実関係を詳細に観察・検討し、「貸付けの実態(金銭消費貸借契約の成立要件)」を満たしているかを厳格に判断します。
今回のように請求を受ける企業の立場であっても、過去の経緯を事実に即して丁寧に説明・立証すれば、高額な支払義務を免れることが可能です。
「決算書に書いてあるから仕方がない」と諦める前に、まずは相続問題や企業法務に精通した弁護士法人IGT法律事務所へご相談ください。
相談を検討されている方へ
- 決算書上の「借入金」記載を理由に請求を受けている
- 被相続人と会社との間の金銭関係が曖昧で、対応に悩んでいる
- 相続人間の対立も絡み、会社としてどのように対応すべきか分からない
このような場合には、資料や過去の経緯を踏まえた慎重な検討が必要です。
当事務所では、相続と会社法務が交錯する紛争についても、事案の実態に即して対応しております。
よくある質問(FAQ)
Q1. 亡くなった親が経営していた会社の決算書に「役員借入金(会社への貸付)」の記載がありました。相続人として会社に返済を請求できますか?
A. 決算書の記載だけでは、直ちに返済が認められるとは限りません。
法的に返済請求が認められるためには、実際に金銭の貸し借りが行われたという「金銭消費貸借契約」の実態(お金が移動した客観的な記録など)が必要です。決算書に漫然と記載が残っていただけでは、裁判で請求が退けられるケースも多く存在します。まずはどのような資料が残っているか、弁護士にご相談ください。
Q2. 会社側(現代表者)の立場です。先代社長からの借入金が決算書に残ったまま相続が発生し、他の相続人から返済を求められています。全額支払う義務はありますか?
A. 必ずしも全額を支払う義務があるとは限りません。 過去の帳簿や銀行口座の履歴などを精査し、「実際には金銭の貸し付けの実態がなかった」ことを論理的に主張・立証できれば、支払いを免れる、あるいは大幅に減額して和解できる可能性があります。会社の資金繰りにも関わる重大な問題ですので、早期に対応を検討することが重要です。
Q3. すでに「会社への貸付金がある」という前提で、相続人全員で相続税申告をしてしまいました。この場合、裁判でも貸金として認められてしまうのでしょうか?
A. 不利な事情として考慮される可能性はありますが、それだけで貸金が確定するわけではありません。 相続税申告で財産(債権)として計上した事実は、裁判官の心証に影響を与える要素の一つにはなります。しかし、最終的には「金銭消費貸借契約の法的な実態があったか」が問われます。本事例のように、税申告の事実を踏まえつつも、貸付の実態がないことを証明することで和解等の有利な解決に導ける可能性があります。
Q4. 親族間や同族会社間の貸し借りで、借用書などの「契約書」が一切残っていません。法的に争うことは可能ですか?
A. 契約書がない場合でも対応は可能です。 親族間・同族会社間の資金移動では契約書が作成されていないケースが一般的です。その場合、銀行口座の送金履歴、決算処理の経緯、当時の当事者間の関係性など、周辺の客観的な事実を総合的に組み合わせて実態を立証していきます。IGT法律事務所では、断片的な資料から緻密に事実関係を整理し、適切な法的主張を組み立てて対応いたします。
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目次
- 1 解決事例|決算書の借入金を理由とした相続人からの会社への返還請求を防いだ事例
- 1.1 本記事の結論とポイント
- 1.2 1. ご相談の背景と依頼前の状況
- 1.3 2. 当事務所の対応と主張(争点へのアプローチ)
- 1.4 3. 解決の結果(一審・控訴審の推移)
- 1.5 4. 担当弁護士からのコメント(実務的なアドバイス)
- 1.6 相談を検討されている方へ
- 1.7 よくある質問(FAQ)
- 1.7.1 Q1. 亡くなった親が経営していた会社の決算書に「役員借入金(会社への貸付)」の記載がありました。相続人として会社に返済を請求できますか?
- 1.7.2 Q2. 会社側(現代表者)の立場です。先代社長からの借入金が決算書に残ったまま相続が発生し、他の相続人から返済を求められています。全額支払う義務はありますか?
- 1.7.3 Q3. すでに「会社への貸付金がある」という前提で、相続人全員で相続税申告をしてしまいました。この場合、裁判でも貸金として認められてしまうのでしょうか?
- 1.7.4 Q4. 親族間や同族会社間の貸し借りで、借用書などの「契約書」が一切残っていません。法的に争うことは可能ですか?
- 1.8 ご相談はこちらへ
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