非上場株式の評価、「残余利益方式」への一本化案が示される|有識者会議 第5回の骨子を弁護士が解説

非上場株式の評価、「残余利益方式」への一本化案が示される|有識者会議 第5回の骨子を弁護士が解説

最新状況(2026年10月10日更新):有識者会議は第6回(2026年9月16日)まで開催され、国税庁が1,378社での評価水準の試算を公表しています。最新の状況は、まとめ記事非上場株式の相続税評価見直し【最新状況】で随時更新しています。

国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は、2026年8月20日の第5回会議で、評価見直しのたたき台となる「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」を示しました。骨子は当日の机上配付資料でしたが、9月に入って議事要旨とともに国税庁ホームページで公表されています。当サイトでは第1回、第2回・第3回、第4回と解説してきました。本記事はその第4弾です。

この記事のポイント

  • 骨子では、会社規模に応じた評価体系(大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式など)を廃止し、一般の評価会社は規模を問わず「残余利益方式」に一本化する方向性が示されました。
  • 残余利益方式は、簿価純資産に5年分の超過収益(残余利益)を加減して株価を算出する考え方です。資産を時価に洗い替える必要がない点が、現行の純資産価額方式と大きく異なります。
  • 国税庁は、類似業種比準方式が適用されている大会社などは評価額が上がりうること、小会社や赤字・低収益の会社では下がる場合があることを、議事要旨で認めています。
  • 日本商工会議所の委員からは、一定規模以上の中小企業では現行の2倍から5倍近くに達するとの試算が示され、慎重な検討を求める意見が出されました。
  • 還元率やしんしゃく率といった評価額を左右する具体的な数値は、今回は示されていません。第6回会議は2026年9月16日に開催される予定で、議論はこれからです(本稿執筆時点)。

前回までの流れと、今回の位置づけ

非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価は、財産評価基本通達に基づき、会社規模に応じて評価方式を使い分ける仕組みが約60年続いてきました。第4回会議までで委員の意見出しが一巡し、次回にたたき台が示されるとされていたのが前回までの状況です。

今回示された骨子は、そのたたき台にあたります。ただし骨子自体に「最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」と明記されており、決定事項ではありません。座長も会議の終わりに、この会議で多数決により何かを決めることは考えていないと述べています。

骨子が示す4つの柱

骨子は、抜本的に評価体系の見直しを行うことが考えられるとしたうえで、次の4点を柱に挙げています。

  • その1 規模に応じた評価体系を廃止し、評価方式を原則として一本化する
  • その2 1株当たりの価格を上場会社と比較して算定するのではなく、評価会社全体の企業価値総額を前提に株式を評価する
  • その3 原則的評価方式としてインカムアプローチを導入し、そのうち「残余利益モデル」を採用する
  • その4 純資産価額方式の適用対象と算式、配当還元方式の対象範囲を見直す

現行の「大会社は類似業種比準方式、中会社は併用方式、小会社は純資産価額方式」という区分と、その組み合わせによる評価の崖は、ここで一度整理されることになります。長年にわたり評価実務の中心にあった類似業種比準方式が、一般の評価会社の原則的評価方式からは外れる構想です。

残余利益方式とはどのような考え方か

骨子が採用を提案する残余利益方式は、企業の価値を「保有資産」と「収益獲得能力」の合計として捉えます。具体的には、直前期末の簿価純資産に、1年目から5年目までの残余利益(企業が通常期待される利益を上回る金額)の現在価値を加算し、しんしゃく率を乗じたうえで、子会社株式の評価額を加えるという組み立てです。

実務上、重要な特徴が3つあります。

第1に、純資産を時価ではなく簿価で捉えます。現行の純資産価額方式のように保有資産をすべて相続税評価額に洗い替える作業が不要になり、事務負担は軽くなると説明されています。使用する数値についても、会計上の決算書ではなく法人税申告上の数値をベースとする案が示されました。中小企業では貸借対照表が正確に作成されていない場合もあり、税理士の確認を経た申告書の数値のほうが実務に適するという理由です。

第2に、利益は過去5年の平均を用い、非経常的な損益は除外します。なぜ5年で区切るのかについて、委員から、5年より先の予測は困難であること、高いROEが続く期間は平均して5年程度とする研究があること、親から引き継いだ高収益を維持できるのは後継者の努力によるもので、その努力の結果にまで相続税を課すべきではないこと、という3つの説明がありました。無限期間ではなく5年で区切ることで、評価額は概ね1割から1割5分ほど小さくなるとの見方も示されています。

第3に、赤字や低収益の会社では評価額が簿価純資産を下回ります。期待収益率を上回る収益を上げている会社は簿価純資産以上、下回る会社や赤字の会社は簿価純資産以下という関係になり、純資産価額が事実上の上限として機能してきた現行の感覚とは変わることになります。

なお、評価額を左右する還元率については、中小企業ごとに株主資本コストを計算するのは難しいことから、当局が金融市場から定期的に測定して公表する案が示されました。ただし具体的な水準は示されておらず、しんしゃく率とあわせて今後の論点とされています。

評価額は上がるのか、下がるのか

最も関心が集まる点です。国税庁は議事要旨で、類似業種比準方式により評価される大会社などは評価額が上がることが考えられるのは事実であるとしつつ、小会社や赤字・低収益の会社を中心に評価額が下がる会社も存在すると説明しています。高い収益を毎年計上し純資産が積み上がる会社の評価額が上がるのは自然であり、事業承継の観点から負担を軽減すべきであれば、それは評価ではなく事業承継税制で対応すべきだという立場です。

これに対し、日本商工会議所の阿部委員・玉越委員からは意見書が提出されました。一定の仮定を置いて試算したところ、特に一定規模以上の中小企業では、現行の類似業種比準方式による評価額と比べて2倍から5倍近くに達し、相続税負担も大幅に上昇することが想定されるという内容です。さらに、純資産が増えると評価額が上がる仕組みは、事業承継が近づくとあえて成長させないほうがよいという判断を招きかねないとの懸念も示されました。役員報酬の半額を加算する案やオペレーティングリースをなかったものとして引き直す案についても、複数の委員から反対意見が出ています。

もっとも、両者の数字が真正面からぶつかっているわけではない点には注意が必要です。国税庁は今回あえて具体的な数値を示していません。決定事項であるかのように受け取られることを危惧する意見を踏まえたものと説明されており、還元率やしんしゃく率の水準次第で結果は大きく変わります。現時点で自社の評価額が何倍になると見込むことは困難です。

純資産価額方式と配当還元方式はどう変わるか

純資産価額方式は、一般の評価会社ではなく、特定の評価会社に用いる方式として位置づけ直されます。対象として想定されているのは、資産管理会社、組織再編成直後の会社、開業後5年未満の会社、開業前または休眠中の会社、清算中の会社です。資産管理会社の判定には、事業承継税制で対象から除かれる会社の基準(特定資産保有割合70パーセント以上または特定収入割合75パーセント以上)を参考に形式基準を設ける方向が示されました。算式面では、従業員に係る退職給付引当金を一定の要件のもとで負債として扱う一方、議決権割合50パーセント以下の同族株主グループに適用されてきた20パーセントの評価減は、廃止せざるを得ないのではないかとされています。

配当還元方式については、対象を「特定の少数株主の取得した株式」に縮小する方向です。同族関係者の判定範囲を配偶者、直系血族、兄弟姉妹、1親等の姻族に狭めること、議決権保有割合のみによる判定から議決権保有割合と株式保有割合のいずれかが3パーセント未満かで判定する方式に改めること、前所有者と委任・代理契約を結んでいる者や一時的な所有を目的として取得した者を除外することが、いずれも骨子に検討案として記載されています。

弁護士の視点から見た留意点

ここまでは相続税の話ですが、弁護士が扱う遺産分割や遺留分侵害額請求では、株式を民事上いくらと評価するかが争点になります。この場面では時価純資産法やDCF法などを用いて争うことになり、相続税評価額がそのまま通用するわけではないという点は、これまでの記事でも繰り返し述べてきたとおりです。

そのうえで、新方式には注意すべき性質があります。残余利益方式は純資産を簿価で捉えるため、含み益の大きい不動産を長く保有している会社では、税務上の評価額と民事上の時価との差がむしろ開く可能性があります。相続税評価額を遺産分割協議の目安としてそのまま使う運用は実務上よく見られますが、その前提は今後いっそう慎重に確かめる必要が出てくると考えられます。

少数株主をめぐる影響も見逃せません。配当還元方式の対象が3パーセント未満まで絞られれば、これまで配当還元方式で評価されてきた株主の一部が原則的評価方式に移ることになります。非上場株式の買取価格をめぐる交渉や、少数株主からの株式取得の場面で、前提となる数字が動く可能性があります。当事務所では非上場株式の買取交渉で1.6億円を獲得した事例など、株価が正面から争われた案件を扱ってきました。

また、持株会社を用いた資本構成についても、完全支配関係にある子会社を連結ベースと同等に評価する方向が示されています。現行通達の枠組みを前提に組み立てた生前対策は、前提が変わりうることを織り込んでおく必要があります。もっとも、スキーム的な対策は改正を待つまでもなく総則6項による否認のリスクと隣り合わせである点は、従来と変わりません。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 残余利益方式とはどのような計算方法ですか。

A. 直前期末の簿価純資産に、過去5年の平均利益をもとに計算した5年分の超過収益の現在価値を加減し、しんしゃく率を乗じて株価を求める考え方です。資産を時価に洗い替える必要がない点が現行の純資産価額方式と異なります。

Q2. 自社の評価額は上がるのでしょうか。

A. 確定的なことは申し上げられません。国税庁は大会社などでは上がりうる一方、小会社や赤字・低収益の会社では下がる場合があるとしています。日本商工会議所からは2倍から5倍になるとの試算も示されていますが、還元率やしんしゃく率が未定であるため、現時点で見通しを立てることは困難です。

Q3. 新しい評価方法はいつから適用されますか。

A. 決まっていません。骨子は税制改正プロセスを経て決定されるとしており、内容も時期も今後の議論次第です。現在進行中の相続や贈与は、現行の財産評価基本通達に従って処理する必要があります。

Q4. 配当還元方式が使えなくなる少数株主はどうなりますか。

A. 骨子の案では、議決権保有割合と株式保有割合のいずれかが3パーセント未満の株主などに対象が絞られる方向です。対象から外れた場合は原則的評価方式によることになり、評価額が変わる可能性があります。ただしこれも検討案の段階です。

Q5. 遺産分割や遺留分の株式評価にも影響しますか。

A. 直ちに連動するものではありません。民事上の評価は別途行います。ただし実務では相続税評価額が交渉の目安として使われることが多く、新方式が簿価を基礎とする以上、両者の差がどう動くかは個別に検討する必要があると考えられます。

まとめ——数字が出る前に、自社の足元を確認する

骨子によって見直しの方向性は見えてきましたが、評価額を決める具体的な数値はこれからです。第6回会議は2026年9月16日に開催される予定で、還元率やしんしゃく率、資産管理会社や少数株主の範囲といった各論が議論される見込みです。当サイトでも引き続き解説していきます。

弁護士法人IGT法律事務所は、非上場株式や不動産の評価が争点となる相続紛争に注力しています。自社株を含む相続や事業承継に不安のある方は、初回60分の無料相談をご利用ください。ご予約はこちらから承ります。なお、相続税額の試算や申告については、資産税に強い税理士へのご確認をお勧めします。

参考一次情報

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【この記事の執筆者】

弁護士 小林洋介

執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)

弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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※ 本記事は、執筆日における法令、判例、実務に基づき作成しており、その後の法改正等に対応していない可能性があることをご了承ください。