遺言執行|遺言執行者(長男)による不当な遺産控除を追及し、220万円の損害賠償を獲得
公開日:2026年3月16日/最終更新日:2026年9月28日(事例の要点表とよくあるご質問を追加)
この事例の要点
| 事件の種類 | 遺言執行者に対する損害賠償請求(訴訟・裁判上の和解) |
|---|---|
| ご依頼者 | 被相続人(母)の次男・三男 |
| 相手方 | 遺言執行者に就任した長男 |
| 遺言と遺産 | 自筆証書遺言。不動産を売却し、被相続人の債務と遺言執行に必要な費用を差し引いた残額を兄弟3人で分配する内容(不動産の売却額は2,610万円) |
| 主な争点 | 遺産収支計算書の控除費目(長男からの貸付金・立替金の返済約530万円、駐車場代約30万円)が正当かどうか |
| 当事務所の対応 | 内容証明郵便で支払いを請求し、回答がなかったため東京地方裁判所に提訴。控除の合理的な説明と裏付け証拠を求め続けた |
| 結果 | 相手方の和解提示額が各40万円から各110万円に上がり、合計220万円を支払う内容で裁判上の和解が成立(清算条項付き) |
※個別の事情を前提とした結果です。同様の結果をお約束するものではありません。
本記事の結論とポイント
- 結論: 遺言執行者が「生前の被相続人への貸付金」などの名目で、客観的な証拠なく遺産から金銭を差し引くことは認められません。法的な責任追及により、正当な分配額を取り戻すことが可能です。
- 争点: 遺言執行者(長男)が作成した「遺産収支計算書」に記載された控除費目(約530万円の貸付金返済など)が、真に「被相続人の債務」や「遺言執行に必要な費用」に該当するかどうかが問われました。
- 結果: 当事務所が訴訟において証拠の乏しさを徹底的に追及した結果、相手方は記載の誤りを認め、ご依頼者様(次男・三男)に対し合計220万円を支払う内容で裁判上の和解が成立しました。
1. ご相談の背景と依頼前の状況
本件は、3人兄弟のお母様(被相続人)が亡くなり、自筆証書遺言が残されていた事案です。遺言により長男が遺言執行者に就任し、ご相談者様は次男および三男の方でした。
遺言の内容は、「被相続人の不動産を売却し、その代金から『被相続人の債務』や『遺言執行に必要な費用』を差し引いた残額を、兄弟3人で分配する」というものでした。
その後、不動産は2,610万円で売却されましたが、遺言執行者である長男から示された「遺産収支計算書」には、以下のような高額な控除費目が計上されていました。
- 約530万円の「(長男から被相続人への)貸付金・立替金の返済」
- 約30万円の「駐車場代」
- ご相談者様らは、これらの費目が本当に控除すべき正当な「被相続人の債務」等に含まれるのか強い疑問を抱き、「不当に差し引かれた金銭を請求したい」と当事務所にご依頼いただきました。
2. 当事務所の対応(争点へのアプローチ)
当事務所では、まず自筆証書遺言の文言と、長男が作成した「遺産収支計算書」等の書面を詳細に精査し、法的な整理を行いました。
その結果、長男が主張する貸付金等の控除費目は、十分な客観的証拠に基づくものではないと判断しました。
- 交渉決裂から訴訟提起へ: 証拠に基づかない控除部分は本来相続人らで分配すべきであると主張し、内容証明郵便で支払いを求めました。しかし、長男から一切の回答が得られなかったため、速やかに東京地方裁判所へ損害賠償請求訴訟を提起しました。
- 訴訟での徹底した反論: 訴訟において、相手方(長男)は当初、各控除費目の正当性を主張してきました。当事務所はこれに対し、相手方の主張がいかに証拠に乏しいかを指摘。遺産収支計算書の記載に関する合理的な説明と、それを裏付ける証拠の提出を強く求め続けました。
3. 解決の結果(和解の成立)
訴訟での追及により、相手方は「遺産収支計算書」の記載に誤りがあったことを認め、削除・修正に応じました。
訴訟の進行と当事務所の粘り強い交渉により、相手方が提示する和解金額は「各40万円」から「各100万円」、そして最終的に「各110万円」へと段階的に引き上げられました。
最終的に、遺言執行者である長男がご相談者様ら(次男・三男)に対し、各110万円・合計220万円を支払う内容で裁判上の和解が成立しました。
併せて、今後のさらなるトラブルを防ぐため、本件に関する他の債権債務がないことを相互に確認する条項(清算条項)も盛り込み、紛争を終局的に解決することができました。
4. 担当弁護士からのコメント(実務的なアドバイス)
遺言執行者が「相続財産から特定の支出をした(または被相続人に貸付があった)」と主張して自身の取り分を増やす事案では、その支出が「本当に被相続人の債務なのか」、それとも「遺言執行者の使い込み(不当利得や損害賠償の対象)なのか」を客観的資料に基づき丁寧に切り分けることが極めて重要です。
本件においても、資料を綿密に精査し、相手方の主張の矛盾や根拠の薄い部分を的確に指摘し続けたことが、最終的な和解金額の大幅な引き上げにつながりました。
遺言執行者との金銭トラブルは、身内であるがゆえに感情的な対立が激化しがちです。しかし、法的な整理を淡々と積み重ねることで、適正な解決へと導くことができます。遺言執行者から示された計算書や財産目録に疑問を感じた場合は、早い段階で弁護士にご相談ください。
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本事例に関連するよくある質問(FAQ)
Q. 遺言執行者に指定された兄弟が、遺産から「自分への生前の貸付金」を差し引いて分配してきました。納得できない場合、どうすればよいですか?
A. 遺産から差し引けるのは、実際に存在する被相続人の債務や、遺言の執行に必要な費用などに限られます(遺言の執行に関する費用は相続財産の負担とされています。民法1021条)。貸付金の返済を理由に差し引くのであれば、契約書や送金記録などで、その貸付けが実際にあったことを示す必要があります。根拠が示されないまま差し引かれた金額については、遺言執行者に対して損害賠償や不当利得の返還を請求することが考えられます。本件でも、控除の根拠を求め続けた結果、合計220万円を支払う内容で和解が成立しました。
Q. 遺言執行者に、計算書の根拠となる資料の開示や説明を求めることはできますか?
A. できます。遺言執行者は、相続人から請求があればいつでも遺言執行の状況を報告し、任務が終わったときは遅滞なくその経過と結果を報告しなければなりません(民法1012条3項が準用する645条)。また、就任後は遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人に交付する義務があります(民法1011条1項)。計算書に不明な費目があれば、領収書や取引履歴などの根拠資料を示して説明するよう求めることができます。
Q. 遺言執行者は、遺産をどのように扱う義務を負っていますか?
A. 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利と義務を持ちます(民法1012条1項)。その職務は、善良な管理者の注意(善管注意義務)をもって行わなければなりません(民法1012条3項が準用する644条)。また、相続人に引き渡すべき金銭を自分のために使ったときは、使った日以後の利息を支払い、さらに損害があれば賠償する責任を負います(同項が準用する647条)。
Q. 遺言執行者の対応に問題がある場合、辞めさせることはできますか?
A. 遺言執行者が任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、相続人などの利害関係人が家庭裁判所に解任を請求できます(民法1019条1項)。ただし、解任されても、すでに差し引かれた金銭が自動的に戻るわけではありません。金銭を取り戻すには、本件のように支払いを求める交渉や訴訟を別に検討する必要があります。
Q. 遺言執行者である兄弟と話し合っても進みません。いきなり裁判を起こすことはできますか?
A. 可能ですが、まずは弁護士名義の内容証明郵便で、法的な根拠を示して請求することから始めるのが一般的です。代理人から正式に請求することで、裁判外で解決できる場合もあります。本件のように相手方から回答が得られない場合には、訴訟を提起し、裁判所の場で証拠に基づく解決を図ります。
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※ 本ページは、最終更新日(2026年9月28日)時点の法令・判例・実務に基づいて作成しています。解決の結果は個別の事情を前提としたもので、同様の結果をお約束するものではありません。
【この記事の執筆者】
執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)
弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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