兄弟間の相続不動産トラブルを解消!実家が共有名義になった時の共有物分割請求活用法
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弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士 保有資格:弁護士、経営革新等支援機関、2級FP技能士 東京弁護士会相続遺言部所属 |
はじめに
親が亡くなり、思い出の詰まった実家を相続することになったとき、多くの兄弟姉妹が直面するのが「実家の扱い」に関するトラブルです。
「とりあえず兄弟みんなの共有名義にしておこう」
相続手続きの際、争いを避けるためにそう判断したことが、数年後に「修復不可能な兄弟喧嘩」や「塩漬け不動産」の原因となってしまうケースが後を絶ちません。
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「兄が実家にタダで住み続けていて不公平だ」
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「弟にお金を払って買い取ってほしいと言われたが、そんな資金はない」
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「売りたいのに、姉だけが頑なに反対して話が進まない」
このように、話し合いが膠着状態(デッドロック)に陥ってしまった場合、感情的な議論を続けても解決への道筋は見えません。
そこで有効な解決策となるのが、法律で認められた権利である「共有物分割請求(きょうゆうぶつぶんかつせいきゅう)」です。
この記事では、兄弟間の実家トラブルを解決に導くための「共有物分割請求」の手続きや活用法、そして家族関係をこれ以上こじらせないためのポイントについて、不動産問題に強い弁護士が徹底解説します。
なぜ「実家の共有名義」は兄弟トラブルになりやすいのか?
そもそも、なぜ親子や夫婦の共有名義に比べて、兄弟間の共有名義はトラブルに発展しやすいのでしょうか。それには、兄弟ならではの「生活環境の違い」と「権利意識の変化」が深く関わっています。
1. 活用方針の違い(住みたい兄 vs 売りたい弟)
兄弟姉妹が成人し、それぞれ別の家庭を持っている場合、実家に対するニーズは全く異なります。
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兄(実家在住): 「愛着があるし、引っ越すのも大変だからこのまま住み続けたい(今の生活を変えたくない)」
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弟(持ち家あり): 「自分には家があるし、実家は古いから管理が面倒。早く売ってお金に換えたい」
このように利害が真っ向から対立するため、話し合いは平行線をたどりやすくなります。特に、実家に住んでいる側は「現状維持」でメリットを享受できているため、話し合いを先延ばしにする傾向があり、待たされている側の不満が募りやすいのです。
2. 維持費・管理の手間の不公平感
不動産を所有しているだけで発生するのが、固定資産税や都市計画税、火災保険料、そして庭木の剪定や修繕などの管理コストです。
法律上、これらの費用は「持分割合に応じて負担」するのが原則です。しかし実際には、以下のような不公平が生じがちです。
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実家に住んでいる兄が固定資産税を払っているが、家賃(使用対価)は払っていない。
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誰も住んでいない空き家なのに、近くに住む妹だけが草むしりや換気に行かされ、「なぜ私だけ?」と不満を抱く。
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遠方に住む弟が「俺は使っていないから税金は払わない」と支払いを拒否する。
こうした金銭や労力の小さな積み重ねが、やがて大きな感情的亀裂となります。
3. 放置するリスク(将来の権利関係の複雑化)
「今は揉めるのが嫌だから」と共有状態を放置することには、致命的なリスクがあります。それは**「数次相続(すうじそうぞく)」**の発生です。
もし、共有者である兄弟の誰かが亡くなると、その持分はその配偶者や子供(あなたにとっての甥や姪)に相続されます。共有者の人数が増え、関係性が希薄な親族が権利者として加わることで、話し合いによる合意形成は事実上不可能になります。
問題が「兄弟間」で収まっているうちに解決しなければ、実家は永久に処分できない「負動産」になりかねないのです。
解決の切り札「共有物分割請求」とは?
話し合いがまとまらない場合、最終的な解決手段となるのが「共有物分割請求」です。
共有関係を解消するための法的手続き
民法第256条第1項には、**「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる」**と定められています。
つまり、共有状態にある不動産を解消したい(自分の持分を現金化したい、または単独所有にしたい)と思った時、あなたは相手の同意がなくても、法的に分割を求めることができるのです。これは非常に強力な権利です。
「相手がハンコを押してくれないと何もできない」と思い込んでいる方が多いですが、共有物分割請求を行使すれば、相手がどれだけ拒否しても、最終的には裁判所の判断で強制的に解決(分割)まで進めることが可能です。
手続きの流れ(交渉 → 調停 → 訴訟)
共有物分割請求は、一般的に以下の3つのステップで進みます。
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協議(交渉): まずは当事者間、または弁護士を代理人として話し合いを行います。法的根拠に基づいた提案を行うことで、この段階で合意に至るケースも多くあります。
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調停(ちょうてい): 話し合いがまとまらない場合、裁判所に調停を申し立てます。調停委員という第三者を交えて解決策を探りますが、相手が出席しなかったり合意できない場合は不成立となります。 ※共有物分割請求は、調停を経ずにいきなり訴訟を起こすことも可能です。
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訴訟(裁判): 最終手段です。裁判所に対し「共有物分割請求訴訟」を提起します。裁判所が双方の事情を考慮し、判決によって分割方法を決定します。
実家の分け方には3つの方法がある
共有物分割請求において、実家を分ける方法は大きく分けて3つあります。兄弟間で揉めている場合、どの方法が現実的かを検討することが解決への第一歩です。
① 価格賠償(かかくばいしょう)
「誰かが家を取り、代わりにお金を払う」方法です。
例えば、兄が実家の所有権(弟の持分)をすべて取得し、その対価として弟に「適正な持分相当額の現金」を支払います。
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メリット: 実家を残せるため、住み続けたい人がいる場合に最適です。
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デメリット: 取得する側(兄)に、弟に支払うだけの現金(またはローンを組む能力)が必要です。
「住みたいけれど金は払えない」という主張は法的には通りません。この方法を目指す場合は、資金調達の目処が重要になります。
② 換価分割(かんかぶんかつ)
「売却して、現金を分ける」方法です。
実家を第三者に売却し、諸経費を差し引いた手残り金を、持分割合(例:2分の1ずつ)に応じて分配します。
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メリット: 金額が明確で、1円単位まで公平に分けられるため、後腐れがありません。
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デメリット: 実家が人手に渡るため、誰も住めなくなります。
双方が「実家はいらないから現金が欲しい」と考えている場合や、代償金を払う資力がない場合は、この方法が最も現実的な解決策となります。
③ 現物分割(げんぶつぶんかつ)
「物理的に不動産を分ける」方法です。
広い土地であれば、分筆して「右側は兄、左側は弟」と分けることができます。しかし、一軒家(建物)を物理的に真っ二つにすることは不可能です。
そのため、一般的な実家のトラブルにおいて、現物分割が採用されるケースは稀です。基本的には「代償分割」か「換価分割」のどちらかで決着をつけることになります。
【ケース別】兄弟トラブルを解決するための戦略
実家のトラブルは、相手の態度や状況によって最適なアプローチが異なります。弁護士の視点から、よくある3つのケースにおける解決戦略をご紹介します。
ケース1:相手が「絶対に売らないし、お金も払わない」と居座っている場合
最も厄介なケースです。「先祖代々の土地を守る」といった感情論や、「タダで住める場所を手放したくない」という経済的理由が背景にあります。
この場合、「このままでは『競売』になり、お互いに損をしますよ」という現実を突きつける交渉が有効です。
共有物分割訴訟で判決まで進んだ場合、価格賠償(買い取り)も現物分割もできなければ、裁判所は「競売(けいばい)」を命じます。競売になれば、一般的に市場価格よりも安くなることが多く、住んでいる相手も強制退去させられます。
「競売で安く買い叩かれて住む場所も失うよりは、任意売却(換価分割)に応じるか、適正価格で私の持分を買い取る(価格賠償)ほうが、あなたにとっても得策ではありませんか?」
このように、法的リスクを提示して交渉のテーブルに着かせることが、弁護士の常套手段です。
ケース2:相手が音信不通・無視する場合
疎遠な兄弟の場合、連絡を無視されたり、行方が分からなくなったりすることがあります。
しかし、相手からの反応がないからといって諦める必要はありません。弁護士に依頼すれば、戸籍の附票などを調査して現住所を特定し、内容証明郵便で「本気の通知」を送ることができます。
それでも反応がない、あるいは行方不明の場合でも、「公示送達」や「不在者財産管理人」といった制度を利用することで、相手の同意なしに裁判手続きを進め、判決を得て解決することが可能です。 「連絡がつかないから売れない」というのは誤解です。法的手続きを踏めば解決できます。
ケース3:相手から提示された買取金額が安すぎる場合
「お前の持分、100万円で買い取ってやる」などと、相場より著しく低い金額を提示されるケースです。
親族間だからといって、安値で妥協する必要はありません。不動産会社による査定書や、場合によっては不動産鑑定士による鑑定を用い、客観的な「時価」を主張しましょう。
共有物分割請求訴訟においては、裁判所が選任した鑑定人が評価額を算出するため、不当に安い金額で決着することはありません。適正な評価額をベースに交渉することで、正当な財産を受け取ることができます。
共有物分割請求を弁護士に依頼するメリット
兄弟間の話し合いは、過去の確執や感情が入り混じり、当事者同士だけでは冷静な判断ができなくなることがほとんどです。弁護士への依頼には、単なる手続き代行以上のメリットがあります。
1. 兄弟間の感情的な衝突を回避できる
弁護士が代理人に就くと、すべての連絡窓口は弁護士になります。あなたは相手と直接話す必要も、顔を合わせる必要もありません。 精神的なストレスから解放されるだけでなく、第三者が間に入ることで相手も冷静になり、話し合いがスムーズに進むようになります。
2. 「損をしない」適正な解決ができる
不動産の価格は一物四価(実勢価格、公示地価、路線価、固定資産税評価額)と言われ、非常に複雑です。相手に有利な評価額を使われないよう、どの価格基準を採用すべきか、法的に正しい主張を展開し、あなたの利益を最大化します。
3. スピード解決が望める
「いつか分かってくれるはず」と期待して数年も話し合いを続けるより、法的手続き(交渉〜訴訟)のレールに乗せた方が、結果的に解決までの期間は圧倒的に短くなります。 裁判所の手続きを利用することで、相手ものらりくらりと逃げることができなくなり、強制的に解決へと向かいます。
まとめ:実家の問題は先送りせず、早めに専門家へ相談を
兄弟間で実家の共有名義トラブルが発生した場合、時間が解決してくれることはまずありません。むしろ、建物の老朽化や新たな相続の発生により、事態は悪化する一方です。
「親が残してくれた家で、兄弟喧嘩なんてしたくない」
そう思うからこそ、感情的な対立が深まる前に、法的なルールに則ってドライに、かつ公平に解決することが、結果として兄弟関係のしこりを最小限に留める方法でもあります。
共有物分割請求は、あなたの財産権を守るための正当な手段です。 「相手が話し合いに応じない」「理不尽な要求をされている」とお悩みの方は、一人で抱え込まず、まずは不動産問題に詳しい弁護士にご相談ください。あなたの状況に合わせた最適な解決プランをご提案いたします。
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執筆者:弁護士小林洋介
