遺産分割調停とは?申立先・費用・必要書類・流れと期間を弁護士が解説

遺産分割調停とは?申立先・費用・必要書類・流れと期間を弁護士が解説

遺産分割調停は、相続人同士の話合いで遺産の分け方が決まらないときに、家庭裁判所の調停委員会が間に入り、全員の合意を目指す手続です。申立ては相手方のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所などに行い、費用は収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手です。合意できなければ審判手続に移り、裁判官が分け方を決めます。本コラムでは、裁判所の公表資料と法令をもとに、手続の流れと費用・期間の目安を整理します(執筆時点は令和8年10月)。

結論:遺産分割調停は「合意を目指す話合い」で、まとまらなければ審判に移ります

  • 遺産分割調停は、裁判官1人と家事調停委員2人以上で組織する調停委員会が、各相続人の言い分を聴き、助言やあっせんをしながら合意を目指す手続です(家事事件手続法248条1項)。
  • 申立先は、相手方のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所か、当事者が合意で定める家庭裁判所です(同法245条1項)。費用は被相続人1人につき収入印紙1,200円と、裁判所ごとに定められた郵便切手です。
  • 調停は「相続人の範囲→遺産の範囲→遺産の評価→各相続人の取得額→分割方法」の順に進むのが基本です。遺言の有効性や使途不明金など前提となる問題は、合意できなければ地方裁判所の訴訟などで解決する必要があります。
  • 令和7年に家庭裁判所で終局した遺産分割事件16,431件のうち、1年以内に終わったものは約68%、1年を超えたものは約32%でした(令和7年司法統計年報家事編 第45表)。調停が成立しなければ、審判手続に移行します(同法272条4項)。

1. 遺産分割調停とは何か

人が亡くなり相続人が複数いるとき、遺産は相続人全員の共有になります(民法898条1項)。この共有状態を解消し、どの財産を誰が取得するかを決めるのが遺産分割です。

遺産分割は、まず相続人全員の話合い(遺産分割協議)で決めるのが原則です(民法907条1項)。協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、各相続人は家庭裁判所に分割を請求できます(同条2項)。その入口となるのが遺産分割調停です。

調停では、裁判官1人と、民間から選ばれる家事調停委員2人以上で構成する調停委員会が手続を進めます。調停委員会は中立の立場で事情や希望を聴き、合意に向けた調整を行います。手続は非公開で、当事者と代理人以外の人は期日に出席できません(家事事件手続法33条、東京家庭裁判所の案内)。

合意が成立して調書に記載されると調停成立となり、その記載は確定した審判と同一の効力を持ちます(同法268条1項)。

2. 協議・調停・審判の関係

遺産分割の手続は、協議・調停・審判の3段階で整理できます。違いは次のとおりです。

項目 遺産分割協議 遺産分割調停 遺産分割審判
決め方 相続人全員の合意 調停委員会の関与のもと、相続人全員が合意 裁判官が一切の事情を考慮して判断
場所・管轄 裁判所の外 相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所、または合意で定めた家庭裁判所 相続開始地(被相続人の最後の住所地)の家庭裁判所など
主な根拠 民法907条1項 家事事件手続法244条・245条 民法907条2項、家事事件手続法191条
結果の形 遺産分割協議書 調停調書(確定した審判と同一の効力) 審判書(2週間以内の即時抗告が可能)
内容の柔軟さ 法定相続分と異なる分け方も可能 合意できれば柔軟に決められる 法定相続分を基礎に、特別受益・寄与分を考慮して判断

遺産分割については、審判の前に調停を経ることは法律上必須ではなく、最初から審判を申し立てることもできます。もっとも、裁判所は当事者の意見を聴いて、いつでも職権で審判事件を調停に付すことができます(付調停、家事事件手続法274条1項)。東京家庭裁判所の案内も、調停手続から始めるのが一般的としています。

3. 申立先と申立人・相手方

申立てができるのは、共同相続人、包括受遺者(遺言で遺産の全部または一定割合を受け取る人)、相続分の譲渡を受けた人です。申立人は複数でも構いませんが、申立人以外の相続人全員を相手方にする必要があります。

申立先は、相手方のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です(家事事件手続法245条1項)。例えば相手方の住所が東京23区内であれば東京家庭裁判所(本庁)、多摩地区であれば同裁判所立川支部が申立先になります。

なお、戸籍が事実と異なるなど相続人の範囲そのものに問題がある場合は人事訴訟等の手続が、認知症などで判断能力に問題がある相続人がいる場合は成年後見等の手続が、それぞれ別に必要になります。

4. 費用:収入印紙と郵便切手

裁判所に納める費用は次の2つです。

  • 収入印紙:被相続人1人につき1,200円分
  • 連絡用の郵便切手:裁判所ごとに異なります。例えば東京家庭裁判所では、相手方5人までは2,800円分(110円×20枚、50円×10枚、10円×10枚)で、相手方が5人増えるごとに同じ組合せを1組追加します(令和8年3月時点の案内)。郵便料は保管金として電子納付することもできます。

このほか、戸籍謄本や登記事項証明書などの取得費用がかかります。不動産などの評価で合意できず鑑定を行う場合は、鑑定費用を相続人があらかじめ納めます。弁護士に依頼する場合の費用は、遺産分割の弁護士費用の解説をご参照ください。

5. 必要書類

裁判所の手続案内では、標準的な申立書類として次のものが挙げられています。

  • 申立書(当事者目録・遺産目録を含む)1通と、相手方の人数分の写し
  • 事情説明書、進行に関する照会回答書、送達場所等届出書
  • 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本、住民票または戸籍附票
  • 遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しまたは残高証明書、有価証券の資料など)

相続人が被相続人の父母や兄弟姉妹である場合、代襲相続人(先に亡くなった相続人に代わって相続する子や甥・姪)がいる場合には、追加の戸籍が必要です。戸籍は法定相続情報一覧図の写しで代えられる場合もあります。遺言書や遺産分割協議書があれば、その写しも提出します。

申立書は相手方全員に送付されます。相手に知られたくない情報は、マスキング(黒塗り)や非開示の希望の申出で対応します。書類の範囲や通数は裁判所ごとに異なるため、申立先の案内を確認してください。

6. 手続の流れ

(1)期日の進み方

申立て後、裁判所から期日(話合いの日)の連絡があります。東京家庭裁判所の案内によれば、調停は平日の昼間に行われ、1回はおおむね1時間45分程度です。申立人と相手方は別々の待合室で待ち、調停委員が交互に、または同時に話を聴きます。各期日の開始時と終了時には、原則として当事者全員に進行予定や次回までの課題が説明されます。

調停には原則として相続人本人の出頭が求められます。呼出しを受けた人が正当な理由なく出頭しないときは、5万円以下の過料の対象となります(家事事件手続法258条1項・51条3項)。裁判所が相当と認めるときは、電話会議やウェブ会議の方法で期日に参加できる場合もあります(同法258条1項・54条)。

(2)5つの段階で争点を整理する

東京家庭裁判所は、遺産分割調停の進め方を次の5段階で示しています。各段階で合意ができたら次に進みます。

  1. 相続人の範囲:誰が相続人かを戸籍で確認します。
  2. 遺産の範囲:原則として、被相続人が亡くなった時点で所有し、現在も存在する財産が対象です。遺言書や遺産分割協議書で分け方が決まっている財産は対象になりません。
  3. 遺産の評価:不動産などの評価額を確認します。合意できなければ鑑定が必要になります。
  4. 各相続人の取得額:法定相続分を基礎に、特別受益や寄与分が認められる場合は取得額を修正します。
  5. 分割方法:現物分割(物そのものを分ける)、代償分割(物を取得した人が差額を金銭で支払う)、換価分割(売却して代金を分ける)などから決めます。

(3)前提問題は調停で決着しないことがある

遺言が無効だという主張や、ある財産が遺産に属するかどうかの争いは、遺産分割の前提となる問題です。調停の話合いで合意できればそれを前提に進められますが、合意できなければ、地方裁判所の訴訟(遺言無効確認訴訟や遺産確認訴訟など)で確定させる必要があります。

預金が勝手に引き出されたという使途不明金の問題も同様です。東京家庭裁判所の案内は、被相続人の財産が不法・不当に減少していると主張する場合には、損害賠償請求訴訟など遺産分割以外の手続が必要としています。ただし、遺産分割前に処分された財産は、処分した相続人以外の全員が同意すれば、遺産として扱うことができます(民法906条の2)。詳しくは使途不明金の解説をご覧ください。

(4)評価・特別受益・寄与分の扱い

評価は遺産の分け方を左右する重要な段階です。不動産では、固定資産税評価額、路線価、不動産業者の査定などを出し合い、それでも合意できなければ家庭裁判所が鑑定を行います(評価額の決め方の解説)。

特別受益(遺贈や生計の資本としての生前贈与など)と寄与分(被相続人の財産の維持・増加への特別の貢献)は、遺産の範囲と評価が定まった後に取り上げられます。寄与分が認められるには、親族間で通常期待される程度を超える貢献が必要です。主張する側が裏付け資料を提出しなければ、話合いの席でも取り上げられないことがあります。

また、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益と寄与分の規定が適用されません(民法904条の3)。10年が経過する前に家庭裁判所へ遺産分割を請求していれば、この制限は及びません。

7. 期間の目安

最高裁判所の令和7年司法統計年報家事編の第45表(遺産分割事件数―終局区分別審理期間及び実施期日回数別―全家庭裁判所)によると、令和7年に終局した遺産分割事件(調停と審判の合計)は16,431件でした。審理期間の内訳は次のとおりです。

  • 6か月以内:5,760件(約35%)
  • 1年以内:11,158件(約68%、6か月以内を含む累計)
  • 2年以内:14,997件(約91%、同)
  • 2年を超えるもの:1,434件(約9%)

終わり方は、調停成立が7,033件(約43%)、調停に代わる審判が5,306件(約32%)、審判(認容)が1,366件(約8%)、取下げが2,405件(約15%)です。

当事務所が主に対応する東京家庭裁判所では、令和7年に遺産分割の調停2,201件・審判328件が新たに申し立てられ(同第9表)、終局した2,012件の内訳は、調停成立905件(約45%)、調停に代わる審判447件(約22%)、審判(認容)209件(約10%)、取下げ389件(約19%)でした(同第44表)。全国と比べると調停に代わる審判の割合が低く、合意に至らなければ審判で判断する運用がうかがえます。

この件数には、取下げなどで早く終わった事件も含まれます。不動産や非上場株式の評価で鑑定を行う事案、相続人が多い事案、前提問題について別に訴訟が必要な事案では、1年を超えることも珍しくありません。

8. 調停が成立しないときの審判移行

調停委員会は、合意が成立する見込みがない場合などには、調停を不成立として事件を終了させることができます(家事事件手続法272条1項)。遺産分割調停が不成立で終わると、調停の申立て時に審判の申立てがあったものとみなされ(同条4項)、改めて申し立てなくても審判手続が始まります。

審判では、裁判官が、遺産の種類や性質、各相続人の年齢、職業、生活の状況その他一切の事情を考慮して分け方を決めます(民法906条)。代償分割を命じるには特別の事情が必要です(家事事件手続法195条)。審判に不服がある相続人は、告知を受けた日から2週間以内に即時抗告ができます(同法86条1項・198条1項1号)。

統計で3割強を占める「調停に代わる審判」は、調停が成立しない場合に、家庭裁判所が相当と認めるときに職権で行う審判です(同法284条1項)。当事者は2週間以内に異議を申し立てることができ、適法な異議があれば効力を失って、審判手続に移ります(同法286条)。

9. 弁護士に依頼する意味

遺産分割調停は本人だけでも申し立てられます。もっとも、手続代理人になれるのは、原則として弁護士です(家事事件手続法22条1項)。令和7年司法統計年報家事編の第47表によると、終局した遺産分割事件16,431件のうち13,062件(約80%)で代理人弁護士が関与していました。

弁護士に依頼する意味は、主に次の点にあります。

  • 争点のうち、調停で扱えるものと訴訟が必要なものを早い段階で振り分けられます。
  • 不動産や非上場株式の評価資料をそろえ、鑑定の要否と費用の見通しを立てられます。
  • 特別受益や寄与分について、どの資料で何を立証するかを整理できます。
  • 代償金の額と支払方法、登記手続など、成立する調停条項が実際に履行できる内容かを確認できます。

なお、弁護士を手続代理人に選任しても、本人の出頭を求められる場合があります。

よくあるご質問

Q1. 遺産分割調停の費用はいくらかかりますか。

A. 被相続人1人につき収入印紙1,200円分と、連絡用の郵便切手です。切手の額は裁判所ごとに異なり、東京家庭裁判所では相手方5人までで2,800円分です。このほか戸籍などの取得費用、鑑定を行う場合の鑑定費用がかかります。

Q2. 遺産分割調停はどれくらいの期間がかかりますか。

A. 令和7年に終局した遺産分割事件16,431件では、1年以内に終わったものが約68%、2年以内が約91%でした(令和7年司法統計年報家事編 第45表)。取下げなどで早く終わった事件も含む数字です。評価の鑑定や前提問題の訴訟が必要な事案では、より長くかかる傾向があります。

Q3. 相手方が調停に出てこない場合はどうなりますか。

A. 呼出しを受けた人が正当な理由なく出頭しないときは、5万円以下の過料の対象となります。それでも話合いが進まなければ、調停は不成立となって審判手続に移るか、家庭裁判所が調停に代わる審判をすることがあります。

Q4. 遺言書がある場合でも遺産分割調停はできますか。

A. 有効な遺言書で分け方が決まっている財産は、遺産分割の対象になりません。すべての遺産の処分が遺言書で決まっているときは、遺産分割調停を申し立てることはできません。遺言書に記載のない財産があれば、その財産について調停を利用できます。遺言の有効性自体を争う場合は、地方裁判所の訴訟で確定させる必要があります。

Q5. 弁護士に依頼せずに自分で調停を進めることはできますか。

A. できます。申立書の書式や記載例は裁判所のウェブサイトで公開されています。もっとも、令和7年に終局した遺産分割事件の約80%では代理人弁護士が関与していました。評価や特別受益・寄与分が争点になる事案では、早めの相談が考えられます。

Q6. 調停で決まった内容を相手が守らない場合はどうなりますか。

A. 調停が成立して調書に記載された内容は、確定した審判と同一の効力を持ちます。代償金の支払などの給付を定めた条項であれば、それをもとに強制執行を申し立てることが考えられます。そのため、調停条項は、支払期限や登記手続の方法まで具体的に定めておくことが重要です。

まとめ:調停は「順序」と「資料」で進み、前提問題の切り分けが期間を左右します

遺産分割調停は、家庭裁判所の調停委員会の関与のもとで、遺産の分け方の合意を目指す手続です。相続人の範囲、遺産の範囲、評価、取得額、分割方法の順に進み、合意できなければ審判に移ります。遺言の有効性や使途不明金など調停で決着しない問題を早めに切り分け、評価や特別受益・寄与分の資料を準備しておくことが、期間を短くする手がかりになります。相続開始から10年を経過すると、特別受益・寄与分を原則として主張できなくなる点にも注意が必要です。

弁護士法人IGT法律事務所は、不動産や非上場株式の評価が争点となる遺産分割に注力しています。遺産分割の争点と解決の進め方、解決事例もあわせてご参照ください。

参考一次情報

  • 裁判所「遺産分割調停」(申立人、申立先、費用、必要書類。裁判所)
  • 東京家庭裁判所「遺産分割調停(審判)を申し立てる方へ」(令和8年3月。申立先、郵便切手の額、期日の時間、提出書類。PDF)
  • 東京家庭裁判所「遺産分割調停案内(調停を申し立てられる方へ)」(調停委員会の構成、調停から始めるのが一般的であること、遺言書・使途不明金・特別受益・寄与分の扱い。PDF)
  • 東京家庭裁判所家事第5部「遺産分割調停の進め方」(5段階の進行。PDF)
  • 最高裁判所事務総局「令和7年 司法統計年報 3 家事編」(第45表 遺産分割事件数―終局区分別審理期間及び実施期日回数別―全家庭裁判所、第47表 遺産分割事件数―終局区分別代理人弁護士の関与の有無別―全家庭裁判所、第9表 家事審判・調停事件の事件別新受件数―家庭裁判所別、第44表 遺産分割事件数―終局区分別―家庭裁判所別。PDF)
  • e-Gov法令検索「民法」(共同相続の効力898条、特別受益903条、寄与分904条の2、期間経過後の遺産の分割904条の3、遺産の分割の基準906条、遺産の分割前に処分された財産906条の2、遺産の分割の協議又は審判907条。e-Gov)
  • e-Gov法令検索「家事事件手続法」(手続代理人の資格22条、手続の非公開33条、呼出し51条、電話会議等54条、即時抗告期間86条、遺産分割審判の管轄191条、寄与分の申立期間193条、債務を負担させる方法による分割195条、即時抗告198条、調停の管轄245条、調停委員会248条、調停の成立268条、不成立時の審判移行272条、付調停274条、調停に代わる審判284条・286条。e-Gov)

【この記事の執筆者】

弁護士 小林洋介

執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)

弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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