共有物分割請求と形式的競売|共有不動産が競売になるリスクと、有利に解決するための全手順

共有物分割請求と形式的競売|共有不動産が競売になるリスクと、有利に解決するための全手順

執筆者:弁護士小林洋介

弁護士法人IGT法律事務所

代表パートナー弁護士 保有資格:弁護士、経営革新等支援機関、2級FP技能士

東京弁護士会相続遺言部所属

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1. はじめに:共有名義の不動産トラブルは放置してはいけません

「親から相続した実家が、兄弟との共有名義のままになっている」 「離婚した元夫と共有しているマンションを売りたいが、相手が同意しない」

このような共有不動産に関するお悩みは、当事務所にも数多く寄せられます。共有名義の不動産は、共有者全員の同意がなければ「売却」も「大掛かりなリフォーム」もできません。

もし話し合いがこじれたまま放置してしまうと、さらなる相続が発生して権利関係が複雑化したり、固定資産税の負担だけで資産が目減りしたりするリスクがあります。

相手との話し合いが膠着してしまった場合、法的な解決策として「共有物分割請求(きょうゆうぶつぶんかつせいきゅう)」という手続きがあります。そして、その最終的な帰結として「形式的競売(けいしきてきけいばい)」という言葉が登場します。

この記事では、共有不動産トラブルの解決策である共有物分割請求と、絶対に知っておくべき形式的競売のリスクについて、法律の専門家が詳しく解説します。

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2. 話し合いがまとまらない時の切り札「共有物分割請求」とは

民法256条1項には、「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる」と定められています。

つまり、共有者のうち誰か一人でも「今の共有状態を解消したい」と考えれば、他の共有者に対して「分けましょう(関係を切りましょう)」と法的に請求する権利があるのです。これには、持ち分の多寡(持分が1/2か1/10かなど)は関係ありません。

通常は、まずは当事者同士の「協議(話し合い)」からスタートします。しかし、感情的な対立や希望条件の不一致により、当事者だけでは解決できないケースが多々あります。 その場合、裁判所を介した「共有物分割請求訴訟」を提起することで、強制的に共有状態を解消する手続きへと移行します。

3. 共有状態を解消する3つの分割方法

共有物分割請求において、共有状態を解消する方法は大きく分けて以下の3つがあります。裁判所は、当事者の希望や不動産の状況を考慮し、最も適切と思われる方法を選択します。

① 現物分割(げんぶつぶんかつ)

不動産を物理的に分ける方法です。 例えば、広い土地を分筆して、Aさんの土地・Bさんの土地と物理的に分けて単独所有にします。 しかし、一軒家やマンションの場合、物理的に真っ二つにすることは不可能なため、この方法が採用されるケースは土地以外では稀です。

② 代償分割(だいしょうぶんかつ)

特定の共有者が不動産全体の所有権を取得し、その代わりに、他の共有者に対して持分相当額の「現金」を支払う方法です。 例えば、兄が実家を単独で相続し、弟に対して弟の持分にあたる金銭を支払うケースです。 不動産を残したい側と、現金化したい側の利害が一致し、かつ取得者に支払い能力(資金力)がある場合に最も有効で円満な解決方法です。

③ 換価分割(かんかぶんかつ)

不動産を第三者に売却し、その売却代金を共有者の持分に応じて分配する方法です。 全員が不動産の取得を希望しない場合や、代償金を支払う資金力がない場合に採用されます。 この「換価分割」を裁判所が命じる場合、その具体的な手続きとして行われるのが**「形式的競売」**です。

4. 最終手段「形式的競売」とは?通常の競売との違い

「競売」と聞くと、住宅ローンの返済が滞った際に行われる「担保不動産競売(強制競売)」をイメージされる方が多いかもしれません。

しかし、共有物分割請求における競売は「形式的競売」と呼ばれ、借金の返済のためではなく、「財産を換金して分けるため」に行われる手続きです。 目的は異なりますが、手続き自体は民事執行法に基づいて行われるため、実際の流れや買い手(入札者)の層は、通常の競売とほとんど変わりません。

裁判で「競売に付して、代金を分割せよ」という判決が出ると、不動産は裁判所の管理下でオークションにかけられ、最高値をつけた人が購入することになります。

5. 【重要】形式的競売の3つの大きなデメリット

ここが最も重要なポイントです。 もし話し合いが決裂し、裁判で「形式的競売」という判決が出た場合、共有者全員にとって経済的な損失が発生する可能性が極めて高くなります。

なぜなら、形式的競売には以下のようなデメリットがあるからです。

デメリット①:市場価格よりも安く落札されやすい 一般的に、競売での落札価格は、通常の不動産市場での売却価格(実勢価格)の6〜7割程度になると言われています。 競売物件は内覧が十分にできない、引き渡し後のトラブルのリスクがあるなどの理由から、不動産業者などが安く買い叩く傾向にあるためです。 本来なら3,000万円で売れたはずの物件が、競売では2,000万円程度にしかならないことも珍しくありません。その差額は、共有者全員の損失となります。

デメリット②:手続きに時間と費用がかかる 競売の申立てを行うには、予納金(数十万円〜)や登録免許税などの費用がかかります。また、手続き開始から落札、配当までには半年から1年近い時間がかかります。その間、固定資産税などの負担は続きます。

デメリット③:誰が買い取るか分からない 全く知らない第三者(不動産業者や投資家)が落札することになります。もし共有者の一人が「家に住み続けたい」と願っていたとしても、競売になれば退去を余儀なくされます。 思い入れのある実家が、見ず知らずの人の手に渡り、安値で買い取られてしまうのは、精神的にも大きな負担となるでしょう。

6. 共有物分割請求訴訟から競売までの流れ

では、実際にどのようなプロセスを辿るのか、簡単にご説明します。

  1. 交渉(協議) まずは共有者間での話し合いです。ここで「任意売却(通常の仲介による売却)」や「持分の買い取り」で合意できれば、それがベストです。

  2. 調停(ちょうてい) 当事者だけで話がまとまらない場合、裁判所の調停委員を交えた話し合い(調停)を申し立てることができます。ただし、相手が出席しなかったり、合意に至らなければ不成立となります。

  3. 共有物分割請求訴訟(裁判) 調停が不成立の場合、訴訟を提起します。裁判所が法的な観点から分割方法を判断します。

  4. 判決(換価分割の命令) 現物分割も代償分割もできないと判断された場合、「競売により換金し、分割せよ」という判決が出されます。

  5. 形式的競売の申立て 判決に基づき、改めて競売の申立てを行います。

  6. 落札・配当 競売が実施され、売却代金から経費を引いた残りが、持分に応じて各共有者に配当されます。

7. 競売を避け、有利に解決するために弁護士ができること

ここまで解説した通り、「形式的競売」は共有者全員にとって、売却益が減るというデメリットの大きい解決方法です。 実は、共有物分割請求訴訟を提起する本当の狙いは、**「競売まで行かずに、有利な条件で和解(解決)すること」**にあります。

弁護士が代理人として入ることで、以下のような解決が可能になります。

① 相手方への強力なプレッシャーと交渉 「このまま話し合いに応じなければ、訴訟を起こし、最終的には競売になります。そうなればお互いに〇〇万円以上の損をしますよ」と、法的根拠と数字を示して相手を説得します。 競売のデメリットを具体的に提示することで、頑なだった相手が「それなら任意売却に応じる」「適正価格で持分を買い取る」と態度を軟化させるケースは非常に多いです。

② 適正な評価額の算出と主張 代償分割(持分の買い取り)を行う際、不動産の価格をいくらに設定するかで揉めることがよくあります。弁護士は、不動産鑑定士や提携不動産業者と連携し、客観的かつ依頼者に有利な根拠資料を作成し、適正価格での解決を目指します。

③ 訴訟中での和解 仮に訴訟になったとしても、判決まで突き進むのではなく、裁判官を交えた「和解」を目指すことができます。裁判上の和解であれば、競売を避けつつ、強制力のある合意形成(調書判決)が可能です。

8. まとめ:不動産の価値を守るために、早めのご相談を

共有不動産の問題は、時間が経てば経つほど関係が悪化し、解決が難しくなります。 「形式的競売」という最悪のシナリオ(資産価値の毀損)を避けるためには、早い段階で法的な戦略を持って交渉にあたることが不可欠です。

当事務所では、不動産問題に精通した弁護士が、依頼者様の利益を最大化するための戦略を立案します。 「相手が話し合いに応じない」「自分の持分だけを現金化したい」「競売だけは避けたい」 どのような状況でも、解決の糸口は必ずあります。

まずは一度、当事務所の無料相談をご利用ください。あなたの不動産の価値を守るために、全力を尽くします。

よくある質問(FAQ)

Q. 相手が「絶対に売らない」と拒否していても、共有物分割請求はできますか?

A. はい、可能です。民法上、共有者はいつでも分割を請求する権利を持っています。相手が協議に応じない場合は、裁判所に対して共有物分割請求訴訟を提起することで、強制的に解決手続きを進めることができます。

Q. 形式的競売になると、市場価格よりどれくらい安くなりますか?

A. 物件の状況にもよりますが、一般的には市場価格(実勢価格)の6割〜7割程度になることが多いです。この価格差は共有者全員の損失となるため、できるだけ競売を避け、任意売却や代償分割で解決することをお勧めします。

Q. 弁護士費用はどれくらいかかりますか?

A. 一般的には、着手金と報酬金が発生します。金額は、対象となる不動産の価格や、依頼者様の持分の経済的利益によって変動します。当事務所では、初回相談時に明確なお見積もりを提示しておりますので、まずはお問い合わせください。

Q. 解決までにかかる期間はどれくらいですか?

A. 話し合い(交渉)でまとまれば数ヶ月で解決することもあります。訴訟になった場合は半年〜1年程度、さらに競売手続きまで進むとトータルで1年半〜2年近くかかる場合もあります。早期解決のためにも、早めの着手が重要です。

Q. 自分の持分だけを第三者に売却することはできますか?

A. 法的には可能ですが、共有持分のみを購入する第三者(不動産業者など)は、相場よりもかなり低い金額で買い取る傾向にあります。全体を売却して代金を分ける方が、手元に残る金額は多くなるケースがほとんどです。

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  ※ 本記事は、執筆日における法令、判例、実務に基づき作成しており、その後の法改正等に対応していない可能性があることをご了承ください。

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