非上場株式の評価見直し、次回「たたき台」提示へ|有識者会議 第4回の論点を弁護士が解説

非上場株式の評価見直し、次回「たたき台」提示へ|有識者会議 第4回の論点を弁護士が解説

非上場株式の評価見直し、次回「たたき台」提示へ|有識者会議 第4回の論点を弁護士が解説

最新状況(2026年10月10日更新):有識者会議は第6回(2026年9月16日)まで開催され、国税庁が1,378社での評価水準の試算を公表しています。最新の状況は、まとめ記事非上場株式の相続税評価見直し【最新状況】で随時更新しています。

2026年4月に始まった国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は、7月3日に第4回会議を開催し、これまでに出た論点への各委員の意見が出そろいました。当サイトでは第1回会合の解説記事と第2回・第3回の続報記事を公開しており、本記事はその第3弾です。第4回で何が語られ、議論がどの段階に進んだのかを、相続紛争を扱う弁護士の視点から解説します。

この記事のポイント

  • 第4回会議(令和8年7月3日)では、評価方式の一本化、類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式の見直しなど6つの論点について各委員が意見を述べ、「意見出し」の段階が一区切りとなりました。
  • 類似業種比準方式には「理論的裏付けがなく廃止すべき」との意見が学者委員を中心に相次ぎました。ただし座長・事務局とも、廃止や一本化について現時点で合意はないと明言しています。
  • 日本商工会議所は意見書を提出し、拙速な議論を避けること、事業承継への配慮を切り離さないこと、負担増の有無のシミュレーションを行うことを求めました。
  • 次回の第5回会議(8月20日開催)で、国税庁が評価方法見直しの「たたき台」(事務局案)を示す予定とされ、今秋を目途に一定の方向性が示される見通しです。
  • 相続税評価の見直しは、遺産分割・遺留分における株式評価の争いにも影響しうるものです。改正内容が固まる前の今、現行ルールを前提とした点検が引き続き有意義です。

前回までのおさらい

非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価は、財産評価基本通達に基づき、会社規模に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式などを使い分けて行われてきました。この枠組みが約60年ぶりに抜本的に見直されようとしている経緯は、第1回会合の記事で解説したとおりです。第2回・第3回では、評価方式間の乖離(いわゆる「評価の崖」)、配当還元方式の問題、評価額圧縮スキームの是正が主要論点として浮かび上がりました(前回記事参照)。

第4回会議の全体像——「意見出し」から「たたき台」へ

第4回会議(令和8年7月3日、委員13名出席)で、事務局(国税庁)は次の6点について委員の意見を求めました。

  • 企業価値評価の学術研究やM&Aの評価方法も参考に、抜本的な見直しも視野に検討すること
  • 原則的評価方式の一本化
  • 類似業種比準方式の今後の在り方
  • 純資産価額方式を基本的な評価方式から「特定の評価会社」用の方式へと位置づけ直すこと
  • 配当還元方式の対象株主の範囲や従業員持株会との関係の整理
  • 資産管理会社を純資産価額方式で評価すること

スケジュールについて事務局は、次回(第5回)に見直しのたたき台となる事務局案を示したいとし、税制改正プロセスを経ることを前提に「今秋を目途に一定の方向性を示せるよう進める」と説明しました。委員からは「たたき台と同時に、増減税が生じないことのシミュレーションを示すべきだ」との強い要望が出ましたが、事務局は「枠組みの方向性が見えたタイミングで実態調査データを用いたシミュレーションを示す」との回答にとどめています。

なお、会議の締めくくりで座長は「現時点で評価方式を一本化するとか、類似業種比準方式を廃止するといった合意はない」ことを確認しています。報道では断定的な見出しも見られますが、議事要旨を読む限り、結論はまだ出ていません(本稿執筆時点)。

論点1:評価方式の一本化——賛成意見が大勢

現行制度では、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は併用方式と、会社規模で評価方式が変わります。このため会社の実態がほとんど同じでも評価額が大きく異なる「評価の崖」が生じ、租税回避的な操作の温床になっていると指摘されてきました。

第4回では、納税者間の公平や恣意的操作の排除の観点から一本化に賛成する意見が大勢を占めました。他方で、「どのモデルにも得意不得意があり、例外的な評価方法との関係を丁寧に整理すべきだ」「一本化後の評価額が純資産価額を上回るのは違和感がある」といった留保も付されています。この点に関し、事務局が「時価純資産価額が下限になるという考え方が前提になるものではない」と答えた場面は、たたき台の方向性を占ううえで注目されます。

論点2:類似業種比準方式——廃止論が相次ぐも、決定ではない

最も厳しい意見が集中したのが類似業種比準方式です。委員からは、配当・利益・純資産の3要素で比準する理論的・実証的裏付けがないこと、上場企業のホールディングス化で類似会社を見つけにくくなっていること、上場株価は経営を支配しない株主を前提とした価格であり支配株主の株式評価の基礎とするのは理論的に成り立ちにくいこと、恣意的な操作が可能であることなどを理由に、「廃止した方がよい」との意見が相次ぎました。

一方で、全資産の時価評価を要しない簡便さや事業承継を支えてきた経緯を踏まえ、見直しに慎重であるべきだとする意見、予測可能性や執行コストも加味すべきだとする意見もあります。

興味深いのは、国税庁が示した試算です。平成30年末を100とすると令和7年末の日経平均は251.5に上昇しましたが、類似業種の株価は140.0にとどまり、評価会社の財務内容を固定して試算すると、類似業種比準価額はむしろ1割から2割程度下落し、比較可能な112業種の7〜8割で評価額が減少する結果になったといいます。株高が直ちに自社株評価の上昇につながるわけではない、という説明です。もっとも国税庁自身、「類似業種比準方式の廃止を現時点で決定しているわけではない」と明言しています。

論点3:純資産価額方式と配当還元方式のゆくえ

純資産価額方式については、資産管理会社のように資産の保有自体を目的とする会社の評価方式として残すことに賛成する意見が多数でした。ただし、退職給付引当金などの負債を控除できるようにすべきだ、税務上の簿価を使う簡便な計算も認めるべきだ、業績不振の会社にはマイナスの営業権を加味して時価純資産を下回る評価もあり得るようにすべきだ、といった修正意見が付いています。

少数株主に適用される配当還元方式については、「特別の例外的措置」という位置づけを貫徹するため対象株主の範囲を見直すべきだとする方向性が示され、委員からは廃止論から限定的存置論まで幅のある意見が出ました。従業員持株会やストックオプションの割当てにも使われる価額であるため、相続・贈与以外への影響も視野に入れるべきだとの指摘もあります。

日本商工会議所の意見書——「事業承継への配慮を切り離すな」

第4回には、日本商工会議所から意見書が提出されました。骨子は、①評価方法の大幅改正は影響が広範囲に及ぶため拙速な議論を避け、直近の株価上昇を踏まえて会計検査院と同じ条件で実態を再調査すべきこと、②類似業種比準方式は中小企業の円滑な事業承継への配慮から採用されてきた経緯があり、その配慮を切り離した評価方式は導入すべきでないこと、③新方式を導入するなら負担増となる事業者がいないか綿密にシミュレーションすべきこと、の3点です。

これに対し事務局は、「客観的な時価の評価」と「税負担への政策的配慮」は切り分けて議論せざるを得ないとの立場を示しました。かつて通達で評価減を行っていた小規模宅地の特例が昭和58年に法律化された例や、ドイツで2006年の違憲判決を経て評価を適正化したうえで事業用資産に85%の評価減特例を法律で設けた例を挙げ、事業承継への配慮は評価ではなく税制(事業承継税制など)で行うべきだという整理です。税負担に関する意見は財務省主税局に伝えるとしていますが、委員からは「評価の問題だけが一人歩きしないか」という懸念も示されました。

スピード感についても応酬がありました。「60年ぶりの抜本改正をなぜそこまで急ぐのか」という委員の問いに対し、事務局は、評価額圧縮スキームへの対応を現行の総則6項(財産評価基本通達6項)に頼り続けることの限界を挙げ、「正直なところかなり急いでいる」と率直に述べています。総則6項をめぐる令和4年4月19日最高裁判決の射程が、今回の見直しの底流にあることがうかがえます。

国税庁が問題視する評価額圧縮スキーム

第4回の資料では、見直しの背景となっている具体的なスキーム事例が紹介されました。M&Aで買収した会社の従業員を資産管理会社に転籍させて会社規模区分を変更する例、議決権を意図的に分散して配当還元方式が適用される株主を作出する例、持株会社と子会社の間で寄付と貸付を循環させて債務を計上する例、借入れによるオペレーティングリース投資や賃貸不動産取得で利益・純資産を圧縮する例などです。こうした手法が「跋扈している」との認識が、見直しを急ぐ最大の動機になっています。

弁護士の視点——相続紛争への影響をどう見るか

前回記事でも述べたとおり、有識者会議が扱うのは相続税のための評価ルールであり、遺産分割や遺留分侵害額請求で問題となる株式の時価評価とは、目的も手法も異なります。遺産分割・遺留分の場面では、DCF法や時価純資産法などを用いて「その株式が民事上いくらか」を正面から争うことになり、相続税評価額がそのまま通用するわけではありません(非上場株式の譲渡時価が争われた最高裁令和2年3月24日判決の解説もご参照ください)。

もっとも、実務では相続税評価額が遺産分割協議の出発点や交渉の目安として使われることが少なくありません。今回の見直しが「時価は時価として適正に評価し、政策的配慮は税制で行う」という方向に進めば、税務上の評価額と民事上の時価の距離は縮まり、株式評価をめぐる交渉の土俵そのものが変わる可能性があります。また、通達上の評価額を前提に設計された持株会社化などの生前対策は、通達改正により前提が崩れるリスクを抱えるほか、スキーム的な対策は改正前であっても総則6項による否認リスクと隣り合わせです。

改正の内容が固まる前の今こそ、自社株の現在の評価額と株主構成を把握し、遺言や株式の集約状況を点検しておくことをお勧めします。非上場株式を含む相続の全体像は非上場株式の相続の総合解説ページにまとめています。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 類似業種比準方式の廃止は決まったのですか。

A. 決まっていません。第4回会議では廃止を求める意見が学者委員を中心に相次ぎましたが、座長は「現時点で一本化や廃止の合意はない」と確認し、国税庁も「廃止を決定しているわけではない」と明言しています(本稿執筆時点)。

Q2. 新しい評価ルールはいつから適用されますか。

A. 確定していません。国税庁は今秋を目途に一定の方向性を示し、税制改正プロセスを経て見直す方針を示しています。報道ベースでは早ければ令和10年(2028年)分の相続からの適用が見込まれていますが、内容も時期も今後の議論次第です。

Q3. 第5回会議では何が示されるのですか。

A. 国税庁が評価方法見直しの「たたき台」(事務局案)を示す予定とされています。第5回会議は令和8年8月20日に開催されており、その内容は議事要旨等の公表を待って当サイトでも続報する予定です。

Q4. 相続税評価が変わると、遺産分割や遺留分の株式評価も変わりますか。

A. 直ちに連動はしません。遺産分割・遺留分では民事上の時価を別途評価します。ただし実務では相続税評価額が交渉の目安になることが多く、通達改正は株式評価をめぐる争いの前提に影響しうると考えられます。

Q5. 自社株対策は税理士と弁護士のどちらに相談すべきですか。

A. 役割が異なります。評価額の試算や申告は税理士の領域ですが、遺言・株式の集約・遺留分への備えといった法的設計や、相続人間の紛争予防・解決は弁護士の領域です。両者が連携して進めるのが理想です。

まとめ——たたき台の公表を前に、今できる備えを

第4回会議で意見出しは一巡し、議論はたたき台の検討という次の段階に進みます。類似業種比準方式への厳しい評価と、事業承継への配慮を求める経済界の声との間で、どのような案が示されるのか。引き続き当サイトで解説していきます。

弁護士法人IGT法律事務所は、非上場株式や不動産の評価が争点となる相続紛争に注力し、非上場株式の買取交渉で1.6億円を獲得した事例などの実績があります。自社株を含む相続・事業承継に不安のある方は、初回60分の無料相談をご利用ください。ご予約はこちらから承ります。

参考一次情報

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【この記事の執筆者】

弁護士 小林洋介

執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)

弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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※ 本記事は、執筆日における法令、判例、実務に基づき作成しており、その後の法改正等に対応していない可能性があることをご了承ください。