共有者と連絡が取れない/所在不明でも可能?共有物分割の手続と注意点
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弁護士法人IGT法律事務所 代表パートナー弁護士 保有資格:弁護士、経営革新等支援機関、2級FP技能士 東京弁護士会相続遺言部所属 |
「相続した実家を売却したいが、共有者の一人と連絡がつかない」 「何年も会っていない親族が共有者に含まれており、居場所さえわからない」 「固定資産税を自分だけが負担し続けており、この状況を早く解消したい」
不動産などの財産を複数人で共有している場合、このようなお悩みをお持ちの方は少なくありません。共有状態の不動産は、共有者全員の合意がなければ売却や大きな変更を加えることができず、たった一人の共有者と連絡が取れないだけで、資産が「塩漬け」になってしまうリスクがあります。
結論から申し上げますと、共有者と連絡が取れない、あるいは所在が不明であっても、法的な手続きを踏むことで共有状態を解消(共有物分割)することは可能です。
特に2023年(令和5年)4月の民法改正により、所在不明の共有者がいる場合の解決手段が新設され、以前よりもスムーズに解決できるケースが増えています。
この記事では、共有者の所在がわからない場合の具体的な調査方法から、従来の「不在者財産管理人」制度、そして最新の「所在等不明共有者の持分取得・譲渡制度」、最終的な手段としての「共有物分割請求訴訟」まで、IGT法律事務所が専門家の視点で詳しく解説します。
1. なぜ「共有者との連絡」が重要なのか?放置するリスク
まず、なぜ共有者全員との連絡が不可欠なのか、そして放置した場合にどのようなリスクがあるのかを整理しましょう。
全員の合意がないと「変更・処分」ができない
民法上、共有物の扱いはその行為の性質によって必要な同意要件が異なります。
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保存行為(修理など): 各共有者が単独で可能
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管理行為(賃貸借契約の締結・解除など): 持分の過半数の同意が必要
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変更・処分行為(売却、大規模なリフォーム、建物の取り壊しなど): 共有者全員の同意が必要
つまり、たった一人でも所在不明者がいると、不動産を売ることも、家を取り壊して更地にすることもできません。
放置することのリスク
この膠着状態を放置すると、以下のようなリスクが増大します。
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建物の老朽化と近隣トラブル: 管理不全により建物が倒壊したり、草木が生い茂ったりして近隣に損害を与えた場合、共有者全員が責任を問われます(土地工作物責任)。
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固定資産税の負担: 所在不明者は税金を払わないため、連絡が取れる共有者が全額を立て替え続けなければならないケースが多発します。
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相続の複雑化: 解決しないまま時間が経過すると、さらに次の相続が発生し、共有者の人数がねずみ算式に増え(数次相続)、権利関係が極めて複雑になります。
したがって、「連絡が取れないから」と諦めて放置するのではなく、早期に法的な解決を図ることが重要です。
2. ステップ1:所在調査(行方不明者の探索)
「連絡が取れない」といっても、単に電話に出ないだけなのか、完全に居場所がわからないのかによって対応が異なります。まずは、本当に所在不明なのかを調査する必要があります。
住民票や戸籍の附票の取得
弁護士などの専門家であれば、職務上請求により、対象者の住民票や戸籍の附票を取得し、現在の住民登録地を調査することが可能です。転居届が出されていれば、新しい住所が判明します。
現地調査と近隣への聞き込み
住民票上の住所に実際に住んでいるとは限りません。現地へ赴き、表札の確認、郵便受けの状況(郵便物が溜まっていないか)、電気・ガスメーターの稼働状況などを確認します。また、近隣住民や親族への聞き込みも有効な手段です。
これらの調査を行ってもなお、居場所が特定できない場合、法的には「所在不明」として次のステップへ進むことになります。
3. ステップ2:法的手続きによる解決策
所在不明であることが確定した場合、解決策は大きく分けて以下の3つのパターンがあります。
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不在者財産管理人を選任する(従来の方法)
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所在等不明共有者の持分取得・譲渡制度を利用する(新制度)
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公示送達を利用して共有物分割請求訴訟を行う(裁判)
それぞれの特徴とメリット・デメリットを解説します。
方法①:不在者財産管理人を選任する
従来からある最も一般的な方法です。家庭裁判所に申し立てを行い、行方不明になった人(不在者)の代わりに財産を管理する「不在者財産管理人」を選任してもらいます。
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手続き: 不在者の従来の住所地などを管轄する家庭裁判所に申し立てます。
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管理人の役割: 財産の管理を行います。不動産を売却(処分)するには、さらに裁判所の許可(権限外行為許可)が必要です。
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メリット: 法律的に安定した手続きであり、後々の紛争リスクが低い。
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デメリット:
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予納金: 管理人の報酬や経費として、数十万円〜100万円程度の予納金を裁判所に納める必要がある場合があります。
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時間: 選任や許可に数ヶ月〜半年以上の時間がかかります。
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継続性: 基本的に不在者が見つかるか死亡が確認されるまで管理が続くため、一回限りの売却のためだけに利用するにはハードルが高い場合があります。
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方法②:【重要】所在等不明共有者の持分取得・譲渡制度(2023年4月施行)
2023年の民法改正により新設された、所在不明の共有者がいる場合に特化した非常に強力な制度です。これにより、不在者財産管理人を選任せずとも、不動産の共有関係を解消しやすくなりました。
この制度には大きく分けて2つのパターンがあります。
(A) 所在等不明共有者の「持分取得」制度
特定の共有者が、裁判所の決定を得て、所在不明者の持分を「時価相当額」の供託金を納めることで取得できる制度です。
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活用シーン: 所在不明者の持分を買い取り、自分の単独所有にしたい場合。
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メリット: 手続きが比較的迅速で、不動産全体を自分のものにできる。
(B) 所在等不明共有者の「持分譲渡」制度
共有者全員で不動産全体を第三者に売却する場合に、裁判所の決定を得て、所在不明者の持分を含めた「全体の売却権限」を特定の共有者に付与する制度です。
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活用シーン: 共有者全員の同意が必要な「不動産全体の売却」を行いたい場合。
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メリット: 第三者への売却がスムーズに進む。売却代金のうち、所在不明者の取り分は供託します。
<新制度の注意点>
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これらの制度を利用するには、「必要な調査を尽くしても氏名や所在がわからない」ことの疎明(証明)が必要です。
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裁判所が決定した「時価」相当額の金銭を準備(供託)する必要があります。
方法③:共有物分割請求訴訟(公示送達の利用)
共有状態の解消そのものを目的として、裁判所に訴訟を起こす方法です。被告となる共有者の住所がわからない場合、「公示送達」という手続きを利用します。
公示送達とは? 裁判所の掲示板に「呼び出し状」などを掲示することで、相手方に書類が届いたとみなす制度です。これにより、相手が欠席のままでも裁判を進めることができます。
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判決の内容:
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現物分割: 土地を分筆して分ける。
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競売分割: 不動産を競売にかけ、代金を分ける。
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価格賠償: 誰かが不動産を取得し、他の共有者に対価を支払う。
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メリット: 最終的な解決(共有関係の解消)が確実に図れる。
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デメリット: 競売になった場合、市場価格より安くなる可能性がある。
4. どの手続きを選ぶべきか?ケーススタディ
状況によって最適な手続きは異なります。IGT法律事務所では、依頼者様のゴールに合わせて戦略を提案します。
ケースA:「この家を守りたい。不明者の持分を買い取りたい」
おすすめ:新制度「所在等不明共有者の持分取得」 他の共有者がその不動産に住み続けたい場合などに有効です。不明者の持分相当額を用意できれば、裁判所の決定により単独所有(または残りの共有者での共有)にできます。
ケースB:「とにかく不動産を売ってお金に換えたい」
おすすめ:新制度「所在等不明共有者の持分譲渡」 または 共有物分割請求訴訟(競売・価格賠償) 買い手が見つかっている場合は「持分譲渡」制度がスムーズです。買い手が決まっていない、あるいは他の共有者とも揉めている場合は、訴訟による解決が適しています。
ケースC:「行方不明者が多数おり、相続関係も不明確」
おすすめ:不在者財産管理人 + 遺産分割など 権利関係が極めて複雑な場合は、個別の持分処理ではなく、包括的な管理人が必要になることがあります。
5. 専門家(弁護士)に依頼するメリット
共有者不明の案件は、ご自身で進めるには非常にハードルが高い手続きです。
1. 徹底した所在調査力 「所在不明」として裁判所に認めてもらうためには、戸籍の調査だけでなく、現地調査報告書や不在住証明書など、徹底した調査の証拠が必要です。調査が不十分だと、申立てが却下されるリスクがあります。
2. 複雑な裁判所手続きの代行 新制度の申立てや、不在者財産管理人の選任、訴訟手続きには、膨大な書類作成と厳格な手続きが求められます。また、裁判所が定める「供託金(時価相当額)」の算定において、不動産鑑定士との連携や、適正な価格の主張立証も重要です。
3. 最適な解決策の判断 2023年の法改正により選択肢が増えた分、「どの制度を使うのが最もコストパフォーマンスが良いか」の判断が難しくなっています。弁護士は、費用対効果や時間的コストを考慮し、最短ルートを提案します。
6. まとめ:諦める前に、まずはご相談ください
共有者と連絡が取れない状態を放置することは、問題の先送りにしかなりません。建物が倒壊するリスクや、子や孫の代に負の遺産を残してしまうリスクを考えると、今、このタイミングで動き出すことが最も賢明な選択です。
現在は法改正により、以前よりも柔軟かつスピーディーに解決できる道が開かれています。「行方不明だから無理だ」と諦めず、まずは可能性を探ってみませんか?
IGT法律事務所では、不動産問題や共有物分割に強い弁護士が、所在調査から法的手続きの完了までをワンストップでサポートいたします。
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共有者の居場所がわからず困っている
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他の弁護士に「難しい」と断られた
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新しい制度を使って早く売却したい
このようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、当事務所の無料法律相談をご利用ください。あなたの財産を守り、未来の不安を取り除くために、全力を尽くします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 手続きにはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 早くて半年、事案によっては1年以上かかることもあります。 手続きの種類によりますが、まず所在調査に1〜2ヶ月程度かかります。その後、裁判所への申し立てから決定(または判決)が出るまでに、早ければ数ヶ月ですが、通常は6ヶ月〜1年程度を見込んでおくのが無難です。 不在者財産管理人を選任する場合や、争いがある場合はさらに時間がかかることもあります。早期解決のためには、着手が早ければ早いほど有利です。
Q2. 費用はどれくらいかかりますか?
A. 「弁護士費用」と「実費・供託金」の2種類が必要です。 費用は大きく分けて、弁護士に支払う報酬と、裁判所等にかかる費用があります。
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弁護士費用: 事案の難易度や不動産の価格によりますが、着手金と報酬金を合わせて数十万円〜程度が一般的です。
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実費・供託金: 印紙代や切手代に加え、裁判所が決定した「予納金(管理人の報酬等)」や、新制度を利用して持分を取得する場合は「時価相当額の供託金(不動産価格に応じた金額)」を法務局に預ける必要があります。 具体的な見積もりは、不動産の評価額によって異なりますので、まずは無料相談にて概算をお伝えいたします。
Q3. 調査の結果、もし共有者が見つかった場合はどうなりますか?
A. その共有者と直接交渉を行うことになります。 所在調査によって連絡先が判明した場合は、「所在不明」ではなくなるため、裁判所の手続き(不在者財産管理人や新制度)は利用できません。 その代わり、弁護士が代理人としてその共有者に連絡を取り、持分の買い取りや売却への同意を求める「任意の交渉」を行います。相手が見つかったことで、かえって話がスムーズに進むケースも多々あります。
Q4. 手続きが終わった後に、行方不明だった人が戻ってきたらどうなりますか?
A. 法的な手続きを経ていれば、不動産の所有権が覆ることは原則ありません。 裁判所の決定を経て、供託金を納付して持分を取得(または売却)した場合、その効力は法的に確定します。 もし後日、行方不明だった人が戻ってきたとしても、その人は不動産の所有権を取り戻すことはできず、供託されている金銭(自分の持分相当額)を受け取る権利を持つに留まります。したがって、「後で揉めるのではないか」という心配はありません。
Q5. 自分で手続きすることはできますか?
A. 可能ですが、非常に複雑でハードルが高いのが現実です。 ご自身で裁判所に申し立てを行うことも法律上は可能です。しかし、戸籍を読み解いて相続人を確定させる作業や、警察や行政への照会を含む厳格な所在調査報告書の作成、さらに裁判所も納得する法的な主張書の作成は、専門的な知識がないと非常に困難です。 不備があると申し立てが却下されることもあるため、時間と労力を考慮すると、専門家である弁護士に依頼することを強くお勧めします。
※ 本記事は、執筆日における法令、判例、実務に基づき作成しており、その後の法改正等に対応していない可能性があることをご了承ください。
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執筆者:弁護士小林洋介
