遺産分割で取り扱えない財産とは?:使途不明金問題について

遺産分割で取り扱えない財産とは?:使途不明金問題について

当事務所では、数多くの遺産分割事件を取り扱いますが、ご相談者様は、当然すべての遺産を遺産分割手続で分割ができると思っていらっしゃいます。

ところが、遺産分割を進めていくと、必ずしも遺産分割手続で分割できない財産があることに気が付きます。

この点については、ご質問や誤解も多いので、本記事で詳しく解説していきたいと思います。

結論:使途不明金は原則として遺産分割の対象外で、合意できなければ訴訟で解決します

  • 遺産分割の対象は、原則として被相続人が亡くなった時点で所有し、現在も存在する財産です。年金受給権などの一身専属権、受取人が決まっている死亡退職金、お墓などの祭祀財産は対象外です。
  • 生前に引き出された預金(使途不明金)は、相続人全員が合意しない限り遺産分割の対象にならず、最終的には地方裁判所の訴訟で解決します。
  • 亡くなった後に引き出された預金は、民法906条の2により、引き出した相続人以外の全員が同意すれば、遺産分割の対象に含められます。
  • 合意の見込みが低い場合、当事務所では遺産分割の中で争い続けるより、早めに別の訴訟を起こすことをお勧めしています。

遺産分割の対象外となる主な財産

東京家庭裁判所において、遺産分割調停の申し立てを行うと、東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割の専門部署)が作成した「遺産分割調停の進め方」というパンフレットが同封されます。

これによると、②遺産の範囲というところで、「原則として、被相続人が亡くなった時点で所有していて、現在も存在するものが、遺産分割の対象となる遺産であり、その範囲を確定します。」と記載されています。

一般的に、遺産分割の対象とならない財産は以下のようなものがあります。

  • 一身専属権:年金受給権や扶養請求権など、本人固有の権利は相続されません。
  • 死亡退職金:会社の規定や契約によって受取人が指定されている場合、遺産ではなく受取人の固有財産になります。
  • 祭祀財産:お墓・仏壇などは「祭祀承継者」が引き継ぐとされており、原則として遺産分割の対象外です。

また、パンフレットの注意書きとして、「遺言書や遺産分割協議書で分け方が決まっている財産は、遺産分割の対象になりません。誰かが遺産を隠したり、勝手に使ってしまったという場合には、遺産分割以外の手続きが必要な場合があります。」と記載されています。

この注意書きのところの「遺産分割以外の手続が必要な場合がある」というところが、分かりにくいところかと思います。

注意すべきケース:使途不明金

生前に特定の相続人が被相続人の預金を引き出していた場合、それが「使途不明金」とされ、相続時にトラブルとなることがあります。

遺産分割のご相談を数多くお受けしていると、ある相続人が、被相続人の預金通帳を実効支配してしまっていて、被相続人の死亡の前後を問わず、多額の預金が引き出されてしまっているというご相談があります。

上記1の遺産の範囲の記載を踏まえると、遺産分割の対象となる預金は、被相続人が亡くなった時点で所有していて、現在も存在するものですので、引き出されたあとに残っている預金が遺産分割の対象になるということになります。

また、このような使途不明金については、最終的には民事訴訟で解決する問題となります。

なお、被相続人が亡くなった後に預金が引き出された場合は扱いが異なります。民法906条の2(2019年7月1日施行)により、遺産分割前に遺産が処分されたときでも、相続人全員の同意があれば、その財産が遺産分割の時に存在するものとみなして分割できます。このとき、処分(引出し)をした相続人の同意は要りません。生前の引出しはこの規定の対象外で、原則どおり訴訟で解決することになります。

ところが、ご相談者様にとっては、今ある預金の問題より、勝手に引き出されたかもしれない預金のほうが大問題です。なので、遺産分割調停においても、この点について熱心にご自身の主張や立証をされます。

また、相続人全員で遺産の範囲を合意できれば、遺産分割の対象にしてよいというルールがあります。

したがって、預金を勝手に引き出したのはけしからんということで、使途不明金について調停内での合意を迫るということが生じます。

しかし、預金を勝手に引き出したと疑われている相続人が、使途不明金についてそうやすやすと合意するはずがありません。そうなると、遺産分割調停は混迷を深めていくことになります。

裁判所は上記2の考え方ですので、合意できなければこの使途不明金の論点を飛ばして先へ進みたいと考えており、使途不明金は別途民事訴訟でやってもらいたいと考えています。

したがって、使途不明金で合意の見込みがなさそうとなると、当事者に対して冷たくあたることが多いです。

裁判所や調停委員が自分たちに対して冷たい、不公平ではないかとご相談にいらっしゃる方もいますが、上記の考え方に沿って裁判所や調停委員が対応している結果だということになります。家庭裁判所で解決できる範囲が、相続人の皆さまが期待しているよりも法制度上小さいことから、その期待ギャップが生じているように感じています。

これらの考察を踏まえて、当事務所では、遺産分割の中で使途不明金問題を解決しようとするのではなく、最初から別途の訴訟提起をおすすめしております。

そのほうが、遺産分割の解決のスピードも上がるし、別途訴訟では、和解交渉が決裂したとしても判決で終局的に解決します。遺産分割調停で長々と何年もやるよりも、スピーディに確実に解決することができます。

まとめ

遺産分割の対象外となる財産を正しく理解することは、スムーズな相続手続きのために不可欠です。

使途不明金問題を解決したい方、遺産分割調停をやっているけど、裁判所や調停委員が冷たい、不公平な対応だと疑問に思われている方は、ぜひ当事務所にご相談いただければと思います。

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参考一次情報

  • e-Gov法令検索「民法」(遺産の分割の基準906条、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲906条の2、遺産の分割の協議又は審判907条。e-Gov)
  • 最高裁判所大法廷 平成28年12月19日決定(預貯金債権は遺産分割の対象となるとした例。民集70巻8号2121頁。裁判所 裁判例検索)

※ 本記事は、執筆日における法令、判例、実務に基づき作成しており、その後の法改正等に対応していない可能性があることをご了承ください。

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【この記事の執筆者】

弁護士 小林洋介

執筆・監修:弁護士 小林 洋介(こばやし ようすけ)

弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部卒業/東京大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(相続遺言部会)/認定経営革新等支援機関/2級FP技能士
相続・事業承継分野を中心に、遺産分割・遺留分侵害額請求・生前対策まで幅広く対応。
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