目次
- 1 【非上場株式の遺産分割】トラブル回避の全手順|弁護士が徹底解説
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【非上場株式の遺産分割】トラブル回避の全手順|弁護士が徹底解説
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「後継者である自分と、現金が欲しい他の兄弟とで話がまとまらない…」
「そもそも、この会社の株は一体いくらの価値があるんだ?」
ご家族が遺した財産の中に「非上場株式」が含まれていた場合、遺産分割は非常に複雑で、深刻なトラブルに発展しがちです。
上場株式と違って市場価格がなく、簡単に売却することもできないため、評価方法や分割方法をめぐって相続人間の意見が対立しやすいのです。
最悪の場合、家族関係に亀裂が入り、会社の経営そのものが揺らぎかねません。
この記事では、非上場株式の遺産分割でつまずきやすいポイントを整理し、実務的な手続きの流れから、株価の評価方法、具体的な分割方法、そして円満解決のための交渉術や生前の対策まで、網羅的に解説します。
はじめに:なぜ「非上場株式」は遺産分割で揉めやすいのか
非上場株式の相続が難航する理由は、主に以下の3つのハードルがあるからです。- 価値が分かりにくい(評価の壁):上場株式のように誰もが知る株価が存在しないため、「この株式にいくらの価値があるのか」という評価額そのものが最初の争点になります。
- 分けにくい・売りにくい(分割・換金の壁):預貯金のようにきれいに割り算できず、現金化しようにも買い手がすぐに見つかりません。多くの非上場株式には「譲渡制限」が付いており、会社の承認なしには売却できないルールも大きな障壁となります。
- 利害が対立しやすい(経営の壁):事業を継ぐ相続人は、経営権の安定のために株式を集中させたいと考えます。一方、経営に関わらない相続人は、株式よりも公平な現金を求める傾向があります。この根本的な利害の対立が、話し合いを複雑にするのです。
全体像:非上場株式の遺産分割・実務フロー
非上場株式の遺産分割は、複数のタスクを並行して進める必要があります。全体的な流れは以下の通りです。- 資料収集:会社の定款、株主名簿、決算書など、評価と手続きに必要な資料を集めます。
- 株価評価:専門家も交え、会社の株式価値を算定します。
- 遺産分割協議:評価額を基に、誰がどの財産をどのように相続するかを話し合います。
- 譲渡承認・買取交渉:株式を特定の相続人や第三者に移す場合、会社法上の手続きを進めます。
- 合意・名義書換:遺産分割協議書を作成し、株式の名義を新しい株主に変更します。
ステップ1:株価の評価 ― すべての交渉はここから始まる
非上場株式の評価額は、相続人間の公平を測るための最も重要な基準です。しかし、決まった価格がないため、その算定方法が最大の争点となります。最初に集めるべき資料
正確な評価のため、まずは以下の資料を準備しましょう。会計資料が評価の土台となり、税理士や公認会計士、不動産鑑定士といった専門家の協力が必要になることもあります。
- 会社の定款:株式の譲渡制限に関する規定を確認します。
- 株主名簿:誰がどれだけ株式を保有しているかを確認します。
- 商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
- 直近3年分の決算書および法人税申告書一式
- 固定資産台帳や不動産の評価関係書類(路線価図、固定資産税評価証明書など)
株価の主な評価方法
遺産分割で用いられる評価方法は、法律で厳密に定められているわけではありません。原則として、相続人全員の合意で決まりますが、一般的に以下の3つの手法が参考にされます。
- 純資産価額方式:会社の総資産から負債を差し引いた純資産を基に評価する方法。帳簿上の価格ではなく、資産を時価に評価し直すため、含み益のある不動産などを持つ会社では評価額が高額になりがちです。
- 類似業種比準方式:事業内容が似ている上場企業の株価などを参考に、会社の「配当」「利益」「純資産」を比較して評価する方法。客観性は高いですが、計算が複雑になります。
- 配当還元方式:会社の過去の配当実績を基に評価する方法。一般的に、他の方式に比べて評価額は低くなる傾向があります。
一方で、遺産分割で用いる評価額は、相続人間の実質的な公平を目的とする「時価」です。
相続税評価額を参考にしつつも、必ずしもそれに縛られる必要はなく、当事者間の合意が最優先されます。
評価額で揉めたら?裁判所の活用も視野に
どうしても相続人間で評価額の合意ができない場合、家庭裁判所の遺産分割調停・審判に移行します。その中で、裁判所が選任した鑑定人(公認会計士など)が客観的な評価を行うことがあります。これを「株式鑑定」といいます。また、後述する株式の買取請求などに関連して、裁判所に「公正な価格」を決めてもらう手続き(価格決定申立て)を利用することも有効です。
これらの法的手続きを通じて客観的な“価格の基準線”を示すことで、膠着した交渉を前進させるきっかけになります。
ステップ2:分割方法の選択 ― 誰が、どのように引き継ぐか
株式の評価額の目処が立ったら、次に具体的な分け方を決めます。主な方法は4つあり、それぞれにメリット・デメリットが存在します。- 代償分割(最も現実的な選択肢) 後継者など特定の相続人が株式をすべて相続し、その代わりに他の相続人に対して法定相続分との差額を現金で支払う(代償金を支払う)方法。事業承継を円滑に進めつつ、他の相続人の公平も保てるため、最も多く用いられます。
- 課題:代償金の額(株価評価)で揉めやすい点と、後継者に代償金を支払う資力が必要な点です。
- 換価分割 株式を会社自身や第三者に売却して現金化し、その現金を相続人間で分ける方法。
- 課題:前述の通り、非上場株式の買い手を見つけるのは極めて困難です。会社による自己株式取得が現実的ですが、会社に十分な資金と法律上の要件がなければ実行できません。
- 現物分割(非推奨) 株式そのものを、複数の相続人に法定相続分などに応じて分け合う方法。
- 課題:経営に関心のない相続人にも株式が分散し、経営の意思決定が不安定になります。将来、さらなる相続が発生すると権利関係が複雑化し、より大きな紛争の火種となるため、通常は避けるべき方法です。
- 共有分割(非推奨) 一つの株式を複数の相続人が共有名義で相続する方法。これも現物分割と同様に権利関係が複雑化し、議決権の行使などが困難になるため、暫定的な措置としても推奨されません。
ステップ3:手続きの実行 ― 「名義書換」の壁
分割方法が決まっても、非上場株式特有の手続きが待ち受けています。名義書換の落とし穴:どこに・何を提出するか
遺産分割協議が成立したら、株式の名義を被相続人から相続人へ変更する「名義書換」を行います。上場株式は証券会社が窓口ですが、非上場株式は発行会社自身(または株主名簿管理人)に直接請求します。
遺産分割協議書、戸籍謄本一式、印鑑証明書など、会社所定の書類を不備なく揃える必要があります。
書類の整合性が取れていないと手続きが滞り、その後の配当金の受け取りや譲渡承認手続きにも影響が出るため、初動で必要書類と提出先を正確に特定しておきましょう。
ステップ4:交渉と紛争解決 ― トラブル事例と対処法
話し合いがこじれてしまった場合の典型的なトラブルと、その対処法を知っておきましょう。- ケース1:少数株主として“塩漬け”にされてしまう 少数の株式を相続したものの、配当はほとんどなく、経営にも口出しできない。さらに会社に買い取ってもらおうとしても、不当に安い価格を提示される――。このように、株式の価値を実質的に享受できない状態を「少数株主の閉じ込め(塩漬け)」と呼びます。
- 対処法:第三者への売却を検討し、譲渡承認請求と、承認されない場合の買取請求、価格決定申立てするという一連の法的手続きを適切に実行することが、正当な権利を実現するための道筋です。
- ケース2:兄弟間の感情的な対立で交渉が長期化する 「兄さんばかり優遇されている」「親の会社なのだから、自分にも相応の権利があるはずだ」。経営権や代償金をめぐり、過去の不満も相まって感情的な対立に発展するケースは後を絶ちません。
- 対処法:当事者同士での解決が難しい場合は、弁護士など客観的な第三者を代理人に立てることが有効です。法的な根拠に基づき、冷静に交渉を進めることで、感情的な対立を排し、現実的な妥協点を探ることができます。
- ケース3:会社が買取を提示するも、金額が不当に低い 会社が買取に応じる姿勢を見せても、その提示額が純資産などから見て明らかに低すぎる場合があります。
- 対処法:ここでも、裁判所の価格決定申立てが強力な武器となります。裁判所は、資産状況や収益性など「その他一切の事情」を考慮して公正な価格を判断するため、不当な買い叩きを防ぐことができます。
最善の策は「生前対策」にあり
相続が発生した後の紛争を避けるためには、経営者自身が生前のうちに対策を講じておくことが最も効果的です。- 遺言書の作成:「後継者である長男に全株式を相続させる」といった内容の遺言書を公正証書で作成しておくことで、遺産分割協議を経ずにスムーズな事業承継が可能になります。他の相続人の遺留分(最低限保障される相続分)に配慮し、代償金や納税資金として生命保険金を活用する設計も有効です。
- 生前贈与:後継者に計画的に株式を生前贈与していく方法です。税負担を軽減する「事業承継税制」などの特例も活用できます。
- 定款の見直し:相続人同士で売買する場合の価格決定方法を定款で定めておく(属人的株式の設計)など、将来の紛争を予防する仕組みをあらかじめ組み込んでおくことも考えられます。
- 種類株式の設計:経営者候補でない相続人には、無議決権株式などを設計し、これを相続させることで、財産承継と経営権の承継のバランスを確保することができます。
【保存版】非上場株式の遺産分割・実務チェックリスト
最後に、実際に行動するためのチェックリストをまとめました。ご自身の状況と照らし合わせてご活用ください。□ 初動フェーズ(相続開始後~1か月)
- [ ] 定款、株主名簿、決算書、不動産関係書類を収集したか?
- [ ] 定款で株式の譲渡制限の有無を確認したか?
- [ ] 会社の株式名義書換の担当窓口と必要書類を確認したか?
- [ ] 税理士や会計士に連絡し、株式評価の方針について相談したか?
- [ ] 複数の評価方法を試し、評価額の「相場観」を把握したか?
- [ ] 代償分割、換価分割など、分割方法のメリット・デメリットを比較検討したか?
- [ ] 会社側が自己株式取得に応じる資力や意向はあるか?
- [ ] 譲渡承認請求や買取請求の期限を管理できているか?
- [ ] 交渉が決裂した場合の、裁判所の価格決定申立ての準備はできているか?
- [ ] 第三者への売却も視野に入れ、買い手候補を検討しているか?
- [ ] 遺産分割協議書に、全相続人が署名・実印押印したか?
- [ ] 名義書換、代償金の支払い、相続税申告などの手続きを漏れなく行ったか?
まとめ:評価・譲渡承認・交渉の三位一体で、円満解決を目指す
非上場株式の遺産分割は、①客観的な株価評価、②会社法の手続理解、③相続人間の粘り強い交渉、この3つを一体として進めることが成功の鍵です。各ステップには専門的な知識が必要であり、手続きのどこか一つが滞るだけで、全体がストップしてしまいます。
当事者だけで解決しようとすると、感情的な対立から時間と労力だけが過ぎていき、家族関係にも、会社経営にも、取り返しのつかないダメージを与えかねません。
相続財産に非上場株式が含まれていることが分かったら、できるだけ早い段階で、相続問題と会社法務に精通した弁護士に相談することをお勧めします。
専門家が客観的な視点から工程を整理し、交渉を代理することで、納得のいく円満な解決への道筋が拓けるはずです。
※ 本記事は、執筆日における法令、判例、実務に基づき作成しており、その後の法改正等に対応していない可能性があることをご了承ください。
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