使途不明金問題を追及すべきか|少額案件・証拠が乏しい場合の注意点

使途不明金問題を追及すべきか|少額案件・証拠が乏しい場合の注意点

使途不明金問題を追及すべきか|少額案件・証拠が乏しい場合の注意点

相続が発生したあと、被相続人の預金が大きく減っていることに気づき、ご兄弟やご親族による「使い込み」を疑ってご相談に来られる方は少なくありません。

ただ、ご相談を受けている立場から率直に申し上げますと、預金の出金が疑わしいからといって、必ずしもそのすべてを追及することがご相談者の利益になるとは限りません。出金額が小さい場合、客観的な証拠が乏しい場合、あるいは感情的な対立が中心となっている場合には、回収できる見込み額よりも弁護士費用、時間的負担、精神的負担の方が大きくなることがあるためです。

この記事では、預金使い込み・使途不明金の問題について、追及を検討しやすいケース、慎重に考えるべきケース、弁護士に相談する前に整理しておきたい資料という3つの観点から、判断のポイントを冷静にご説明します。「徹底的に取り返す」ことを煽るのではなく、ご自身の状況を見極めていただくための材料を提供することを目的としています。

預金の使い込み・使途不明金とは

相続における「使途不明金」とは、被相続人が亡くなる前後に預金口座から出金された金銭のうち、誰がどのような目的で引き出したのか客観的に説明できない部分を指す言葉です。法律上の明確な定義があるわけではなく、実務上の呼び方として用いられています。

相続開始前後に預金が減っているケース

典型的なのは、被相続人の死亡後に取引履歴を取り寄せたところ、生前の数年間に数百万円、場合によっては数千万円規模の出金が確認されるケースです。被相続人ご本人が使ったのか、同居していたご家族が引き出したのか、判断がつかないことがあります。

親族が通帳やキャッシュカードを管理していたケース

被相続人が高齢で、特定の相続人が通帳やキャッシュカードを預かって金銭管理を行っていた場合には、その相続人が出金した金銭の使途について、ほかの相続人から説明を求められることがあります。介護や同居の経緯から、ご家族の一人に管理が集中していたという状況は珍しくありません。

遺産分割で問題になる場合と、別途請求が必要になる場合

被相続人の生前に引き出された使途不明金は、相続人全員が同意すれば遺産分割調停の中で取り扱うこともできます。しかし、相手方が同意しない場合には、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求として、別途訴訟が必要になることがあります。他方、相続開始後に相続人の一人が引き出した預金は、引き出した本人の同意がなくても、他の相続人全員の同意があれば遺産に含めて分割できます(民法906条の2第2項)。この点が、使途不明金問題の解決を難しくする一因です。

なお、被相続人名義の預金口座が争点となった具体的な事例として、当事務所の遺産分割|相続人が出捐した被相続人の名義預金を遺産に含めずに解決もあわせてご参照ください。預金問題は単に「使い込み」と一括りに整理できるものばかりではなく、名義預金など、性質の見極めから始めるべきケースも少なくありません。

預金使い込みの相談で多い誤解

ご相談の場で、しばしば前提として誤解されている点があります。代表的なものを3つご紹介します。

通帳を見ればすべて分かるわけではありません

通帳や取引履歴を取り寄せれば、出金日、出金額、ATMの設置場所などはある程度確認できます。しかし、誰がカードを操作したのか、引き出された現金が実際に何に使われたのかという点までは、通帳から直接読み取ることはできません。窓口出金の場合でも、当時の本人確認書類や伝票が金融機関に残っていなければ、引き出した人物の特定は容易ではありません。

疑わしいだけでは請求が認められるとは限りません

「同居していた相続人しか引き出せなかったはず」「金額が大きすぎて本人の生活費とは思えない」といった事情は、確かに疑念を持つ理由になります。しかし、訴訟で請求が認められるためには、原則として、出金者の特定、被相続人の意思に反する出金であったこと、被相続人本人のために使われていないことなどを、客観的な証拠で示す必要があります(預金を管理していた側に使途の説明が求められる場合もあり、立証の分担は事案によります)。「疑わしい」というだけでは足りないのが現実です。

弁護士に依頼しても、すべての出金を調査・回収できるわけではありません

弁護士に依頼すれば、金融機関への取引履歴の照会、医療機関や介護施設への資料請求など、ご自身では難しい調査を進めることはできます。ただし、何年も前の出金については資料が残っていない、相手方が任意に資料を出さない、出金者の特定ができないなどの理由で、すべての出金について追及できるわけではありません。

追及を検討しやすいケース

弁護士による本格的な追及を検討しやすいのは、回収見込みと客観的資料が一定程度そろっているケースです。

数百万円以上の大口出金がある

問題となっている出金額が、目安として500万円から1,000万円以上にのぼる場合、あるいは100万円単位の出金が複数回繰り返されている場合は、相手方が資金使途の合理的な説明を行えないと、請求が認められやすくなります。また、弁護士費用との関係でも追及を検討する余地が生まれます。

認知症・入院・施設入所後の出金である

被相続人の判断能力が低下していた時期や、入院・施設入所により本人がATMを操作することが事実上困難であった時期の出金は、ご本人以外の関与が疑われる重要な事情です。診断書、介護認定資料、入院記録、施設入所資料などが残っている場合には、客観的な裏付けになります。

預金を管理していた相続人が明確である

被相続人の通帳やキャッシュカードを実際に管理していた相続人が特定できる場合、その相続人に対し、出金の経緯や使途について説明を求めやすくなります。誰が管理していたか不明なケースに比べ、争点を絞り込みやすいといえます。

取引履歴、診断書、介護記録などの資料がある

過去10年程度の取引履歴、被相続人の診断書、介護記録、施設入所資料、医療費の領収書などが残っている場合、被相続人の生活実態と出金額が整合しているかを検討しやすくなります。

遺産分割・遺留分・不動産など他の争点もある

使途不明金は、単独で争うよりも、遺産分割、遺留分、不動産の評価、非上場株式の評価といった他の争点と合わせて解決を図ることで、ご相談者にとって全体最適な解決につながることがあります。複雑な相続問題を含むケースでは、弁護士に依頼する意義が比較的明確といえます。

関連する争点については、当事務所の不動産相続のご案内、非上場株式の相続のご案内、遺留分侵害額請求についてのコラムもご参照ください。また、預金や不動産を含む遺産分割の具体的な解決事例は、遺産分割の解決事例一覧からもご確認いただけます。

慎重に考えるべきケース

一方で、次のようなケースでは、弁護士による本格的な追及が必ずしもご相談者の利益にならないことがあります。判断材料としてご紹介します。

少額の出金が中心である

問題となっている出金額が、数万円から数十万円程度の小口の出金が中心となっている場合、回収できる見込み額に比べて、弁護士費用や時間的負担が大きくなる可能性があります。少額の出金が中心の場合は、費用対効果の観点から、弁護士による本格的な追及に適さないことがあります。

生活費・医療費・介護費として説明されやすい

被相続人の生活費、医療費、介護費、施設費などとして相手方から説明されやすい金額・時期の出金については、その説明を覆すことが難しい場面があります。被相続人と同居していたご家族が、日々の支払いのために預金から引き出していたという説明には、一定の合理性が認められやすい傾向があります。

古い出金で資料が残っていない

金融機関の取引履歴は、一般に過去10年程度しか保管されていません。それ以前の出金や、医療・介護関係の資料がすでに残っていない時期の出金については、客観的な裏付けが取りにくくなります。

感情的対立が中心で、回収見込み額が小さい

「相手方を問い詰めたい」「謝罪させたい」というご感情が中心となり、実際の回収見込み額が小さいケースでは、弁護士による法的手続きが、ご相談者が本当に望まれている解決につながりにくいことがあります。

弁護士費用や時間的負担が回収見込みに見合わない

調停や訴訟は、半年から数年単位の期間を要することが少なくありません。すべての出金を争うことが、必ずしも依頼者の利益になるとは限らない、というのが実務上の率直な感覚です。

少額の使途不明金を追及するリスク

少額の出金まで網羅的に追及しようとした場合、次のようなリスクがあります。

調査に時間がかかる

出金1件ごとに、その時期の被相続人の生活状況、医療・介護の状況、相手方の説明と矛盾するか否かを検討する必要があり、調査だけで相応の時間を要します。

相手方との対立が深まる

少額の出金を一つひとつ追及することで、相手方との感情的対立が深まり、本来は和解で解決できたはずの他の争点(遺産分割、遺留分など)まで紛争化してしまうことがあります。

遺産分割全体の解決が遅れる

使途不明金に強くこだわるあまり、不動産の処分や預貯金の分配など、遺産分割全体の解決が遅れる結果、ご相談者ご自身の生活設計にも影響が及ぶことがあります。

費用倒れになる可能性がある

回収できた金額より、弁護士費用、実費、ご自身の時間的負担の方が大きくなる、いわゆる「費用倒れ」の状態に陥る可能性があります。

弁護士に相談する前に整理しておきたい資料

ご相談前に、可能な範囲で以下の資料を整理いただけると、初回相談で具体的な見通しをお伝えしやすくなります。すべて揃っていなくても構いません。

預金通帳・取引履歴

被相続人名義の通帳、または金融機関から取り寄せた取引履歴(過去10年分が目安)。複数口座がある場合はすべて。窓口出金の場合、伝票の写しが保存されていることもあるため、必要に応じて金融機関に確認します。

被相続人の診断書・介護認定資料・施設入所資料

認知症の進行状況、要介護度、入院・施設入所の時期がわかる資料。出金時期と被相続人の状態を照らし合わせるうえで重要な意味を持ちます。

相手方とのLINE・メール・手紙

預金管理や金銭の使途について、相手方が説明しているやり取り、あるいは説明を拒んでいる経緯がわかるものがあれば、有力な手がかりになります。

出金時期と金額をまとめた一覧表

ご自身で、「いつ」「いくら」「どの口座から」「窓口かATMか」を一覧化していただくと、争点の整理が一気に進みます。完璧な形でなくても、エクセルや手書きのメモで構いません。

相談を検討しやすいケースと慎重に考えるべきケースの比較

以下の比較表は、ご自身の状況を客観的に振り返るための目安としてご活用ください。

項目 相談を検討しやすいケース 慎重に考えるべきケース
金額 数百万円以上のまとまった出金がある 1回の出金が数万円から数十万円程度
出金時期 認知症、入院、施設入所後 本人が元気に生活していた時期
証拠 取引履歴、診断書、介護記録がある 記憶や推測が中心
管理者 預金管理者が特定できる 誰が管理していたか不明
相手方の説明 説明に矛盾がある 生活費等として説明されやすい
費用対効果 回収見込みが弁護士費用に見合う 回収見込みより負担が大きい

複数の項目が「相談を検討しやすいケース」に該当する場合は、ご相談を通じて具体的な見通しを検討する意義が比較的明確です。一方で、「慎重に考えるべきケース」に該当する項目が多い場合は、追及の範囲や進め方について、より丁寧な検討が必要になります。

当事務所で対応を検討しやすい案件

当事務所では、特に次のような案件について、ご相談を通じた具体的な検討をしやすい体制でお受けしています。

追及額が大きい案件

問題となる出金額が大きく、回収見込みと弁護士費用とのバランスが取りやすい案件。

客観的資料がある案件

取引履歴、診断書、介護記録など、被相続人の状態と出金の整合性を検討できる資料が残っている案件。

調停・訴訟を見据える必要がある案件

相手方が任意の解決に応じず、遺産分割調停や訴訟による解決を見据える必要がある案件。

不動産・非上場株式・遺留分など複雑な相続問題を含む案件

使途不明金が単独の争点ではなく、遺産分割、遺留分、不動産の評価、非上場株式の評価といった複雑な争点と並存している案件。

当事務所で慎重に判断する案件

一方で、次のような案件については、ご相談はお受けしたうえで、追及の範囲や進め方について慎重にご一緒に検討させていただきます。すべての出金を争うことが、必ずしも依頼者の利益になるとは限らないためです。

少額の出金が中心の案件

回収見込み額に比べて、弁護士費用や時間的負担が大きくなることが見込まれる案件。

証拠が乏しい案件

客観的資料がほとんど残っておらず、相手方の説明を覆すことが現実的に難しい案件。

相手方への不満や怒りが主な目的になっている案件

法的な回収よりも、相手方への謝罪要求や制裁的な追及を望まれている案件は、弁護士による法的手続きでは満たしにくいことがあります。追及の目的は、相手を罰することではなく、公平な相続に近づけることである、という点を共有させていただくことになります。

回収見込みに比べて費用負担が大きくなる案件

費用倒れの可能性が高い案件は、ご相談者の利益という観点から、ご一緒に方針を再検討させていただくことがあります。

よくある質問

Q1. 兄弟が親の預金を使い込んだと思います。取引履歴だけで請求できますか。

取引履歴だけで請求が認められるとは限りません。出金の事実は確認できても、誰が引き出したのか、何に使われたのかという点は、別の資料や事情から立証する必要があります。診断書、介護記録、相手方とのやり取り、被相続人の生活状況など、複数の資料を組み合わせて主張を組み立てることが一般的です。

Q2. 少額の出金でも追及できますか。

法律上、少額だから請求できないというルールはありません。ただし、弁護士費用、時間的負担、相手方との関係悪化を踏まえると、少額の出金が中心の案件は、費用対効果の観点から本格的な追及に適さないことがあります。遺産分割全体の中での調整として扱うのが現実的な場合もあります。

Q3. 遺産分割調停の中で使途不明金も解決できますか。

被相続人の生前の出金は、相続人全員が同意すれば遺産分割調停の中で取り扱うことができます。ただし、相手方が同意しない場合には、遺産分割とは別に、不当利得返還請求や損害賠償請求として訴訟を提起する必要が生じることがあります。相続開始後の出金は、引き出した本人の同意がなくても、他の相続人全員の同意があれば遺産に含めて分割できます(民法906条の2第2項)。

Q4. 証拠が少ない場合でも弁護士に依頼できますか。

ご依頼自体を一律にお断りすることはありません。ただし、証拠が乏しい場合には、訴訟で請求が認められる可能性が低くなることや、追加調査にも一定の限界があることをあらかじめお伝えしたうえで、進めるべきか慎重にご検討いただくことになります。

Q5. 弁護士に相談する前に何を準備すべきですか。

預金通帳または取引履歴、被相続人の診断書や介護認定資料、施設入所資料、相手方とのやり取り、ご自身で作成された出金一覧表があると、初回相談で具体的な見通しをお伝えしやすくなります。完璧に揃っていなくても構いません。

預金の使い込みが疑われる方へ

預金の使い込みが疑われる場合でも、すべての出金を追及することが、必ずしもご相談者にとって最善の選択になるとは限りません。

まずは、出金の金額、出金時期、被相続人の健康状態、預金管理者、相手方の説明状況、そしてご自身の手元にある資料を整理いただいたうえで、追及すべき範囲、交渉や訴訟の見通し、弁護士費用との費用対効果をあわせてご検討いただくことが大切です。

特に、数百万円以上の大口出金がある場合、認知症・入院・施設入所後の出金である場合、取引履歴や診断書などの客観的資料が残っている場合、不動産・非上場株式・遺留分など他の相続上の争点もある場合には、弁護士へのご相談を通じて具体的な見通しを検討する意義が比較的明確です。

一方で、少額の生活費的な出金が中心となる場合や、資料がほとんど残っていない場合には、費用対効果を踏まえて慎重に判断する必要があります。すべての出金を網羅的に争うのではなく、相続全体としてどのように解決していくかという視点も重要です。

ご自身の状況に応じた判断のために、まずは資料を整理いただき、必要に応じて初回60分無料相談からお問い合わせください。当事務所では、年間100件以上の相続相談に対応しており、不動産・非上場株式の評価が絡む複雑な相続案件にも継続的に取り組んでいます。

【この記事の執筆者】

弁護士 小林洋介

執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)

弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
▶ 弁護士小林洋介のプロフィール詳細 / ▶ 初回60分無料相談のご予約はこちら

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