解決事例|決算書の借入金を理由とした相続人からの会社への返還請求を防いだ事例
公開日:2026年3月15日/最終更新日:2026年9月28日(事例の要点表とよくあるご質問を追加)
この事例の要点
| 事件の種類 | 貸金返還請求訴訟(請求された会社側・一審~控訴審) |
|---|---|
| ご依頼者 | 同族会社である株式会社Y(代表者は被相続人Aの子Z) |
| 相手方 | 相続人X(Aの子でZの兄弟、法定相続分3分の1) |
| 請求の内容 | 決算書の「借入先 A/期末現在高 1,600万円」の記載を根拠に、Xの相続分3分の1にあたる533万円の支払を請求 |
| 主な争点 | AからYへの貸付け(金銭消費貸借契約)の実態の有無、1,600万円の債権がある前提で相続税申告をしていたこと |
| 当事務所の対応 | 遡れる限りの決算書で借入金に関する金銭の動きがないことや、YとAの関係性を示し、貸付けの実態がないと主張 |
| 結果 | 一審は、被相続人が貸付けをしたという主張立証がないとして請求棄却。控訴審で、相続税申告との関係を考慮し、90万円を解決金として支払う和解が成立 |
※個別の事情を前提とした結果です。同様の結果をお約束するものではありません。
本記事の結論とポイント
- 結論: 法人の決算書に「借入金(被相続人名義)」の記載があるという理由だけで、直ちに相続人からの貸金返還請求(支払義務)が法的に認められるわけではありません。
- 争点: 決算書上の記載だけでなく、実際に「金銭消費貸借契約」が成立し、貸付けの実態があったかどうかが問われました。
- 結果: 当事務所が貸付けの実態がないことを丁寧に主張した結果、一審では、被相続人が貸付けをしたという主張立証がないとして請求が棄却されました。控訴審において、相続税申告との兼ね合いを考慮し、請求額(533万円)の約17%にあたる90万円の支払いで和解が成立しました。
1. ご相談の背景と依頼前の状況
ご相談者様は、同族会社である株式会社Yの代表者様です。本件の登場人物と関係性は以下の通りです。
- A(被相続人): 相談者様(Z)と原告(X)の親
- Y(株式会社): ご相談者様(本件の被告)
- Z(Yの代表者): Aの子(法定相続分3分の1)
- X(原告・相続人): Aの子でZの兄弟(法定相続分3分の1)
【トラブルの概要】
株式会社Yの決算書には、長年にわたり「借入先 A / 期末現在高 1,600万円」という記載が固定されたまま残っていました。
この記載を見た相続人Xは、「AがYに対して1,600万円の貸金返還請求権を有していた」と主張。
自身が相続によって取得した持分(3分の1)にあたる533万円の支払いを求めて、会社Yに対し裁判を起こしました。
なお、Aの相続発生時、XとZは共同して「1,600万円の債権が存在する」という前提で相続税申告を行っている状況でした。
2. 当事務所の対応と主張(争点へのアプローチ)
裁判において、当事務所は株式会社Yの代理人として以下の主張を展開しました。
- 金銭消費貸借契約の不存在: 決算書に「借入金」という名目で計上されている事実があるにせよ、実際にはAからYに対して金銭が貸し付けられた事実は認められないと反論しました。
- 実態の欠如: 契約書の有無だけでなく、過去のお金の流れ等から、貸金返還請求権の発生要件となる実態がないことを法的に指摘しました。
3. 解決の結果(一審・控訴審の推移)
【一審(原審)の判断:請求棄却】
一審では、被相続人Aが貸付けをしたという主張立証がないとして、Xの請求が棄却されました。これに対し、Xが控訴しました。
【控訴審の判断と和解の成立】
控訴審において、裁判官からは「決算書に借入金と明記されていることの重み」や、「外部の相続人であるXの立場からは請求の根拠を特定しにくい事情」についても指摘がありました。
しかし、当事務所は以下の事実を丁寧に説明しました。
- 遡れる限りの過去の決算書において、当該借入金に関する金銭の動きが一切ないこと
- 会社Yと被相続人Aとの人的・歴史的な関係性
その結果、裁判所からも再度「金銭消費貸借契約は認められない」との心証が示されました。
もっとも、すでに「1,600万円の債権が存在する前提」で相続税申告が行われていた事実がありました。
裁判所は、その債権計上によって増加した相続税額を試算し、これを参考に「90万円を解決金として支払う」という和解案を提示しました。
徹底的に争う選択肢もありましたが、紛争の長期化による経営への影響や相続税申告との関係を踏まえ、ご相談者様(Y社)も納得のうえで和解に応じ、無事に解決に至りました。
4. 担当弁護士からのコメント(実務的なアドバイス)
法人経営者と親族が絡む相続の場面において、「法人の決算書に記載された役員借入金等の記載」を根拠に、金銭債権の存否が争われるケースは多数存在します。
しかし、決算書の記載をもって、直ちに裁判上でも「貸金返還請求権」として評価されるわけではありません。
実際の裁判においては、過去の経緯や事実関係を詳細に観察・検討し、「貸付けの実態(金銭消費貸借契約の成立要件)」を満たしているかを厳格に判断します。
今回のように請求を受ける企業の立場であっても、過去の経緯を事実に即して丁寧に説明・立証することで、支払義務の有無や金額を争える場合があります。
「決算書に書いてあるから仕方がない」と諦める前に、まずは相続と企業法務の双方を扱う弁護士法人IGT法律事務所へご相談ください。
相談を検討されている方へ
- 決算書上の「借入金」記載を理由に請求を受けている
- 被相続人と会社との間の金銭関係が曖昧で、対応に悩んでいる
- 相続人間の対立も絡み、会社としてどのように対応すべきか分からない
このような場合には、資料や過去の経緯を踏まえた慎重な検討が必要です。
当事務所では、相続と会社法務が交錯する紛争についても、事案の実態に即して対応しております。
よくある質問(FAQ)
Q. 亡くなった親が経営していた会社の決算書に、親からの「借入金」の記載がありました。相続人として会社に返済を請求できますか?
A. 決算書の記載だけで、直ちに返済の請求が認められるとは限りません。お金の貸し借り(金銭消費貸借契約)は、返還を約束してお金を受け取ることで成立します(民法587条)。裁判では、請求する側が、実際にお金が渡されたことと返還の約束があったことを示す必要があります。送金の記録など、客観的な資料がどの程度残っているかをまず確認することが大切です。
Q. 会社側(現代表者)の立場です。先代社長からの借入金が決算書に残ったまま相続が発生し、相続人から返済を求められています。全額を支払う義務がありますか?
A. 必ずしも全額を支払う義務があるとは限りません。過去の決算書や預金口座の履歴を調べ、実際には貸付けがなかったことを具体的に示せれば、請求が認められないこともあります。本件では、遡れる限りの決算書で借入金に関する金銭の動きがないことなどを示し、一審では、被相続人が貸付けをしたという主張立証がないとして請求が棄却されました。ただし、控訴審では相続税申告との関係も考慮し、90万円の解決金を支払う和解で解決しています。
Q. 相続人の一人が、自分の相続分だけを会社に請求することはできますか?
A. できます。貸金債権のように分けることができる金銭の債権は、相続によって、各相続人の相続分に応じて当然に分割されると考えられています(最高裁昭和29年4月8日判決)。本件でも、相続人の一人が、1,600万円のうち自分の法定相続分3分の1にあたる533万円を会社に請求しました。なお、預貯金はこれと異なり、遺産分割の対象になります(最高裁平成28年12月19日決定)。
Q. 「会社への貸付金がある」という前提で、相続人全員で相続税申告をしてしまいました。裁判でも貸金として認められてしまうのでしょうか?
A. 不利な事情として考慮されることはありますが、それだけで貸金の存在が決まるわけではありません。相続税申告で債権として計上した事実は、裁判所の判断に影響する事情の一つです。本件でも、裁判所は債権の計上によって増えた相続税額を試算し、これを参考に解決金の和解案を示しました。最終的には、実際に貸付けがあったかどうかが問われます。
Q. 親族間や同族会社との貸し借りで、借用書などの契約書が残っていません。争うことはできますか?
A. できます。親族間や同族会社との資金のやり取りでは、契約書を作っていないことも少なくありません。その場合は、預金口座の送金履歴、決算書での処理の経緯、当時の当事者の関係などを組み合わせて、貸付けがあったかどうかを判断します。どのような資料が残っているかを早めに整理することが大切です。
(※法律上の見解は一般的な事例に基づくものであり、具体的な状況により結論は異なります。)
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※ 本ページは、最終更新日(2026年9月28日)時点の法令・判例・実務に基づいて作成しています。解決の結果は個別の事情を前提としたもので、同様の結果をお約束するものではありません。
【この記事の執筆者】
執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)
弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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