残余利益方式の計算例が示される|有識者会議 第6回の資料を弁護士が速報解説

残余利益方式の計算例が示される 有識者会議 第6回の資料を弁護士が速報解説

残余利益方式の計算例が示される|有識者会議 第6回の資料を弁護士が速報解説

最新状況(2026年10月10日更新):有識者会議は第6回(2026年9月16日)まで開催され、国税庁が1,378社での評価水準の試算を公表しています。最新の状況は、まとめ記事非上場株式の相続税評価見直し【最新状況】で随時更新しています。

国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は、2026年9月16日に第6回会議を開催し、当日の配付資料が公表されました。前回の骨子で示された残余利益方式について、いよいよ各論の検討に入り、仮の数値を用いた計算例も示されています。当サイトでは第1回、第2回・第3回、第4回、第5回と解説してきました。本記事はその第5弾です。議事要旨は本稿執筆時点で未公表のため、配付資料に基づく速報としてお伝えします。

この記事のポイント

  • 第6回では、残余利益方式について8項目、特定の評価会社について3項目の各論が示され、国税庁の具体的な提案が17か所にわたって記載されました。
  • 残余利益を加算する期間は5年程度とし、6年目以降のターミナルバリューは、過小評価の可能性を認めたうえで安全性を考慮して加算しない案が示されています。
  • 仮の数値による計算例が2つ公表されました。いずれも簿価純資産を下回る評価額となっていますが、用いられた還元率8パーセント、しんしゃく率0.8はあくまで仮定値です。
  • オペレーティングリースは「なかったものとして引き直す」、同族役員の役員報酬は一定割合を利益に戻す、といった利益操作への対応案も具体化しました。
  • 現行で事実上の上限として機能してきた純資産価額による頭打ちを存置するかが正面から論点になっています。遺産分割や遺留分の交渉前提にも関わる論点です。

前回までの流れと、今回の位置づけ

第5回(2026年8月20日)で、国税庁は「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」を示しました。会社規模に応じた評価体系を廃止し、一般の評価会社は規模を問わず残余利益方式で評価するという枠組みです。その内容は前回の記事で詳しく解説しています。

今回の第6回は、その枠組みを実際に動かすための各論に入った回です。骨子が設計図だとすれば、今回は寸法や材質を詰める段階にあたります。なお資料には「第7回会議以降での想定論点」として、純資産価額方式の計算方法、還元率、配当還元方式が挙げられており、評価額を最も左右する還元率の水準は今回も示されていません。

第6回で示された各論11項目

残余利益方式については、使用する帳簿、残余利益の加算期間、含み損を抱える資産の減損処理、オペレーティングリースへの対応、過大な役員報酬への対応、子会社株式の修正範囲、従業員持株会株式の評価方法、純資産価額方式の選択適用という8項目が挙げられました。特定の評価会社については、対象範囲、資産管理会社の判定、適用する純資産価額方式の3項目です。

このうち使用する帳簿については、中小企業が用いる会計基準が企業会計基準、中小会計指針、中小会計要領と複数あり、同じ事象でも会計処理に企業間の差が生じることを理由に、すべての企業が統一基準で作成する法人税申告書に基づいて株価を計算する案が示されました。減損については、一般に公正妥当と認められる会計基準に照らして減損が生じていること、それを決算公告等により明らかにしていること、という2つの要件のもとで反映する案が示されています。

仮の数値による計算例が示された

今回の資料で最も目を引くのが、加算期間を5年とした場合の計算例です。前提として、還元率8パーセント、しんしゃく率0.8という仮定値が置かれています。

計算例の1つ目は、直前期末の簿価純資産1億円、年利益金額(税引後)1,000万円、年配当金額200万円の会社です。1年目の残余利益は、利益1,000万円から純資産1億円に還元率8パーセントを乗じた800万円を差し引いた200万円となります。以降、内部留保の増加に伴って株主資本コストが増えるため残余利益は逓減し、5年目は56万円のマイナスとなります。これらの現在価値を簿価純資産に加減し、しんしゃく率0.8を乗じた結果、評価額は約8,261万円と計算されています。

2つ目は、年利益金額500万円、年配当金額100万円と収益力が低い会社です。この場合は1年目から残余利益がマイナスとなり、評価額は約6,853万円と、簿価純資産1億円を3割ほど下回りました。

いずれの例も簿価純資産を下回っていますが、これをもって評価額が下がると受け取るのは早計です。還元率としんしゃく率は「仮定」と明記されたうえでの数値であり、実際の水準は第7回以降の議論に委ねられています。特にしんしゃく率0.8は評価額を2割引き下げる効果を持つため、ここが動けば結論も変わります。

資料には、個社の計算例とは別に、令和2年分から5年分の申告から抽出した1,378社での試算も載っています(加算期間5年・還元率8%と仮定)。しんしゃく率0.8の場合、評価額の中央値は現行の申告評価額と比べて全体で+2.3%、大会社で+71.7%、中会社で+12.1%、小会社で▲21.8%でした。現行より評価額が下がる会社の割合は、小会社で67.9%、大会社で24.2%です。しんしゃく率1.0〜0.7の全区分の数字は、まとめ記事に表で整理しています。

なお、理論的には予測期間を5年とすれば6年目以降のターミナルバリューを加算する必要がありますが、資料は、その算定が困難であることと残余利益が年々ゼロに近づいていくと考えられることを挙げ、過小評価の可能性があるものの安全性を考慮して加算しない案を示しています。

利益操作への対応が具体化した

オペレーティングリースについては、M&Aにおける企業価値評価の方法も参考に、課税時期に存在するリースがなかったものとした状態に決算内容を引き直して評価する案が示されました。

役員報酬については踏み込んだ提案が出ています。代表者の親族である役員に対する報酬のうち、経営の対価を上回る部分については会社本来の利益を構成するものとみなし、一定割合を損金から控除して評価する、という内容です。直前期に多額の役員退職慰労金を支払って利益を圧縮する例についても、継続的に発生する支出ではないとして修正の対象に挙げられました。

もっとも、この点は資料自身が慎重な検討を要すると明記しています。法人税法の損金不算入規定により既に調整済みであることと整合しない、適正な役員報酬がいくらかを一律に決めることが妥当といえるのか、という2つの疑問が併記されており、事務局案のなかでも異論の多い項目と見られます。

子会社株式については、完全支配関係にある子会社に限るのか、連結財務諸表の対象まで広げるのか、持分法適用会社まで含めるのかという3段階の選択肢が示されました。資料では、グループ法人税制により税負担なく資産を移転できる完全支配株式に限って、簿価ではなく適正な価額に修正して親会社の評価額に反映させる案が挙げられています。従業員持株会については、一定の要件を満たす場合に固定価格で評価することを認める方向です。

「純資産価額が上限」という前提が論点に

実務への影響という点で見逃せないのが、8番目の検討事項です。現行では、原則的評価方式による評価額が純資産価額を上回る場合、納税者の選択により純資産価額方式で評価でき、事実上これが上限として機能してきました。この取扱いを新しい評価体系のもとで存置すべきかが、正面から問われています。

資料は、純資産価額の位置づけを3通りに整理しました。個人事業者の財産評価との均衡を図るものと捉えるか、株式が会社財産に対する持分である性格によるものと捉えるか、清算価値と捉えるかで、退職給付引当金を控除できるかどうかなどの結論が変わるという整理です。特定の評価会社についても、区分に応じて純資産価額方式を使い分ける案が示されています。

特定の評価会社は4類型へ

残余利益方式によらず純資産価額方式で評価する会社は、保有資産の価値が株式価値の大半を占める会社、残余利益方式での評価が技術上困難な会社、継続企業の前提に疑義がある会社、継続企業の前提を欠いている会社という4類型に整理する案が示されました。具体例として、資産管理会社、組織再編直後の会社、開業後5年未満の会社、開業前または休業中の会社、清算中の会社が挙げられています。

資産管理会社の判定方法も変わる見込みです。現行のように土地と株式の保有割合をそれぞれ判定するのではなく、有価証券、自ら使用していない不動産、ゴルフ会員権、現金預貯金、絵画・貴金属といった特定資産の合計が総資産に占める割合で判定する方式に統合する案です。そのうえで、運転資金に相当する現金預貯金は対象から外すこと、貸付用の船舶や航空機といったリース取引により保有する資産も対象に加えることが検討課題に挙げられました。

弁護士の視点——相続紛争への影響

遺産分割や遺留分侵害額請求では、株式を民事上いくらと評価するかが争点になり、相続税評価額がそのまま通用するわけではありません。この点は最高裁令和2年3月24日判決の解説でも述べたとおりです。

そのうえで、今回の各論には紛争実務に直結する論点が含まれています。純資産価額による頭打ちが外れれば、税務上の評価額が純資産価額を超える場面が生じ得ます。遺産分割の協議で「純資産価額がおおよその上限」という感覚を共有しながら交渉してきた実務は、その前提を確かめ直す必要が出てきます。

同族役員の役員報酬の扱いも、中小企業の相続では他人事ではありません。親族が役員に就くことは中小企業ではむしろ通常であり、報酬の設定が株価に跳ね返る構造になれば、生前の報酬設計が相続時の評価額、ひいては相続人間の取り分の議論に影響します。

少数株主にとっての配当還元方式の見直しは第7回以降の論点とされました。骨子の段階では議決権保有割合と株式保有割合のいずれかが3パーセント未満という基準が検討案として示されており、ここが確定すれば株式の買取交渉の前提も動きます。当事務所では非上場株式の買取交渉で1.6億円を獲得した事例など、株価が正面から争われた案件を扱ってきました。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 計算例の還元率8パーセントやしんしゃく率0.8は決まったのですか。

A. 決まっていません。資料にいずれも「仮定」と明記されたうえでの数値で、計算の仕組みを示すための例示です。実際の水準は第7回以降で議論される見込みです。

Q2. 計算例では簿価純資産を下回りました。評価額は下がるのですか。

A. そうとは限りません。計算例で下回ったのは、仮定のしんしゃく率0.8が2割の引き下げとして働いていることが大きく影響しています。還元率としんしゃく率の水準次第で結論は変わるため、現時点で見通しを立てることは困難です。

Q3. なぜ会計上の決算書ではなく法人税申告書の数値を使うのですか。

A. 中小企業が用いる会計基準が複数あり、同じ事象でも処理に差が生じることから、会計処理の違いが評価額の差になることを避ける趣旨と説明されています。すべての企業が統一基準で作成する法人税申告書を用いるという考え方です。

Q4. 同族役員の役員報酬が株価に上乗せされるのですか。

A. そうした提案が示された段階です。ただし資料自身が、法人税法の損金不算入規定で既に調整済みであることとの整合性や、適正な役員報酬を一律に決めることの妥当性に疑問を併記しており、確定した方針ではありません。

Q5. 遺産分割や遺留分の株式評価にも影響しますか。

A. 直ちに連動するものではなく、民事上の評価は別途行います。ただし実務では相続税評価額が交渉の目安として使われることが多く、特に純資産価額による頭打ちの扱いは交渉の前提に関わるため、個別の検討が必要と考えられます。

まとめ——議事要旨の公表を待って続報します

第6回で議論は各論に入り、制度の輪郭がかなり具体的になりました。一方で、評価額を決める還元率としんしゃく率は第7回以降に持ち越されています。本記事は配付資料に基づく速報であり、委員がこれらの提案にどう反応したかは議事要旨の公表を待つ必要があります。公表され次第、本記事に追記する予定です。

弁護士法人IGT法律事務所は、非上場株式や不動産の評価が争点となる相続紛争に注力しています。自社株を含む相続や事業承継に不安のある方は、初回60分の無料相談をご利用ください。ご予約はこちらから承ります。なお、相続税額の試算や申告については、資産税に強い税理士へのご確認をお勧めします。

参考一次情報

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【この記事の執筆者】

弁護士 小林洋介

執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)

弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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※ 本記事は、執筆日における法令、判例、実務に基づき作成しており、その後の法改正等に対応していない可能性があることをご了承ください。