遺言執行|信託銀行に任せていた遺言執行者を弁護士に変更する遺言を作成し、相続開始から約7か月で遺産4億円超の執行を終えた事例
公開日:2026年11月1日
※本記事は実際の事案をもとに、依頼者のプライバシー保護のため、一部内容を変更・省略しています。
本事例の結論と解決のポイント
80代のご主人と70代の奥様には、2人の娘様がいます。二女には障害があり、ご自身で遺産分割協議に加わることができません。遺言がなければ、相続が起きても家族だけでは遺産を分けられない状況でした。そこでご夫婦は、数年前に公正証書遺言を作成し、遺言執行者に信託銀行を指定していました。しかし、このまま信託銀行に任せることに不安を感じ、以前から相談していた弁護士(当事務所の小林)に遺言執行者を代えたいと希望されました。
遺言執行者は、遺言でしか指定できません。当事務所は、遺言の内容はそのままに、遺言執行者と報酬の条項だけを変更する公正証書遺言を、ご夫婦それぞれについて作成しました。ご主人は足が悪く外出が難しかったため、公証人にご自宅まで来てもらい、最初の打合せから約3週間で作成を終えました。
その約1年3か月後、ご主人が亡くなりました。当事務所の弁護士が遺言執行者に就任し、7つの金融機関への照会と、6つの金融機関での預貯金・金銭信託・外貨預金の解約、貸金庫の開扉、自宅の相続登記を行い、遺言のとおりに奥様と2人の娘様へ分配しました。遺産は金地金を含めて4億円を超えていましたが、遺産分割協議を経ることなく、相続開始から約7か月で執行を終え、相続税の申告期限まで余裕を残して税理士に資料を引き継ぎました。
遺言の執行、誰に任せますか。
遺言執行者の変更から執行まで、弁護士が担います。
「遺言執行者を信託銀行から弁護士に代えたい」「遺産分割協議に加われない子がいて、遺言を考えている」「相続が始まり、遺言の執行を任せたい」など、遺言と遺言執行のお悩みは、一人で抱え込まず専門家にご相談ください。
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解決のポイント
- 遺産分割協議ができない相続人がいるため、遺言と遺言執行者で遺産の分配まで完結させる設計にした
- 遺言の内容は変えず、遺言執行者と報酬の条項だけを変更する遺言にした
- 体調を理由に手続を見送りかけたご夫婦に、変更しなければ信託銀行が執行者のままになると説明し、公証人の出張と書類の取得を当事務所で引き受けた
- 相続開始後は、3通あった遺言の効力関係を最初に整理し、執行の根拠を明確にした
- 遺言に明記された解約・換金・貸金庫の開扉の権限を使い、金融機関の手続を遺言執行者の側で進めた
- 執行の過程で集めた資料を、相続税申告を担う税理士に引き継いだ
遺産分割協議ができない相続人がいるとき、遺言と遺言執行者が欠かせない
遺言がなければ、遺産は相続人全員の遺産分割協議で分けることになります。障害などにより協議の内容を理解して判断することができない相続人がいると、その人を除いて協議をすることはできず、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらい、後見人が代わって協議に加わる必要があります(民法859条1項)。親が後見人になっても、親自身も相続人であれば利益が相反するため、後見監督人がいない限り、遺産分割の場面では特別代理人の選任が必要です(民法860条・826条)。
遺言で財産の分け方を決めておけば、遺産分割協議をせずに遺産を承継させられます。さらに、遺言執行者を指定し、預貯金の解約や登記の権限を遺言に書いておけば、相続人の協力を得なくても、遺言執行者が分配まで完結させられます。協議に加われない相続人がいるご家族にとって、遺言と遺言執行者は、遺産を分けるための唯一の手段になることがあります。
遺言執行者は、遺言でしか変えられない
遺言執行者の指定と変更
遺言執行者は、遺言で指定します(民法1006条1項)。いったん指定した遺言執行者を代えるには、新たに遺言をし、前の遺言のうち執行者を定めた部分を撤回する必要があります(民法1022条・1023条1項)。銀行との契約を解約したり、家族の間で取り決めたりするだけでは、遺言で指定された執行者は変わりません。
遺言の内容まで書き直す必要はありません。「原遺言のうち遺言執行者の条項を次のとおり変更する。変更しない部分は原遺言のとおりとする」という形の遺言にすれば、財産の分け方はそのまま残り、遺言執行者だけを代えられます。
相続が始まってからでは、執行者を代えるのは難しい
相続開始後に遺言執行者を代えるには、家庭裁判所の手続が必要です。遺言執行者の側から辞任するには正当な事由と家庭裁判所の許可が要り(民法1019条2項)、相続人の側から解任を求めるには、任務を怠ったことなどの正当な事由が必要です(同条1項)。「別の人に頼みたい」というだけでは代えられないため、ご本人がお元気なうちに遺言で変更しておくことが大切です。
遺言執行者が持つ権限
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を負います(民法1012条1項)。令和元年7月1日以降に作成された遺言では、特定の財産を特定の相続人に「相続させる」とした遺言について、遺言執行者が単独で相続登記を申請できます(民法1014条2項)。預貯金の解約や貸金庫の開扉は、遺言にその権限を明記しておくと、金融機関とのやり取りが格段に進めやすくなります。
【事案の概要】信託銀行に任せていた遺言執行を、弁護士に任せたい
| 項目 | 内容 |
| 遺言者 | ご夫婦(変更遺言の作成時、ご主人は80代・奥様は70代。ご主人が先に死亡) |
| 相続人 | 奥様、長女、二女(障害があり、遺産分割協議に加われない) |
| 当初の遺言 | 公正証書遺言。遺言執行者は信託銀行 |
| 遺言の内容 | 自宅(ご夫婦の共有)は奥様。預貯金などの金融資産は、奥様に2分の1、長女・二女に各4分の1 |
| 遺産 | 自宅の土地建物(共有持分)、7つの金融機関の預貯金・金銭信託・外貨預金、貸金庫の金地金など。総額4億円超 |
| 当事務所の役割 | 遺言執行者を変更する遺言の作成(ご夫婦各1通)、相続開始後の遺言執行 |
| 結果 | 相続開始から約7か月で遺言執行を終了。相続税申告の税理士に資料を引継ぎ |
ご夫婦は、障害のある二女の将来について、以前から担当弁護士に相談されていました。二女は遺産分割協議に加われないため、相続が起きたときに遺産を分けられるかどうかは、遺言と遺言執行者にかかっています。ご夫婦はその執行を信託銀行に任せることに不安を口にされ、遺言の内容はそのままに、遺言執行者を当事務所の弁護士に代えたいとのご希望を伺いました。
当事務所の対応
1 遺言の内容は変えず、遺言執行者と報酬の条項だけを変更した
ご夫婦の遺言は、財産の分け方も、障害のある二女への配慮を込めた付言も、すでにご夫婦の意思に沿ったものでした。そこで、遺言全体を作り直すのではなく、遺言執行者を定めた条項と、執行報酬を定めた条項だけを変更する遺言を作成しました。報酬は、信託銀行との約定書に基づく計算から、当事務所の基準による計算に改めました。
信託銀行との約定書も確認しました。遺言信託の契約では、遺言書の保管や執行の予約について手数料が定められ、契約時に支払った手数料は返金されない扱いになっていることがあります。どのような負担が残るのかを確認したうえで、変更に進みました。
2 「もう作り替えなくてもいい」というご夫婦に、変更しないとどうなるかを説明した
手続を進める途中で、ご主人から、体調が悪く役所にも行けないので、遺言を作り替えなくてもよいのではないか、というお電話がありました。
当事務所は、遺言を変更しなければ遺言執行者は信託銀行のままで、相続が起きたときに当事務所が執行を担うことはできない、とご説明しました。遺産分割協議ができないご家族では、執行を誰が担うかが相続の行方を左右します。あわせて、公証人にはご自宅まで来てもらうよう公証役場と調整済みであること、本人確認に必要な印鑑登録証明書は、お預かりした印鑑登録証で当事務所が市役所から取得できることをお伝えしました。
ご夫婦からは、やはり当事務所に任せたいとのお返事をいただきました。公証人がご自宅を訪れ、当事務所の弁護士と事務員が証人となって、ご夫婦それぞれの遺言を作成しました。最初にご自宅を訪問してから約3週間後のことです。
3 相続開始後、3通の遺言の効力関係を最初に整理した
約1年3か月後、ご主人が亡くなり、ご家族から連絡を受けました。最初の打合せで、ご主人の遺言が3通あることを確認しました。
- 1通目:最初に作成した公正証書遺言
- 2通目:数年後に作成し、「これまでに作成した遺言の全てを撤回」したうえで、改めて財産の分け方を定めた公正証書遺言(遺言執行者は信託銀行)
- 3通目:当事務所が関与し、2通目の遺言執行者と報酬の条項だけを変更した公正証書遺言
1通目は2通目で全部撤回され、効力を持つのは2通目です。3通目は2通目と一体として解釈され、遺言執行者は当事務所の弁護士となります。この整理を相続人の皆様と共有したうえで、遺言執行者に就任し、遺言の内容を相続人に通知しました(民法1007条2項)。法定相続情報一覧図も、遺言執行者が代理人となって法務局に申し出て取得しました。
4 6つの金融機関の解約と、貸金庫の開扉
遺言には、遺言執行者が金融資産を解約・換金し、費用を差し引いて相続人に交付すること、貸金庫を開扉・解約することが明記されていました。当事務所は、この権限に基づいて、遺言に記載された7つの金融機関に照会し、口座が残っていた6つの金融機関で解約を申し入れました。
- 普通預金・定期預金のほか、信託銀行の金銭信託、米ドル建ての外貨定期預金も解約した
- 長年使われていなかった外貨普通預金口座が照会で見つかり、残高がないことを確かめて閉鎖した
- 貸金庫を開扉し、保管されていた金地金を確認した
- 解約金は、いったん遺言執行者が管理する預り口座に集め、入出金を一覧できるようにした
金融機関とのやり取りは、相続人の皆様にお願いすることなく、当事務所で進めました。二女のために成年後見人の選任を申し立てる必要もありませんでした。金融機関ごとに必要書類や手続の期間は異なりましたが、約4か月ですべての解約金の受領を終えました。
5 金地金と自宅の扱い、費用の清算
遺言では、預貯金などの「現金及び金融資産」は、奥様2分の1・長女と二女各4分の1の割合で分けることになっていました。金地金は預貯金とは性質が異なるため、遺言のどの条項に当たるかを検討し、奥様が取得する財産として整理しました。保管と換金の方法も、奥様と相談しました。
自宅は、ご主人の共有持分を奥様が取得します。司法書士と連携し、遺言執行者として相続登記を申請しました。自宅の火災保険の契約も、取得者である奥様への名義変更をご案内しました。
葬儀費用や登記費用、遺言執行の費用は、遺言の定めに従い、金融資産を取得する方がその割合で負担する形で清算しました。長女が立て替えていた葬儀費用もお返ししています。最後に、相続開始時と換価時の金額を並べた財産目録を作成して交付し(民法1011条)、各相続人に分配しました。
6 相続税申告への引継ぎ
相続税の申告期限は、相続開始から10か月以内です。当事務所は、申告を担う税理士をご紹介し、戸籍、登記事項証明書、残高証明書、財産目録など、執行の過程で集めた資料を引き継ぎました。
解決結果
| 項目 | 内容 |
| 遺言執行者の変更 | 最初の訪問から約3週間で、ご夫婦それぞれの変更遺言を作成(公証人の出張) |
| 遺言執行の期間 | 相続開始から約7か月 |
| 金融機関 | 7機関に照会し、6機関で解約(預貯金・金銭信託・外貨預金。休眠口座1件を閉鎖) |
| 不動産 | 遺言執行者の申請で、ご主人の共有持分を奥様へ相続登記 |
| 分配 | 遺産分割協議を経ずに、費用を清算のうえ遺言のとおり奥様と2人の娘様に分配 |
| 相続税申告 | 申告を担う税理士に資料を引継ぎ |
IGTからのコメント
遺言を作るときは、財産の分け方に目が向きがちです。けれども、相続が起きたときに実際に手を動かすのは遺言執行者です。とりわけ本件のように、遺産分割協議に加われない相続人がいるご家族では、遺言と遺言執行者がなければ遺産を分けることができません。誰に執行を任せるかは、財産の分け方と同じくらい大切です。
信託銀行の遺言信託には、組織として継続的に対応できるという利点があります。一方で、何年も前に結んだ契約の担当者と顔を合わせる機会がなくなり、このまま任せてよいのか不安になる方もいます。本件のご夫婦もそうでした。遺言執行者は、遺言を作り直すことなく、執行者の条項だけを変更する遺言で代えられます。ご本人が外出できなくても、公証人の出張で対応できます。
相続が始まってからでは、遺言執行者を代えるのは簡単ではありません。執行者を代えたいと思ったら、お元気なうちに手続をしておくことをおすすめします。
本件では、遺言の作成に関わった弁護士が、そのまま執行を担いました。ご家族の事情を以前から知っていたので、障害のある二女の取得分の受け取り方まで、執行と並行してご家族と相談を進められました。遺言の作成から相続開始後の執行までを同じ弁護士が担えることが、弁護士を遺言執行者に指定しておく利点の一つだと考えています。
【FAQ】遺言執行者の変更・遺言執行に関するよくある質問
Q1. 遺言で指定した遺言執行者を、後から変更できますか。
できます。新たに遺言をして、前の遺言のうち遺言執行者を定めた部分を変更します(民法1022条・1023条1項)。財産の分け方は変えず、遺言執行者の条項だけを変更する遺言も作れます。公正証書遺言で作成するのが確実です。
Q2. 遺言執行者を信託銀行から弁護士に変えるとき、注意することはありますか。
信託銀行との遺言信託の約定書を確認してください。契約時に支払った手数料が返金されない定めや、遺言を変更するときに銀行へ通知する定めが置かれていることがあります。あわせて、遺言執行者の報酬の定めも、新しい執行者の基準に合わせて変更しておきます。
Q3. 相続が始まった後に、遺言執行者を代えることはできますか。
遺言執行者が自ら辞任するには正当な事由と家庭裁判所の許可が必要で(民法1019条2項)、相続人が解任を求めるには、任務を怠ったことなどの正当な事由が必要です(同条1項)。指定された遺言執行者が亡くなっている場合や就任を断った場合は、家庭裁判所に新たな遺言執行者の選任を申し立てます(民法1010条)。
Q4. 遺言執行者は、貸金庫を開けたり、預金を解約したりできますか。
遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を持ちます(民法1012条1項)。実務では、遺言に「貸金庫の開扉・解約」「預貯金の解約・換金」の権限を明記しておくと、金融機関の手続がスムーズです。本件の遺言にはこれらの権限が明記されていたため、金融機関の手続を遺言執行者の側で進められました。
Q5. 障害があって遺産分割協議に加われない子がいます。遺言を作っておかないとどうなりますか。
遺産を分けるには相続人全員での遺産分割協議が必要なため、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらい、後見人がその子に代わって協議に加わることになります(民法859条1項)。親が後見人であっても、親自身が相続人であれば、後見監督人がいない限り、遺産分割の場面では特別代理人の選任が必要です(民法860条・826条)。遺言で分け方を決め、遺言執行者を指定しておけば、遺産分割協議をせずに遺産を承継させられます。
(※法律上の見解は一般的な事例に基づくものであり、具体的な状況により結論は異なります。詳しくは弁護士法人IGT法律事務所の初回無料相談をご利用ください。)
参考(一次情報)
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【この記事の執筆者】
執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)
弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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※ 本記事は、公開日(2026年11月1日)時点の法令、判例、実務に基づき作成しています。解決の結果は個別の事情を前提としたもので、同様の結果をお約束するものではありません。



