共有名義の不動産を売りたいが反対されている方へ。話し合いから「共有物分割請求」まで解決の全手順を弁護士が解説

共有名義の不動産を売りたいが反対されている方へ。話し合いから「共有物分割請求」まで、解決の全手順を弁護士が解説

執筆者:弁護士小林洋介

弁護士法人IGT法律事務所 

代表パートナー弁護士 保有資格:弁護士、経営革新等支援機関、2級FP技能士

東京弁護士会相続遺言部所属

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はじめに

「不動産を売りたいのに、共有者の一人が首を縦に振らない」。 これは共有名義の不動産において、決して珍しいトラブルではありません

話し合いが進まないまま放置すると、建物の老朽化や固定資産税の負担だけが続き、最終的には次の相続が発生して権利関係がさらに複雑化するリスクがあります。

本記事では、共有不動産トラブルの解決実績が豊富な弁護士の視点から、**任意の話し合い(任意売却)を最優先にしつつ、最終的な法的手段(調停・訴訟)まで見据えた「現実的な解決手順」**を解説します

反対者が一人でもいる場合、どうすれば売却を実現できるのか。実務の流れに沿って確認していきましょう。


1. なぜ「反対者が1人」いるだけで売却できないのか

まず、法律上のルールを整理します。 共有不動産全体の「処分(売却・取り壊し・大規模なリフォーム等)」を行うには、共有者全員の同意が必要です

つまり、たとえあなたが持分の99%を持っていたとしても、残り1%を持つ共有者が「NO」と言えば、不動産全体を売却することはできません。これが、共有名義の最大のデメリットであり、リスクです。

しかし、諦める必要はありません。法律は、こうした膠着状態を解消するために「共有物分割(きょうゆうぶつぶんかつ)」という制度を用意しています

「全員の同意がないと売れない」という原則から、「法的な手続きを使って、共有状態そのものを解消する」という発想へ切り替えることが、解決の出発点となります


2. ステップ1:まずは任意の合意形成を試みる(交渉フェーズ)

いきなり裁判をするのではなく、まずは「話し合い(交渉)」での解決を目指します。ここで重要なのは、感情論ではなく「メリットとデメリットの可視化」です。

2-1. 交渉の準備:「合意の土台」を作る

相手を説得するには、材料が必要です。以下の点を整理しましょう。

  • 重視するポイントの確認: 相手は「価格」にこだわっているのか、「住み続けること」が目的なのか、あるいは「税金」を気にしているのかを分析します

  • 選択肢の提示:

    1. 一括売却(換価分割): 全員で売って現金を分ける。

    2. 買取り(代償分割): 誰か一人が不動産を取得し、他の人に代償金を払う。

    3. 土地を分ける(現物分割): 広い土地の場合、物理的に分筆する

2-2. 相手を動かすための「材料」

口頭で「売ろう」と言うだけでは動きません。客観的なデータを提示します。

  • 査定の客観化: 1社だけでなく複数の不動産会社による査定書や根拠資料を用意します

  • 税務・コストの試算: 売却した場合の「手取り額(譲渡所得税を引いた額)」や、持ち続けた場合の「固定資産税・維持費」を数字で示します

  • 「価格×期限」のトレードオフ: 「時間をかければ高く売れるかもしれないが、維持費がかかる」「今なら早期に現金化できる」といった比較表を作成します

弁護士の実務知見 弁護士が介入する場合、「この案なら誰が・いつ・どれだけ得をする(損をする)か」をコンパクトにまとめた提案書を作成し、さらに合意書のドラフト(下書き)まで提示することがあります具体的なゴール(契約書案)が見えると、相手も検討のテーブルに乗りやすくなり、結果として時間と費用を最小限に抑えられるケースが多くあります


3. ステップ2:それでも合意できないときの「次の一手」

当事者同士の話し合いが平行線の場合、次の段階へ移行します。

3-1. 自分の「持分のみ」を売却する

不動産「全体」の売却には全員の同意が必要ですが、自分の「持分」だけであれば、自由に売却が可能です

  • 共有者への売却: 他の共有者に自分の持分を買い取ってもらう(価格賠償)

  • 第三者(買取業者)への売却: 持分買取を専門とする業者へ売却する。ただし、相場よりかなり安くなる(ディスカウントされる)傾向があります

安値での叩き売りを避けるためにも、安易に業者へ売る前に、後述する法的ルート(訴訟など)で「適正価格」での解決が見込めるかを確認することをお勧めします

3-2. 裁判所での調停

第三者(調停委員)を間に入れ、裁判所で話し合いを行いますお互いが感情的になってしまっている場合、第三者が入ることで冷静な議論が可能になることがあります。しかし、調停もあくまで「話し合い」であるため、相手が合意しなければ不成立(決裂)となります。その場合は、訴訟へ移行します

共有物分割請求の場合、このプロセスはスキップすることもできます。


4. ステップ3:訴訟で決着をつける(共有物分割請求訴訟)

話し合いも調停もダメだった場合の最終手段が「共有物分割請求訴訟(きょうゆうぶつぶんかつせいきゅうそしょう)」です。

これは、裁判所に対して「共有関係を終わらせるための分割方法を決めてください」と求める手続きです

4-1. 裁判所が決定する4つの解決方法

訴訟では、裁判所が以下のいずれかの方法を命じます(または和解を促します)。

  1. 現物分割(げんぶつぶんかつ) 土地を分筆して物理的に分ける方法です。建物がある場合や、分割すると価値が下がる場合は選ばれません

  2. 代償分割(だいしょうぶんかつ) 「単独化の王道」です。一人が不動産を取得し、他の共有者に代償金(現金)を支払います

  3. 換価分割(かんかぶんかつ) 競売などで売却し、その代金を全員で分けます。市場価格より安くなるリスクがあるため、慎重な損益試算が必要です

  4. 全面的価額賠償(ぜんめんてきかがくばいしょう) 特殊な代償分割の一種です。判決により、相手の持分を強制的に取得させます。交渉で拒否され続けても、適正対価を支払うことで単独化を実現できる可能性があり、実務上の重要な手段です

4-2. 期間と見通し

事案によりますが、多くのケースは1年以内に収束する可能性が高いです

また、判決まで行かずとも、訴訟の期日の中で条件(金額や時期)を詰め、和解で解決するケースも少なくありません


5. ケース別:反対者がいる場合の攻略法

状況によって、効果的なアプローチは異なります。

【ケース1】相手がその家に住んでいて強硬に反対している

最も難航しやすいケースです。

  • アプローチ: 相手が取得する「代償分割」を主軸にします。相手に資力(ローンや現金)があるかを確認し、実現可能な資金計画を提案します

  • 解決の鍵: 「住み替えの猶予期間」を設けたり、「引越し費用の一部補助」を条件に織り込んだりすることで、合意率が上がることがあります

【ケース2】空き家・老朽化しており維持費が重い

  • アプローチ: 「早期換価(任意売却)」を主軸にします。「高く売りたい」という希望があっても、維持費がかさめば手残りは減ります。「価格×期限」のトレードオフを明確にし、意思統一を図ります

  • 競売への誤解を解く: 「競売=悪」と考える人もいますが、必ずしも二束三文になるわけではないという実務知見を共有し、選択肢を広げます。とくに昨今の東京都内の競売では、物件によっては高値での売却も期待できます。

【ケース3】相手が連絡不通、または消極的

  • アプローチ: 内容証明郵便の送付や弁護士による代理交渉で連絡を試みます。それでも反応がなければ、速やかに訴訟へ移行します。ここは時間をかけるべきではなく速やかに訴訟に移行することがポイントです。

  • 解決の鍵: 訴訟上の和解において、「期限」「金額」「引渡し条件」をパッケージ化して提示すると、解決(着地)しやすい傾向があります


6. まとめ:共有不動産トラブル解決の実務フロー

最後に、解決までの全体像を整理します

  1. 任意交渉(第一優先): 査定・税務・期限を整理した「提案書」と「合意書案」を作成し、メリットのある解決を目指します。

  2. 調停: 第三者の関与を得て、訴訟コストを回避しつつ合意を探ります。

  3. 訴訟(共有物分割請求): 代償分割や全面的価額賠償など、法的な強制力を背景に解決を図ります。実務では和解による解決も多く見られます。

「相手が反対しているから売れない」と諦める必要はありません。法的な手続きを踏めば、必ず解決の出口は見つかります。

重要なのは、「今の状況でどの手段を取るのが、時間的・金銭的に最も合理的か」を見極めることです。

共有不動産の売却は、法律知識だけでなく、不動産取引の慣習や税務の知識も必要となる高度な分野です。

当事務所では、初期の診断から交渉、訴訟に至るまで、共有不動産トラブルの解決に特化したサポートを行っております。

「話し合いが進まない」「相手と顔を合わせたくない」という方は、まずは一度ご相談ください。あなたの状況に合わせた最適な「解決のシナリオ」をご提案します。


よくある質問(FAQ)

Q1. 相手が反対しているのに、本当に売却できるのですか?

A. はい、可能です。共有物分割請求訴訟を行えば、最終的に裁判所が分割方法(売却して現金を分ける、など)を決定します。また、訴訟の過程で和解により合意に至るケースも一般的です

Q2. いきなり競売になって安く買いたたかれてしまいませんか?

A. すぐに競売になるわけではありません。まずは任意売却の交渉を行います。訴訟になっても、全面的価額賠償や代償分割といった、競売以外の解決方法も十分に可能です。また、昨今の東京都内の競売の状況では、高値で売却することも期待できます。

Q3. 相続で共有になったばかりの不動産でも同じ手続きですか?

A. 相続直後の「遺産共有」の段階では、まず「遺産分割」が優先される場合があります。その後の状況によって、共有物分割の枠組みが使えるようになりますので、まずは現在の権利状態の確認が必要です

※ 本記事は、執筆日における法令、判例、実務に基づき作成しており、その後の法改正等に対応していない可能性があることをご了承ください。

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