非上場株式の相続税評価見直し【2026年10月時点の最新状況】国税庁有識者会議の論点と相続実務への影響
この記事は、国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の進展に合わせて更新する最新状況のまとめ(ハブ記事)です。最終更新は2026年10月18日で、9月16日の第6回会議の資料と意見書に加え、10月16日公表の東京商工リサーチの企業アンケートを反映しています。
非上場株式(取引相場のない株式)の評価は、相続税の計算だけの問題ではありません。遺産分割や遺留分侵害額請求でも、最も激しく争われる論点のひとつです。相続の紛争を扱う弁護士の視点から、見直しが実務にどう跳ね返るのかを解説します。
現在の状況(2026年10月10日時点)
- 国税庁は2026年8月20日の第5回で「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」を示し、一般の評価会社は会社規模を問わず残余利益方式で評価する枠組みを打ち出しました。
- 9月16日の第6回では各論に入り、残余利益を加算する期間を5年程度とする案、法人税申告書の数値で計算する案、同族役員の報酬やオペレーティングリースによる利益操作への対応案などが示されました。
- 第6回では、国税庁が申告データの1,378社で行った試算も公表されました。加算期間5年・還元率8%・しんしゃく率0.8と仮定した場合、評価額の中央値は現行比で全体+2.3%、大会社+71.7%、中会社+12.1%、小会社▲21.8%です。
- 日本商工会議所の委員は残余利益方式による評価体系の変更そのものに反対する意見書を、経済産業省・中小企業庁は個別の影響を検証して丁寧に議論するよう求める意見書を提出しました。
- 還元率、純資産価額方式の計算方法、配当還元方式は第7回以降の想定論点です。第6回の議事要旨は「作成中」で、第7回の日程は会議ページに掲載されていません。
- いずれも事務局案の段階で、決定事項ではありません。適用開始の時期も未確定です。
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この記事の結論(先にお伝えします)
- 有識者会議は2026年4月20日の第1回から第6回(9月16日)まで開催されました。第5回で国税庁がたたき台(骨子)を示し、第6回で各論と評価水準の試算に進んでいます。
- たたき台では、規模別区分の廃止、継続企業には簿価を用いること、インカムアプローチを主軸とすることが検討課題として示され、具体例として残余利益方式の計算イメージが提示されました。
- 類似業種比準方式については「存置することは困難ではないか」という問いが示されていますが、廃止が決まったわけではありません。適用の時期も内容も未確定です。
- 第6回の国税庁の試算(しんしゃく率0.8と仮定)では、評価額の中央値は大会社で現行比+71.7%、小会社で▲21.8%となり、会社の規模によって影響の向きが分かれます。日本商工会議所は個社によっては2倍から5倍になるとの試算を示して反対し、経済産業省・中小企業庁も慎重な検証を求めています。
- 弁護士の関心は、遺産分割・遺留分で株式をいくらと評価するかにあります。通達改正はこの争いの前提となる数字を動かしうるため、今こそ遺言・株主構成・承継スキームを点検する意味があります。
以下、順に説明します。
前回のおさらいと、その後の進展(第1回→第6回)
これまでの流れを時系列で確認します。
| 回 | 開催日 | 主な内容 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 第1回 | 2026年4月20日 | 現行ルールの問題点と評価額圧縮スキームの実例を提示 | 論点の共有 |
| 第2回 | 2026年5月11日 | 「時価」の捉え方と評価方式間の乖離を議論 | 評価理論の掘り下げ |
| 第3回 | 2026年6月4日 | 事業承継への影響を懸念する立場から反対意見 | 論点の対立が明確化 |
| 第4回 | 2026年7月3日 | 6つの論点について各委員が意見を表明 | 意見出しが一区切り |
| 第5回 | 2026年8月20日 | 国税庁がたたき台を提示。日本商工会議所が意見書を提出 | 事務局案(骨子)が文書化 |
| 第6回 | 2026年9月16日 | 残余利益方式の各論と、1,378社での評価水準の試算を提示。日本商工会議所と経済産業省が意見書を提出 | 各論の検討に入る(議事要旨は作成中) |
第1回(4月20日)── なぜ60年ぶりに見直すのか
2026年4月20日、国税庁は第1回会合を開催しました。座長は慶應義塾大学大学院の佐藤英明教授、委員は学者7名を含む13名です。第1回では、現行ルールの問題点と、評価額を意図的に圧縮するスキームの実例が示されました。きっかけは、会計検査院が令和5年度決算検査報告(2024年11月公表)で、評価方式の違いにより評価額に大きな乖離が生じ、規模の大きな会社ほど相対的に低く評価される傾向があると指摘したことです。現行ルールは昭和39年制定の財産評価基本通達に基づき、抜本的な見直しは制定以来はじめてとなります。背景は第1回会合の解説記事で整理しています。
第2回(5月11日)── 学者委員が示した評価の考え方
第2回では、複数の委員から現行の評価方式の課題と、あるべき方向性についての意見が示されました。市場のない株式の「時価」をどう捉えるか、評価方式間の乖離をどう縮めるかという、評価理論の根幹に関わる議論です。
第3回(6月4日)── 経済界の反論と事業承継の視点
第3回では、経済界の立場から、見直しへの明確な反対姿勢が示されました。中小企業の株式は事業を続ける前提で保有されているのに解散価値で評価するのはおかしいこと、換金性が実質的にない株式に重い税負担を課すのは担税力の観点から公平とはいえないこと、評価方法だけを切り離さず事業承継税制の拡充とあわせて議論すべきこと、が主な主張です。評価の適正化を進めたい立場と事業承継への影響を懸念する立場との緊張関係は、第4回・第5回にも持ち越されました。
第4回(7月3日)── 意見出しの一区切り
第4回(令和8年7月3日)で、事務局である国税庁は、原則的評価方式の一本化、類似業種比準方式の在り方、純資産価額方式の位置づけ、配当還元方式の対象株主の範囲など6点について委員の意見を求めました。一本化には賛成が大勢を占め、類似業種比準方式には理論的・実証的な裏付けがないとして廃止を求める意見が学者委員を中心に相次ぎました。もっとも座長は、一本化や廃止についての合意は現時点でないことを確認しています。事務局は次回にたたき台を示すとし、今秋を目途に一定の方向性を示す方針を説明しました。詳細は第4回の解説記事で扱っています。
第5回(8月20日)── 国税庁が示した「たたき台」
2026年8月20日の第5回会議で、国税庁は「これまでの議論を踏まえた、国税庁の考える評価の見直しの方向性」と題する資料を配付しました。これが予告されていたたたき台です。
資料はまず評価体系について、評価方式間のかい離が規模の異なる企業間の不公平と租税回避スキームの横行を生んでいると整理し、「規模別の区分を廃止し、広範の企業を共通の評価方式で評価することが考えられるか」と問いかけます。次に評価方式について、継続企業を解散前提の時価純資産価額で評価すべきではないとの意見を踏まえ「清算を前提とした時価ではなく、継続を前提として簿価を用いるべきではないか」とし、類似業種比準方式は理論的な根拠や実証的な裏付けがないとの指摘から「存置することは困難ではないか」と問いかけています。
そのうえで、実務・学術研究の進展を踏まえ「インカムアプローチによる評価を主軸とすべきではないか」としています。資料は配当還元方式・DCF法・残余利益方式を比較し、残余利益方式は適用できない企業が特には見あたらず、将来予測への依存が小さいとしたうえで、「仮に」残余利益方式(簿価純資産ベース)を採用した場合のイメージを図解しました。評価額は、簿価純資産に数年分の超過収益(マイナスの場合を含む)を加減して算出する構造です。超過収益とは、企業が通常期待される利益を上回る金額(残余利益)の数年分の現在価値の合計で、過去数年間の平均利益から計算するとされ、何年分とするかは有識者から5年分が良いのではないかという意見があった旨が注記されるにとどまります。
特徴として、計算に必要なものが直前期末の貸借対照表と過去数年分の損益計算書等のみで事務負担が軽微なこと、他方で赤字または低収益の企業は簿価純資産価額以下の評価額になることが挙げられています。還元率は上場株式の平均期待収益率等を参考にCAPM(資本資産価格モデル)により算定してはどうか、という記載にとどまります。
純資産価額方式は「原則的評価方式ではなく、特定の評価会社の株式の評価方式として位置付けてはどうか」、配当還元方式は「適用の範囲等を見直した上で存置してはどうか」とされました。租税回避スキームへの対応としては、会社規模等の操作、利益等の恣意的な操作、グループ法人税制の活用、株主構成等の操作の4類型が示され、株主構成の操作では最大で約98%もの評価額圧縮を行う事例も存在するとされています。
これらはすべて問いかけの形の事務局案であり、決定事項ではありません。当日は、残余利益方式への一本化を柱とする「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」も机上配付され、9月に議事要旨とともに公表されました。議事要旨で国税庁は、類似業種比準方式が適用されている大会社などは評価額が上がりうること、小会社や赤字・低収益の会社では下がる場合があることを認めています。なお第5回には日本商工会議所から意見書が提出され、残余利益方式では中核的な中小企業の評価額が大幅に上昇しうること、評価額を左右する計算要素の数値が示されていないことなどが指摘されています。詳細は第5回(骨子)の解説記事で扱っています。
第6回(9月16日)── 各論の検討と、評価水準の試算
2026年9月16日の第6回では、骨子で示された残余利益方式を実際に動かすための各論に入りました。残余利益方式について8項目(使用する帳簿、加算期間、減損、オペレーティングリース、役員報酬、子会社株式、従業員持株会、純資産価額による頭打ち)、特定の評価会社について3項目が示されています。残余利益を加算する期間は5年程度とし、6年目以降の価値(ターミナルバリュー)は加算しない案です。帳簿は、すべての企業が統一の基準で作成する法人税申告書の数値を使う案が示されました。
国税庁は、令和2年分から5年分の相続税・贈与税の申告から抽出した1,378社について、加算期間5年・還元率8%と仮定した試算も公表しました。しんしゃく率(評価額を割り引く率)ごとに、評価額の中央値が現行の申告評価額からどれだけ増減するかを示したのが次の表です。
| 区分(社数) | しんしゃく率1.0 | 0.9 | 0.8 | 0.7 |
|---|---|---|---|---|
| 全体(1,378社) | +28.1% | +15.2% | +2.3% | ▲10.4% |
| 大会社(128社) | +114.7% | +93.2% | +71.7% | +50.3% |
| 中会社(820社) | +40.2% | +26.1% | +12.1% | ▲1.9% |
| 小会社(430社) | ▲1.9% | ▲12.0% | ▲21.8% | ▲31.6% |
出典:国税庁 第6回資料。還元率8%・しんしゃく率はいずれも仮定値です。
現行より評価額が下がる会社の割合は、しんしゃく率0.8の場合で小会社67.9%、大会社24.2%とされています。もっとも、還元率は第7回以降の論点で、しんしゃく率も仮定値にとどまります。数字が確定するまでは、自社の評価額が上がるか下がるかを判断できません。
第6回には、日本商工会議所の委員から、残余利益方式による評価体系の変更そのものに反対する意見書が提出されました。国税庁の試算でもしんしゃく率0.7で大会社の約7割、全体の4割超の企業の評価額が上がること、独自の試算では個社によって2倍から5倍になることが指摘されています。オブザーバーの経済産業省・中小企業庁も、業種や経営状況ごとの影響を試算・検証し、拙速を避けて丁寧に議論するよう求めました。第6回の資料の詳細は第6回の解説記事で扱っています。
見直しの3つの論点
これまでの議論で浮かび上がっている論点を、3つに整理します。
論点1:評価方式間の乖離
非上場株式の評価には、主に次の3方式があります。
- 類似業種比準価額方式:同業種の上場企業の株価などを基準に評価する方法。
- 純資産価額方式:資産から負債を差し引いた純資産をもとに評価する方法。
- 配当還元方式:配当をもとに評価する方法で、主に少数株主に適用されます。
会計検査院の指摘では、どの方式を用いるかによって評価額に大きな差が生じ、規模の大きな会社ほど相対的に低い評価になりやすいとされています。この乖離をどう縮めるかが見直しの中心的な論点であり、たたき台では規模別の区分を廃止し共通の評価方式で評価することが考えられるか、という問いが正面から示されました。
論点2:配当還元方式の見直し
配当還元方式では、配当額を一定の還元率で割り戻して株価を算定します。この還元率は10%とされていますが、長く続いた低金利のもとでは相対的に高すぎるのではないか、という指摘があります。たたき台での扱いは、廃止ではなく限定的な存置でした。適用の範囲等を見直した上で存置してはどうか、とされ、あわせて最低配当2.5円とする計算方法の見直しが検討事項に挙げられています。
論点3:評価額圧縮スキームと総則6項の関係
第1回会合では、グループ法人税制を利用した手法や、種類株式・組織再編を組み合わせた評価額の圧縮スキームが問題として示されました。国税庁はこれまで、行き過ぎた評価に対して財産評価基本通達6項(総則6項)による個別の否認で対応してきました。今回の見直しは、通達そのものを改正してこうしたスキームに根本から対処しようとするものです。
用語の整理:たたき台を読むための4つの評価方式と総則6項
報道や資料に出てくる用語を整理します。以下の定義は、現行の財産評価基本通達および第5回資料の記載に沿ったものです。
残余利益方式とは(2026年8月のたたき台で示された考え方)
残余利益方式とは、企業が保有する資産である簿価純資産に、企業が通常期待される利益を上回る超過収益(残余利益)の数年分の現在価値を加減して、株式の評価額を算出する方式です。
第5回資料では、必要な資料は直前期末の貸借対照表と過去数年分の損益計算書等のみとされ、赤字または低収益の企業では簿価純資産価額以下の評価額になるとされています。
類似業種比準方式とは(昭和39年の通達以来の原則的評価方式)
類似業種比準方式とは、評価する会社と業種が類似する上場企業の株価を基準に、配当金額・利益金額・純資産価額の3要素を比べて、非上場株式の1株当たりの評価額を算出する方式です。
現行制度では主に大会社に適用されます。第5回資料では、理論的な根拠や実証的な裏付けがないという指摘を踏まえ、存置は困難ではないか、という問いが示されています。
純資産価額方式とは(第5回たたき台では位置付けの変更が検討課題)
純資産価額方式とは、会社の資産を相続税評価額に洗い替えたうえで負債を差し引き、含み益に対応する法人税額等相当額を控除して、1株当たりの評価額を算出する方式です。
現行制度では主に小会社や資産保有型の会社に適用されます。第5回資料では、原則的評価方式ではなく「特定の評価会社の株式の評価方式」として位置付けてはどうか、とされました。
配当還元方式とは(還元率10%で計算する特例的評価方式)
配当還元方式とは、その株式を持つことで受け取れる年配当金額を一定の還元率で割り戻して評価額を算出する、少数株主に適用される特例的な評価方式です。
評価額が低くなるため、株主構成を操作して適用を作り出す濫用が問題とされてきました。第5回資料では、適用の範囲等を見直した上で存置してはどうか、とされました。
総則6項とは(財産評価基本通達6項による個別否認)
総則6項とは、財産評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する、と定めた同通達6項のことです。
個別の事案ごとに通達評価を否定する規定で、「伝家の宝刀」と呼ばれます。
税務の「評価」と、弁護士が扱う「評価」は別物です
ここからが、相続の紛争を扱う弁護士の視点で特にお伝えしたい点です。今回の有識者会議はあくまで相続税・贈与税の課税のための評価ルールを議論する場です。しかし、非上場株式の評価が問題になる場面は、税務だけではありません。
相続税評価額と、遺産分割・遺留分での評価は一致するとは限らない
相続税の計算に使う財産評価基本通達上の評価額と、遺産分割や遺留分でもめたときに前提とすべき「時価」は、必ずしも同じではありません。これらの場面では、通達上の評価額をそのまま用いるのではなく、実態に即した時価をどう捉えるかが争点になります。相手方が相続税評価額を根拠に低い評価を前提とした分割案を出してきても、それが当然に通るとは限りません。
通達改正は「争いの土俵」を動かす可能性があります
相続税評価額の水準が変われば、当事者が交渉の出発点として持ち出す数字も変わります。たたき台が示す方向は、清算価値でも上場企業の縮尺モデルでもなく、簿価純資産に企業の収益力を反映させるというものです。収益力が評価額に直接反映される仕組みになれば、稼ぐ力のある会社の株式は評価額が上がる方向に働き、それを前提とした主張が交渉に持ち込まれます。税務ルールの改正は、紛争の前提そのものを動かしうるのです。
遺産分割・遺留分で非上場株式が争点になるとき
評価をめぐる典型的な対立構造
非上場株式が遺産に含まれる相続では、評価額の見方が立場によって正反対になります。会社を継ぐ側は評価を低く抑えたいと考え、代償金や遺留分を受け取る側は評価を高くしたいと考えます。どの評価方式を採り、決算書の含み益や内部留保をどう読むかによって、算定額が数千万円単位で変わることも珍しくありません。
当事務所では、相手方が提示した不動産および非上場株式の評価額が不当に低いとして相談を受け、適正な評価を主張して4,700万円の遺留分侵害額の獲得に至った事例があります(遺留分の解決事例、非上場株式の解決事例集)。少数株主として株式を売却し、当初提案の約4倍の約1億6000万円での買取りを実現した事例や、総合ページもご覧ください。
改正がこの対立に与えうる影響
これまで低く評価されてきた規模の大きな会社の株式が引き上げられる方向で見直されると、遺産に占める株式の比重が大きく見え、遺留分の算定基礎や代償金の水準に影響しえます。他方、赤字または低収益の会社については簿価純資産価額以下の評価額になるとされており、収益状況によって影響の向きが分かれる点にも注意が必要です。
非上場株式の評価をめぐる遺産分割・遺留分でお困りの方は、当事務所の解決事例もご参照ください。ご相談の流れは初回無料相談のご案内、弁護士費用は費用のページからご確認いただけます。
総則6項という論点(弁護士が押さえておくべき争訟リスク)
「伝家の宝刀」と近年の適用
総則6項は、近年、不動産を用いた過度な節税をめぐって適用され、争訟に発展する例が見られます。最高裁令和4年4月19日判決は、通達評価と実際の取引価額とが大きく乖離した事案で、総則6項による評価を適法と認めた事例として知られています。
通達本文化で争いはどう変わるか
これまで総則6項という個別否認で対応してきた領域が通達本文のルールに取り込まれれば、どこまでが許される評価でどこからが否認されるのかという線引きが変わる可能性があります。従来の対策がそのまま通用するとは限らず、課税庁との間で新たな争点が生じる場面も想定されます。申告そのものは税理士の領域ですが、評価をめぐって争いに発展した場合には、弁護士による対応が必要になることがあります。
改正前の今、点検しておくべきこと
たたき台は示されましたが、議論はまだ結論に至っていません。内容が固まる前だからこそ、現行ルールを前提とした対策を点検しておく意味があります。
経営者の6割強は、見直しの議論をまだ知りません
東京商工リサーチが2026年10月16日に公表したアンケート調査(10月1日〜8日、有効回答5,257社)では、国税庁の有識者会議で評価の見直しが進んでいることを「知っている」と答えた企業は36.6%で、63.3%は「知らない」と回答しました。資本金1億円未満の中小企業に限ると、「知っている」は35.8%です。
見直しを知っている企業に自社の株式評価額への影響を尋ねた質問(回答1,604社)では、「上昇しそうだ」が56.2%、「影響はなさそうだ」が39.9%、「下落しそうだ」が3.8%でした。これは各社の見通しを尋ねたもので、株価を試算した結果ではありません。第6回で国税庁が示した試算では、評価額の中央値が小会社では下がるとされており(下のQ9参照)、会社の区分の基準も調査とは異なるため、両者を単純に比べることはできません。
自社の株式の評価がどう変わるかは、個別に試算してみなければ分かりません。相続や事業承継を控えている会社では、議論の行方を確認しながら、税理士と試算の時期を相談しておくことが考えられます。
現行スキームの棚卸し(税理士との役割分担)
まず、これまで実施してきた事業承継・株価対策が、改正後も有効に機能するかを確認しておくことが考えられます。たたき台が名指しした4類型に近い設計をしている場合は、なおさら早めの点検が必要です。株価評価の試算や税務上の有利不利の判断は税理士の領域であり、当事務所では提携する税理士・公認会計士と連携して検討する体制を整えています。
遺言・種類株式・株主構成の見直し
評価ルールの動きとは別に、誰に株式を承継させ、他の相続人の遺留分にどう配慮するかという法的設計は、早めに整えておくほど選択肢が広がります。遺留分に配慮した遺言、議決権を集約するための種類株式の活用、少数株主の整理といった手当ては、改正の行方にかかわらず検討する価値があります。
事業承継税制の特例措置の期限との関係
あわせて注意したいのが、事業承継税制の特例措置の期限です。後継者が非上場株式を相続・贈与で取得した場合に納税を猶予できるこの特例措置は、租税特別措置法上、2027年12月31日までの相続・贈与が対象とされています。評価ルールの見直しと期限が重なるこの時期は、事業承継の設計を点検する好機とも言えます。適用可否は税理士にご確認ください。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 有識者会議の議論は今どこまで進んでいますか。
A. 2026年4月20日の第1回から、9月16日の第6回まで開催されています。8月20日の第5回で国税庁がたたき台(骨子)を示し、第6回では残余利益方式の各論と、1,378社での評価水準の試算が示されました。第6回の議事要旨は「作成中」で、第7回の日程は2026年10月10日時点で会議ページに掲載されていません。
Q2. 国税庁が示した「たたき台」の内容は何ですか。
A. 会社規模別の区分を廃止して共通の評価方式で評価すること、清算を前提とした時価ではなく継続を前提とした簿価を用いること、インカムアプローチによる評価を主軸とすること、が骨子です。具体例として、「仮に」残余利益方式を採用した場合の計算イメージが図解されました。いずれも問いかけの形で、決定ではありません。
Q3. 残余利益方式とは何ですか。
A. 簿価純資産に、企業の収益獲得能力(通常期待される利益を上回る超過収益、すなわち残余利益)の数年分を加減して評価額を算出する方式です。資料では、必要な資料は直前期末の貸借対照表と過去数年分の損益計算書等のみとされ、赤字または低収益の企業では簿価純資産価額以下の評価額になるとされています。
Q4. 類似業種比準方式は廃止されるのですか。
A. 決まっていません。第5回資料には「類似業種比準方式を存置することは困難ではないか」という問いかけが示されていますが、これはたたき台の方向性であり、廃止が決定されたものではありません。第4回会議でも座長が、一本化や廃止についての合意はないことを確認しています。
Q5. 新しい評価はいつから適用されますか。
A. 適用時期は未確定です。国税庁は税制改正のプロセスを経ることを前提に、今秋を目途に一定の方向性を示す方針を第4回会議で説明しています。評価額を左右する還元率や配当還元方式は第7回以降の論点とされています。報道ベースでは早ければ令和10年(2028年)分の相続からの適用が見込まれると伝えられていますが、内容も時期も今後の議論次第です。
Q6. 相続税の評価額と、遺産分割でもめたときの評価額は同じですか。
A. 必ずしも同じではありません。相続税の計算に使う財産評価基本通達上の評価額と、遺産分割や遺留分で前提とすべき時価は別に考える必要があります。相手方が相続税評価額を根拠に低い評価を提示してきても、それが当然に通るとは限りません。
Q7. 評価方式が変わると遺留分の金額も変わりますか。
A. 影響する可能性があります。通達の見直しで相続税評価額の水準が動けば、交渉の出発点となる数字も変わり、遺留分の算定基礎や代償金の水準に波及することが考えられます。ただし、最終的にいくらと評価するかは個別事案ごとの判断になります。
Q8. 株式評価でもめています。弁護士と税理士のどちらに相談すべきですか。
A. 役割が異なります。株価の算定や相続税の申告は税理士の領域ですが、相手方との交渉、遺産分割調停、遺留分侵害額請求といった法的手続きは弁護士の領域です。評価をめぐって争いになっている場合は、弁護士へのご相談が必要になります。
Q9. 見直し後、評価額は上がりますか、下がりますか。
A. 会社の規模と収益力によって分かれます。第6回で国税庁が示した試算(1,378社、加算期間5年・還元率8%・しんしゃく率0.8と仮定)では、評価額の中央値は現行比で大会社+71.7%、中会社+12.1%、小会社▲21.8%でした。ただし還元率やしんしゃく率は仮定値で、確定した数字ではありません。なお、東京商工リサーチの企業アンケート(2026年10月16日公表)では、見直しを知っている企業の56.2%が評価額は「上昇しそうだ」と答えていますが、これは各社の見通しで、試算の結果ではありません。
まとめ:弁護士法人IGT法律事務所ができること
非上場株式の相続税評価の見直しは、たたき台に続いて各論と試算が示された段階にあり、まだ議論の途中です。しかし、この動きは税額の問題にとどまらず、遺産分割・遺留分をめぐる争いの前提を動かしうるものです。
弁護士法人IGT法律事務所は、非上場株式や不動産の評価が争点となる相続紛争に注力してきました。相手方が提示する評価額の「根拠の穴」を数字で検証し、税理士・公認会計士と連携しながら、交渉から調停・訴訟までを一貫してご支援します。お悩みの方は初回60分無料相談をご利用ください。
- シリーズ第1弾:第1回会合の解説
- シリーズ第3弾:第4回の解説
- シリーズ第4弾:第5回(骨子)の解説
- シリーズ第5弾:第6回の解説
- 最高裁令和2年3月24日判決の解説
- 非上場株式の相続でお悩みの方へ
- 担当弁護士のプロフィール
この記事の更新履歴(2026年)
- 2026年7月11日 初出(第1回から第3回までを掲載)
- 2026年8月29日 第4回の解説記事を別記事として公開
- 2026年9月6日 第5回のたたき台を反映し、最新状況ハブとして全面改訂
- 2026年10月10日 第5回の骨子・議事要旨と、第6回の資料・意見書・評価水準の試算を反映
- 2026年10月18日 東京商工リサーチの企業アンケート(10月16日公表)を追記
会議が開かれるたびに内容を追記し、この欄に記録していきます。
参考にした一次情報
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」一覧
- 国税庁第5回資料・第5回 委員提出意見書(2026年8月20日)
- 国税庁第5回 当日机上配付資料(骨子)・第5回議事要旨
- 国税庁第6回資料・第6回 委員提出意見書・第6回 オブザーバー等提出意見書(2026年9月16日)
- 国税庁第4回議事要旨・第4回資料
- 国税庁第1回・第2回・第3回資料、開催について、委員名簿
- 東京商工リサーチ TSRデータインサイト「「取引相場のない株式評価」見直し、認知は36.6% 見直しの場合、評価額が「上昇見込み」は半数超える」(2026年10月16日)
- 会計検査院「令和5年度決算検査報告」(2024年11月公表)
- 相続税法22条、財産評価基本通達6項(e-Gov)、最高裁令和4年4月19日判決(裁判所ウェブサイト)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。また、有識者会議の議論は本稿の更新時点のものであり、今後の議論により内容が変わる可能性があります。税務上の取扱いについては税理士に、具体的な法的対応については弁護士にご相談ください。
【この記事の執筆者】
執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)
弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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